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 潜伏生活の退屈さといったらなかった。

 午前中に一時間も働かないうちにやることがなくなる。

 それからは面白みのない隠れ家でずっと待機していないといけない。

 残業は嫌だと思っていたけど、仕事を与えられずに牢獄の中で過ごすかのような時間はなかなかの苦痛だった。

 十四歳になってからこの苦痛と闘っているキュテラを素直にすごいと思う。


 そんなことを考えながら筋トレをして一晩を乗り切り、国王派の集まりがある朝を迎える。


「よし、行こう」


 ティリアの作ってくれた食事を取り、変化の仮面で変身し、旅人のマントを羽織って隠れ家を出発した。


 昨日マントを隠した路地へジグザグに飛んで行く。

 道すがら街の様子を窺うけど、国王派らしき一団は見られない。

 路地へ到着して、マントを脱いで置いていく。

 垂直に飛び上がって屋上へ。


「うわっ、風が違う……」


 昨日、屋根の上で感じた風は穏やかだった。

 今日は、荒々しい風がピンクのツインテールを巻き上げるほどだ。

 空は黒々と曇り、波乱の予感がする。


「探そう」


 ティリアと同じ方法で魔神の目を飛ばす。

 街の隅から隅へ、俯瞰を飛ばす。

 王宮の正門前で、黒装束の集団を見つけた。

 スレイヤの姿もある。


「あ」


 スレイヤの姿を見つけたとき、血が沸き立った。


「ヤバイかも」


 キュテラの苦しむ姿がフラッシュバックして、拳に力が入る。

 一暴れで済まないかもしれない。


「でも、行かなきゃ」


 子供たちからもらった情報を無駄にするのは理想的魔法少女に反する。

 よって、国王派の集会への突入は確定した。

 民家の屋根を壊さない程度に蹴って、私は王宮の正門へ跳躍する。


「女王よ! これが最終勧告だ! 不埒な行いを認め、国王を正当な元首とせよ!」

「国王を元首とせねば、最強の巨人をもって近衛兵ともども女王を粉砕するのみ!」

「かの英雄のように! 踏み潰されたくなければ」


 王宮の正門前で国王派の集団と王宮の兵士が垣根を連ねて対峙している。

 お互いに武装しており、一触即発の状態だった。


 私はと言えば、勢いよく飛んだために正門を越えそうになっていた。


「エアウォール!」


 が、魔法で足場を作って、それを蹴って方向転換する。

 喚き散らす集団の前に着地した。


「踏み潰されたくなければ、なんです?」

「うお、英雄ピンク!」

「な、お前は……!」


 王宮の兵士には純粋に驚かれ、国王派からは驚愕を引き出せた。

 私はゆっくりと立ち上がってから、国王派の集団を眺める。

 集団の後ろで気配を殺すように立っているスレイヤと目が遭った。

 スレイヤは憎々しげに私を見返す。

 どうやら、英雄ピンクの登場は都合が悪いらしい。


「女王陛下を脅迫するとは大それたことをしましたね。これ以上続けるなら、力尽くで排除しますけど?」

「ふんっ! やられた腹いせがしたいだけだろう! ならば再び血まみれになってもらうまで! いけ、スレイヤ!」


 国王派のリーダーらしき男が、スレイヤの名を呼んだ。

 自分では戦わないらしい。


「お呼びで」

「ああ、いつぞやのように力の差を見せつけてやるのだ」

「今日は、騒乱を起こさないという話だったのでは?」

「そのつもりだったが、この英雄ピンクだけは折らねばならない。女王派も女神派もこいつが心の支えになっている」

「目障りだと?」

「そうだ」

「承知した」


 黒服の集団が割れて剣を携えたスレイヤが前に出る。

 以前のような挑発的な笑みも、怒りを湛えた表情もない。

 ただ言われたままに動くゴーレムのようだった。


「逆に、国王派のスレイヤを倒せば、そちらの希望がなくなるという理解でいい?」

「ふん、たわけたことを。お前にスレイヤは倒せん。以前のようにな!」


 国王派のリーダーは人の背中の後ろで吼えるのが得意らしい。

 口が減らない人間の相手はしないに越したことはない。

 それに、本当に用があるのはスレイヤの方だった。


「ここで戦うのか?」

「いえ、場所は変えます」


 正門を守る迷惑顔の衛兵に答え、私はスレイヤの懐へ一瞬で飛び込んだ。

 剣を抜く間も許さず、胸ぐらと襟首を掴んで巻き上げる。


「なっ!」

「どおりゃああああいっ!」


 投げ飛ばした。

 バカ高く。


「なんて力だ! 人間とは思えない!」

「魔神の恵みの使い方が間違っている! 貴族じゃないぞ!」

「山奥に出ると言われるベアギウサに似ている!」


 などと、国王派にさんざん言われながらも、全部無視。

 跳躍してスレイヤを追った。


「ベアギウサ! 懐かしいなー」


 なお、ベアギウサとは、白い兎の顔をした熊のモンスターだ。

 可愛らしい顔をしながら凶暴で、山に入った人間を片っ端から食い散らかしている。

 ちなみに、私とキュテラは十歳のときに力を合わせて討伐しているけど。


 懐かしい思い出がよぎりそうになるのを我慢して、スレイヤに集中する。

 スレイヤは投げ飛ばされても冷静で、鞘から抜いた剣を下段に構えていた。


 振った。

 剣の軌跡に白光の斬像が見える。


「は? なにそれ!」


 私はとっさに魔神の爪を召喚して光の斬撃へぶつけた。

 ガキィンと刃のぶつかり合う音が響く。

 理解できたことは少ない。

 スレイヤが剣に奇跡の光を集めて飛ばしてきたということ。

 聖者と剣士のマスターであること。

 この二つくらいだ。


「あいつ、神官もマスターしてる? 国王派は貴族の集まりじゃないの?」


 聖者へ転職するには神官と運任せをマスターする必要がある。

 貴族の職業としては魔法使いがメジャーだ。

 神官になった貴族を寡聞にして知らない。


 スレイヤは一撃目を防がれたと知ると、斬光を連発してきた。


「剣一本で人が変わったように、か。納得!」


 魔神の爪で飛刃を弾きながら、魔法で足場を作る。


「エアウォール!」


 空気のブロックを色んな所に飛ばす。

 足場を蹴って、ブロックからブロックへ飛び移っていく。


「空中戦は不利か」

「スレイヤ!」

「来い!」


 スレイヤが剣を振るのを止め、突きの構えを取る。

 真っ逆さまに自由落下しながら、少しも慌てた所がない。

 達人級の職業なのは間違いなかった。

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