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HelleN! -愛情よりも大切な-  作者: パンダらの箱
「後日談」編 ~その後の世界~
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忍者之店 -その後のファーストフード店-

「……ついに捕まえたぞ、飯岳めしだけたべる……!」

「オーノー! ヘッヘルプゥー! 助ケテー!」


 三ヶ峰ファーストフード店では、ちょっとした事件が起こっていた。

 忍装束に身を包んだ三ヶ峰は、地面にへたりこむ男を足で抑えつけている。

 もちろん踏んでいるのは義足である右脚だ。

 今、踏まれているこの男は、白スーツを纏ったスキンヘッドの黒人であった。 

 その男こそは飯岳食といい、三ヶ峰が片脚を義足に変えなくてはならない切っ掛けを作った元凶である。

 三ヶ峰は忍者として、かつてこの飯岳に雇われていた時期があった。

 だが、忍者は他の譲れぬ目標のため、飯岳の傍を謀反の形で離れたのだ。

 その結果、数多くの追手に追われ、その際に脚を負傷してしまい、義足に変えざるを得なくなったのである。

 三ヶ峰は、その元凶たる飯岳に怒りを燃やす。


「……貴様……! ……よくも我の前にのうのうと現れる事が出来たな……!」

「ギャー! ッテイウカー! オ前、ソンナ喋リ方ダッタッケー!?」

「五月蠅い……! おのれ、どうしてくれようか……!」


 事の発端は、本当にどうでもいいものであった。

 三ヶ峰がいつも通り店で働いていたら、突然客として飯岳が現れたのだ。

 どうやら、ここがかつて雇っていた忍者の店だとは知らなかったようだ。

 その上、まさか本人が君臨するとまでは思っていなかったらしい。

 飯岳は忍者の姿を見た瞬間、本気で驚いた表情をしていた。

 しかし直後には、殺気を漲らせた三ヶ峰によって、地面に組み伏せられてしまったというわけだ。

 とまあ、これが現状に至るまでの短い経緯である。

 三ヶ峰は、もう周囲の客など気にせずに怒り狂っていた。

 このままでは店の評判までも危ないはずなのに、それでも止まりそうにない。

 むしろこのまま、飯岳を切り伏せてしまいそうだ。

 だが、そこに制止の声がかかる。


「はいはい、駄目ですよぉ店長。お客さんとして来たなら、ちゃんとお客さんとしてもてなさないと」


 客の元に注文の品を届け終わった癒葉が、両手をパンパンと叩きながら三ヶ峰を止めた。

 その声に反応した三ヶ峰が、ゆらりと癒葉の方を見た。

 もちろん、見たといっても首を動かしただけで、その両目は閉じられたままではある。

 三ヶ峰は、まだ怒り心頭といった語調で、その感情をぶち撒けた。


「……癒葉! 何故止める……こいつは……!」

「でーすーかーら、お客さんでしょう? 駄目ですって、そんな粗相しちゃ、ね?」

「ぐぬぬ……!」


 諭されるように、三ヶ峰は飯岳の身体から右足をどける。

 そして、自由になった飯岳は、周囲を見回しながらゆっくりと立ち上がった。


「エ……エット……」


 その表情には困惑の色が浮かんでいる。

 だから安心させるためなのか、癒葉が優しい笑みを浮かべた。


「さ、いらっしゃいませ、お客様。注文はいかがなさいましょうか?」

「いや、癒葉……! それは無理があるぞ……!」

「……やっぱりそうですよねぇ……この流れは無理ですよねぇ……」


 流石に今から客としてもてなすには、三ヶ峰がもう色々とやらかしてしまったので、なかなか不可能になってしまっていた。

 これには癒葉も、少し困ったような表情となる。

 だが、助け舟は意外な所から流れてきた。


「……ジャ、ジャア……エンシェントキリガクレチーズバーガー、ヲ……一ツ下サイ……」


 こんな状況下において、飯岳は普通に注文を口にしだしたのだ。

 これには、三ヶ峰も癒葉も一瞬硬直してしまうが、癒葉の方はすぐに笑みを浮かべ直した。


「は、はい……! かしこまりました~! 少々お待ち下さいねぇ! ほら、店長!」

「……あ、ああ……!」


 この店の調理は、全て三ヶ峰酸叉之雄が一人で賄っている。

 だから、三ヶ峰が奥に行かない事には何も始まらない。

 三ヶ峰は、まだ未練のある気配を飯岳に向けつつ、調理場の方へと風のように移動する。

 それから、ストップウォッチを使う事無く、たった数秒でエンシェントキリガクレチーズバーガーを完成させた。ちなみに使った包丁は蒼月だ。

 三ヶ峰としては無難な品をさっさと出し、とっとと飯岳を問い詰めようという考えしか無かったのである。

 こうして出来あがったものを即座に癒葉に運ばせ、三ヶ峰は影から飯岳の動向を監視する。

 だが、動くまでも無い。

 三ヶ峰の特技である超聴力があれば、店の何処に居ようと、何をしているのか把握する事が出来るのだ。

 これが三ヶ峰の特技である“眼を使わぬ監視”だ。

 そして、癒葉が飯岳の座った席まで行く音と、トレイに乗ったエンシェントキリガクレチーズバーガーが置かれる音が聞こえてきた。

 それから、頭を下げる音。


「さっきはすみませんね……ウチの店長が、大変失礼な事を……」

「イヤ……イイデース……ドウセ、ワタシハ……モウ全部オ終イデスカラ……」

「えっ?」


 どういうわけか、飯岳は落ち込んでいるようだった。

 三ヶ峰の心に猜疑心が芽生えるが、ここで癒葉は更に踏み込んだ。


「ええと、失礼ですが……詳しく伺っても宜しいでしょうか……?」

「アア……話スホドノ話ジャナイデースヨ……タダ、SHINOBIヲ追イ続ケテイル内ニ……部下ニ愛想ヲ尽カサレ……イツノ間ニカ……下剋上サレ……」

「あらら……」

「気ガツケバ、ワタシハ全テヲ失ッテイマーシタ……ダカラ、モウ料理店破リハ不可能デース……ソレドコロカ、モウ財産モ今ノデ尽キマシタ……モウ……行ク場所モ、アーリマセーン……」


 飯岳は、まるでキーボードで入力したらなまじ漢字が入っているので全部容易にカタカナには出来ず、まず一度普通に文章を打って、ひらがな部分を消してから、そこにカタカナを入力するという非常に面倒臭い打ち方になってしまうような喋り方で、たどたどしく自分の身の上を話していった。

 それを聞いた癒葉から、同情するような気配が漂ってくる。

 三ヶ峰も、少しだけ申し訳ない気持ちになってきた。

 だが、飯岳には、過去に何度も忍者の店を潰してきたという経緯があった。

 忍者がどれだけ頑張って店を設けても、目ざとくそれを見つけて飯岳が襲撃してきたのである。

 右脚もその時失った。

 だから、忍者は料理の名門である三ヶ峰家に養子入りする事によって、強烈なバックアップを受け、こうして店を滞りなく経営していけるのである。

 この小さな店舗は、幾分か飯岳のせいでもあるのだ。

 故に、三ヶ峰は飯岳を許しきれない。

 しかし、三ヶ峰にしか聞こえない声量で、癒葉も語りかけてきた。


「……ねえ、店長。どうします……?」

「どうするもこうするも……放っておくしかないだろう……!」


 当然、三ヶ峰の側の声は、癒葉には届かない。

 けれども、三ヶ峰はそう言わずにはいられなかった。

 これだけ自分を追い詰めていた男が、ここまで落ちぶれているのだ。

 ここは本来笑うべき場面なのである。

 なのに、三ヶ峰は素直に喜べなかった。

 それどころか、妙な無力感までもが胸を支配する。

 三ヶ峰がそうして迷っていると、飯岳がまた何かを語り始めた。


「SHINOBIニハ……悪イ事ヲ……シテシマイマシタ……モウ、今更デスケドネ……」


 本当に今更な謝罪である。

 それも、相当にぞんざいだ。

 三ヶ峰は、その言葉に対して感情を抑えきれなくなった。

 ここは怒っていい場面である。

 だから、三ヶ峰は風のように飯岳の元へと移動した。

 一言文句を言ってやるのである。

 「ふざけるな」と。「今更何を言っているんだ」と。

 忍者は、長年溜まっていた不満を吐きだしてやるのだ。

 三ヶ峰は、飯岳の前で仁王立ちする。

 飯岳は、突然現れた三ヶ峰に驚いているようだったが、三ヶ峰は歯牙にも介さず、己が想いを吐きだす。


「ふざけるな……! 貴様から、拙者……否、我が何処まで苦痛を味あわされたのかわかっているのか!? 我は、貴様から数えきれない程の苦痛を浴びせられたぞ……! それを今更、謝られた所でどうしろというのだ……!」


 その声は、怒りのせいか震えていた。

 それから、三ヶ峰は続けるように言った。


「……だから……! だからッ! ……ここで働いて返せ……!」


 愚痴の勢いで吐き出した言葉は、ある意味では救いの言葉だった。

 その差し伸べられた言葉に、飯岳は純粋な驚き顔を浮かべ、癒葉は嬉しそうな驚き顔を浮かべた。


「エッ……!?」

「て、店長……それって……!」

「貴様は……今から我の店で働き、今まで我に与えてきた損害分、全部返すがいい……!」


 三ヶ峰は、ここで行き場を失った飯岳を雇う事を決心した。

 どうにも、このまま飯岳を放っておく事に、多大なる抵抗を感じてしまったのである。

 だから、これは感情の落とし所だ。

 自分を傷つけた相手に対し、罰を与えつつも、地獄の窯までは行かせない選択肢。

 それが雇うという選択なのである。

 これは苦渋の決断であった。

 三ヶ峰は、自分の身を引き裂くような感情に耐えつつも、何とかその決断を下す。

 これでいいのだと、信じながら。

 そう決断した三ヶ峰の胸の中には、爽やかな風が吹き抜けているかのようだ。

 だが、飯岳はその決断に対し、きょとんとした顔で返した。


「イヤ……コレカラ一流企業ノ最終面接ガアルカラ、別ニ遠慮シトキマース」

「あ゛?」


 風が停止し、空気も止まった。

 それからじわじわと、三ヶ峰の中に怒りの暴風が吹き荒れる。

 三ヶ峰は、当たり前のように言い放つ飯岳に対して、ついに怒りを隠しきれなくなった。

 行き場が無いんじゃなかったのか。などという突っ込みの前に、まず頭の中の何かが切れた。

 忍者はここでマジギレした。

 その様子を見て、癒葉が焦ったような笑みで困惑してしまう。

 しかし、飯岳はそれだけに留まらず、更に三ヶ峰の怒りを刺激するような事を口にした。


「ア、デモ、今ハ料理時代……! ナラ、ココノガ待遇イイカモ……! スミマセーン! SHINOBI! ヤッパリ、ココガイイデース!」

「……ふ、ざ、け……!」

「エッ!?」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」


 三ヶ峰はついに怒りを爆発させる。

 飯岳は、これがどんな事態がまるでわかっていない顔で、ひたすら「エッ?」を連呼していた。

 それがまた三ヶ峰の怒りを刺激し、どんどん事態はややこしい方向へと傾いていく。

 癒葉は、そのせいで荒れてしまった店内を見ながら、珍しく引き攣った笑みを浮かべる事しか出来なかったという。


「あははは……どうしましょ、これ……」


 こうして、それから一悶着以上あった結果、三ヶ峰ファーストフード店の店員は一人増える事となった。

 新たな従業員の名は、飯岳食。

 職と立場を失ったこの男は、かつて自分が雇っていた忍者の店に、今度は自分が雇われる事となったのだ。

 立場逆転もいいとこである。

 しかし、飯岳は何だかんだ言って満足そうであった。

 三ヶ峰と飯岳の間には割り切れないだけの因縁があるが、二人ともどういうわけか、最終的には納得したような表情を浮かべていたという。

 その姿を見た癒葉は、今度こそ本当に穏やかな笑みを浮かべられるのであった。

 だが、それが訪れるのはもう少し先の出来事だ。

 容赦なく、画面は三ヶ峰が怒った場面へと遡ってしまう。

 まずは、この混沌としてきた店内をどうにかするのが癒葉の役目である。

 前途は多難過ぎる。

 けれども、それでも、納得出来る未来を約束された三人は、まずは慌ただしい日常を全うしようと精々足掻くのであったとさ。

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