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HelleN! -愛情よりも大切な-  作者: パンダらの箱
「DAY:POISON」編 最終章前 ~みんなでお食事~
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天地激突 -それは避けられぬ闘い-

 少年は幼い頃、その機械を見てしまった。

 台座の前に立ち、じっと己が右掌を眺めているその姿は、眩しくて、眼がくらむようで、まるで光り輝く彫刻か何かのようだった。

 その掌は純白に染まっていく。真っ白な輝きはやがて外へと溢れ出していき、周囲を包む白い闇となる。

 それは美しき終わりの力。

 機械は、その技の名をおわりの煉獄と称した。

 けれど、その光はとても綺麗で、放つ姿もやはり輝いていて。

 そんな姿に、少年は生まれて初めて本気で恋をしてしまったのである。

 その想いは徐々に徐々に膨れ上がっていき、やがて肉体さえも焦がす焔となった。

 ふとした想いは強くなり、執念と化しても尚止まらず、妄執や執着にも似た超然的な意志へと取り込まれていく。

 だが、最後には燃え尽きて無くなる運命さだめ

 最後に残るのは、虚ろな結果と得た力だけ。

 少年は、この日壊れた。


 それが全ての始まり。そして、一つの可能性の終わり。


 かつて、伝説と呼ばれた天使が居た。

 かの者は、数多の闘いの中で数えきれぬ程の敵を倒し、一時は天上にまで登り詰めた事もあった。

 まさしく伝説の名に恥じぬ華々しき活躍である。

 しかし、それだけの話だ。

 何度勝とうが、どんな賞賛を浴びせられようが、彼には全てどうでも良い話だったのである。

 何故ならば、彼はもう出会ってしまったからだ。

 全てを終わらせる舞台装置、機械仕掛けの神に。

 その出会いは、その先に起こる全ての事象を狂わせ、ただひたすらに舞台役者を躍らせるだけの、空虚な歯車。

 少年と機械仕掛けの神が出会い、天使が生まれたのだ。


 この出会いが、かつて天使だった少年に刻みつけたのは、今の少年を形作る数多の感情。

 これから先いくら勝とうと満たされない程の、無力感。

 これから先どんな賞賛を浴びせられても雑音にしか聞こえない程の、虚無感。

 決して手が届かない、絶望。敗北する事の、恐怖。努力や感情の、否定。

 それらは既に、まだ幼かった少年に背負い切れる重石では無かった。

 少年の心はもう血に濡れ、いっそ渇いてしまいそうなぐらいだ。だが、不思議と餓えは無い。

 当然だ。生きる事の定義は人それぞれだが、もし生きているというのが「死んでいない状態」の事を指すのだとしたら、もうとっくに少年は死んでいるのだ。もう何度も何度も何度も何度も。

 死人に飢えや痛みなどあるわけが無い。

 これはもう覆しようの無い真実。

 だから、これは呪いだ。

 少年は、未来永劫ずっと、その魂に刻まれた「毒」を背負っていかねばならないのである。


 出会わなければ、少年の未来は大きく変わっていた事だろう。

 けれど、それはもう済んだ話だ。全ては終わっている。手遅れだ。

 これは、本来“おわり”を告げるはずの「機械仕掛けの神」から“はじまった”物語。

 この天と地の物語はエンドロールから幕を開けたのだ。

 ならば、この物語がもう一度幕を閉じる時、そこからまた何かが始まるのだろうか。

 その答えを、今はまだ、誰も知らない。

 それは、今まさに、強い風が吹く中で対峙している二人であってもだ。


「本当にいいんだね。天川さん」

「ええ。わたしに二言は無いわ」


 純白の神父服のようなものを身に纏った少年と、漆黒のエプロンを身に付けた私服姿の少女が、二つの台座を挟んで睨みあっていた。

 双方の眼差しには恐ろしい程の感情が籠められている。

 一触即発の空気。辺り一面を満たすのは、世界が終焉を迎える前兆のような寂寥感。

 強い風が奏でるリズムは甘い音色のようで、それは同時に始まりを告げる音のようでもあった。

 今、闘いが始まろうとしている。

 最強と最凶の殺し合い。

 天と地はついに分け隔たれた。

 そこにあるのはもう戦争だけだ。

 遥か昔に世界が分かれたように、昼と夜が分かれたように、生と死が分かれたように、少年と少女も分かれ、対立する他ないのだ。

 天使のような少年は、死神のような少女に言葉を投げかける。

 何でもないような口調で、それでいながら強い感情をこめて、唇を笑みの形へと変えていく。


「僕が勝ったら、HelleNをやめる。僕は本気でやるつもりだけど、本当に構わないって解釈でいいんだね?」


 それは冗談でも何でもなく、少年の決意を象徴する言葉。

 それを受け、死神のような少女も自信に満ち溢れた笑みで笑い返す。


「ええ、もちろん本気で来なさい! でも、始音くんが負けた時、ちゃんと約束は守ってよね」


 聞いた少年の目が真剣味を帯びる。

 が、あくまで口元の笑みは崩さずに、ゆっくりと首を縦に振って了承する。

 この闘いは、どんな結末を迎えるにしろ、互いに無事で終わるものではない。

 だからこそ戦争だ。

 天国と地獄の最終戦争。

 天地戦争の始まりである。

 死神のような少女は、じっくりと溜めて告げる。

 己の決意を。願いを。

 そして、この闘いの切っ掛けを。


「わたしが勝ったら始音くんは料理人に戻る。それでいいのね」

「うん。それで構わない。でも、僕は本気でやめてやるからね」


 少年も真っ向から受け、こうして闘いの火蓋が切って落とされた。

 何億年もの歴史を刻んできた世界は、今日を皮切りに崩壊する。

 運命は何度も流転し、ついにこの日を迎えたのだ。

 戦争が始まる。

 この瞬間より。

 天使のなれの果てと、生まれたばかりの死神は、互いの全てを賭けて生死が入り混じる最後の闘いへと身を投じるのだ。

 対峙する二つの異形が告げるのは、己の勝利を告げる絶対勝利宣言。


「おいで、天川さん。真上から叩き潰してやるよ」


 それは、相手の実力を全て上回った上で圧倒的に勝つ、という天上からの言葉。


「いくわ、始音くん。真下から刈り取ってあげる」


 対するは、相手よりも劣る実力なのにも関わらず上に立つ者を殺す、という地獄からの言葉。

 ぶつかり合う視線。敵意。願い。想い。

 二人の間を風が通り過ぎて、完全なる静寂が周囲を満たす。

 それから数秒の間。聞こえてくるのは呼吸音だけだ。

 真っ白な少年と真っ黒な少女は、同時に目を閉じ、意図的に深く一呼吸する。

 少年は目を開ける。少女も目を開ける。

 黒く淀んだ死人のような目と、白く輝いた活気溢れる目。

 視線激突。両者覚悟完了。戦闘準備万端。

 だから、互いに決意をもう一段階重ねにかかる。

 決意は同時。無論、発声も。

 そして、言葉が重なる。


「「絶対に勝つ……持てる力の全てを用いて!」」


 もう双方の声色に迷いは無い。

 こうして、最終決戦が幕を開ける。

 HelleNがHeavenとHellを組み合わせた造語だというのなら、天国と地獄の闘いこそが、その運命を締めくくるのに相応しい。

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