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また会えたら、名前を聞こう  作者: Ryosuke
第1章 雨宿りの人
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6/11

第6話 三度目の正直?

 桐谷恒一は、待ち合わせには五分前に到着する。


 十分前では早すぎる。


 時間ぴったりでは、電車の遅延や信号待ちに対応できない。


 五分前。


 それが、相手を待たせず、自分も無駄に待たないための、ちょうどいい時間だった。


 ただし、待ち合わせの相手が藤堂航平である場合、その計算は少々複雑になる。


『悪い、十分遅れる』


 午前十一時五十三分。


 約束の七分前に、そんなメッセージが届いた。


 恒一は吉祥寺駅南口の改札付近で立ち止まった。


『分かりました。南口で待ってます』


 送信。


 すると、すぐに返信が来た。


『いや、待たなくていい。先に公園の方行ってて』


『どこで合流します?』


『歩いてれば会うだろ』


 恒一は画面を見つめた。


「……それでは待ち合わせにならないんですが」


 待ち合わせとは、あらかじめ場所と時刻を決めておく行為である。


 それを「歩いていれば会う」で済ませてしまうなら、待ち合わせという概念そのものが揺らぐ。


 もっとも、航平とは大学時代からの付き合いだった。


 一歳年上の先輩で、学生のころから何かと世話になっている。


 こういう人だということも、十分に理解していた。


 恒一はスマートフォンをしまい、井の頭公園方面へ歩き始めた。



     *



 藤堂航平は、写真を撮る仕事をしている。


 正確には、写真を撮る仕事だけで生活している。


 広告写真。


 雑誌の取材。


 店舗の撮影。


 企業の広報素材。


 ときには結婚式。


 依頼があれば、ジャンルにこだわらず引き受ける。


 本人いわく、写真家というより、写真を使って何とか暮らしている人間らしい。


 恒一とは成蹊大学時代に知り合った。


 航平が一歳年上だったが、共通の友人を通じて親しくなり、卒業後も時折会っている。


 写真の腕は確かだった。


 ただし、時間の使い方については、恒一とまったく違う。


 恒一が予定を立てて行動する人間なら、航平は予定の途中で面白いものを見つけると、そちらへ歩いていく人間だった。


 そして、その日の遅刻にも理由があった。


『駅前で犬がいい顔してた』


 追加のメッセージとともに、一枚の写真が送られてきた。


 ベンチに座る老人の足元で、小型犬が大きく口を開けている。


 あくびをした瞬間らしい。


 背後には、通り過ぎる人々が柔らかくぼけて写っていた。


 恒一は思わず笑った。


『犬には待ち合わせの予定がありませんからね』


 送信。


 しばらくして、返信が来た。


『いいこと言うな』


『褒められるようなことは言ってません』


 既読。


 返事はなかった。


 恒一は歩きながら、もう一度写真を見た。


 たしかに、いい写真だった。



     *



 同じ日曜日。


 午前十一時五十八分。


 白石美月は、自宅の玄関で靴を履きながら悩んでいた。


 右手には小さな保冷バッグ。


 左手にはスマートフォン。


 画面には、佐伯梨花からのメッセージが表示されている。


『今日は休みなんだから、ちゃんと休みなよ』


 美月は返信を打った。


『休んでるよ』


『その保冷バッグは何?』


 美月は動きを止めた。


「……なんで分かったんだろ」


 梨花は時々、妙なところで勘が鋭い。


 美月は保冷バッグを見た。


 中には、昨日作った焼き菓子が入っている。


 新しいアーモンドクリームを使った、小さなタルトだった。


 店で出す前に、もう少し違う人の感想を聞いてみたい。


 そう考えて、友人に渡すことにしたのである。


 休日なのに仕事のことを考えている。


 その自覚はあった。


 ただ、本人としては遊びの延長でもあった。


『友達にお菓子渡すだけ』


 送信。


 すぐに返信が来た。


『それを仕事って言うんじゃないの?』


『趣味でもあるから』


『便利な言葉だね、趣味』


 美月は笑った。


『じゃあ行ってきます』


『いってらっしゃい。ちゃんとお昼食べるんだよ』


『もちろん!』


 美月はスマートフォンをしまった。


 玄関の鍵を閉める。


 そして、少し考えた。


「……何食べようかな」


 今日の予定は、午後一時に友人と会うこと。


 それ以外は決めていない。


 まずは昼食。


 それから、少し買い物でもしよう。


 美月は軽い足取りで歩き始めた。



     *



 午後零時二十六分。


 恒一は井の頭公園の池の近くにあるベンチに座っていた。


 隣には航平。


 約束から二十六分遅れで現れた先輩は、まったく悪びれる様子もなく、缶コーヒーを飲んでいる。


「いやあ、いい天気だな」


「そうですね」


「こういう日は歩くだけで楽しい」


「航平さんの場合、歩く途中で何か見つけると、目的地に着かなくなりますけどね」


「それがいいんだよ」


「待っている側としては、少々困ります」


 恒一がそう言うと、航平は声を出して笑った。


「悪かったって。コーヒー奢っただろ?」


「コーヒーと時間は、交換できませんよ」


「お前、たまに厳しいよな」


「時間どおりに来ていただければ、何も言いません」


「はいはい。次から気をつけます」


「その言葉、学生のころから聞いてます」


 航平はますます楽しそうに笑った。


 恒一も、少しだけ口元を緩めた。


「それで、今日は何か用事があったんじゃないですか?」


「ああ、そうだった」


 航平は鞄から一冊の冊子を取り出した。


 写真展の案内だった。


「来月、グループ展に参加することになってさ」


「へえ」


「知り合いのギャラリーで。小さい展示だけど」


 恒一は冊子を受け取った。


 表紙には、夜の商店街の写真が使われていた。


 閉店後の店先。


 濡れた舗道。


 遠くに見える自転車の灯り。


 人は写っていない。


 それなのに、誰かがついさっきまでそこにいたような気配がある。


「いい写真ですね」


 恒一が言うと、航平は少し驚いた顔をした。


「お、珍しい」


「何がですか?」


「お前が即答するの」


「そうですか?」


「いつも『構図はいいですけど、もう少し光が』とか言うじゃん」


「そんなこと言いました?」


「言った。三年前」


「よく覚えてますね」


「写真家だからな」


「関係あります?」


「あることにしてくれ」


 航平は笑った。


 恒一はもう一度、表紙を見た。


「これ、どこで撮ったんですか?」


「中野の商店街。雨上がりの夜」


「人がいませんね」


「閉店後だから」


「でも、人の気配がする」


 航平は少し黙った。


 それから、嬉しそうに笑った。


「……そうなんだよ」


「何がですか?」


「そこを撮りたかった」


 航平は池へ目を向けた。


「人が写ってなくても、人の暮らしって残るだろ」


「そうですね」


「椅子の置き方とか、店先の植木とか、消し忘れた明かりとか」


 航平は缶コーヒーを一口飲んだ。


「そういうのが好きなんだよね」


 恒一は冊子を閉じた。


 航平が写真を撮り続ける理由を、少しだけ理解できた気がした。


「見に行きますよ」


「ほんと?」


「もちろんです」


「じゃあ、初日に来いよ」


「予定を確認してからになりますけど」


「出た、予定」


 航平は笑った。


「お前、相変わらずだな」


「航平さんも、昔から変わらないじゃないですか」


 二人は顔を見合わせた。


 大学を卒業してから、もう十年以上になる。


 それでも、こうして会えば、昔と同じように話せる。


 恒一は、そのことをありがたいと思っていた。



     *



 午後零時四十八分。


 美月は井の頭公園近くの飲食店で、昼食を終えたところだった。


 注文したのは、ラーメン。


 全部のせ、大盛り。


 それから半チャーハン。


 店員が最初に注文を聞き返したとき、美月は少し不思議そうな顔をした。


「はい。全部私のです」


 そう答えると、店員は一瞬だけ目を丸くした。


 しかし、料理が運ばれてくると、美月は実に幸せそうな顔で食べ始めた。


 麺をすすり、スープを飲み、チャーハンを頬張る。


 そして、最後まできれいに食べた。


「ごちそうさまでした!」


 店を出ると、空はよく晴れていた。


 美月は満足そうに伸びをした。


「……幸せ」


 食後の満腹感。


 休日の午後。


 気持ちのいい天気。


 これ以上、何を望むことがあるだろう。


 美月は保冷バッグを持ち直した。


 友人との待ち合わせまでは、あと十二分。


 少し急げば間に合う。


 そう思って歩き始めたときだった。


「あっ」


 足元で、小さな紙袋が倒れた。


 すぐ前を歩いていた女性の荷物だった。


 中から、文庫本が二冊と、小さな箱が転がり出る。


「すみません!」


 女性が慌ててしゃがみ込んだ。


 美月も反射的に膝をついた。


「大丈夫ですか?」


「あ、ありがとうございます」


「いえいえ」


 美月は転がった箱を拾った。


 手のひらに収まるほどの、小さな箱だった。


 中身は分からない。


 ただ、包装紙が少しだけ破れている。


「あ、これ……」


 女性が困ったように声を漏らした。


「プレゼントなんです」


「そうなんですか」


「友達の誕生日で」


 美月は箱を見た。


 包装紙の端が、少しめくれていた。


 中身には問題なさそうだったが、このまま渡すのは気になるかもしれない。


「ちょっと待ってください」


 美月は自分の鞄を開けた。


 中から、小さなマスキングテープを取り出す。


 菓子の箱を仮留めするときに使うため、いつも持ち歩いているものだった。


「これでよければ」


 美月は破れた部分を丁寧に留めた。


 淡いクリーム色のテープだった。


 包装紙の色にも、よく合っている。


「……あ、すごい」


 女性が顔を明るくした。


「全然目立たない!」


「よかったです」


「ありがとうございます。本当に助かりました」


「いえいえ」


 美月は笑った。


 女性は何度も礼を言って、歩いていった。


 美月は時計を見た。


 午後零時五十五分。


「……あ」


 あと五分。


 待ち合わせ場所までは、徒歩七分。


 少し急がなくては。


 美月は小走りになった。



     *



 午後一時三分。


 恒一と航平は、公園を出て駅の方へ向かっていた。


「で、最近どうなの?」


 航平が唐突に尋ねた。


「何がですか?」


「仕事」


「忙しいですね」


「それは知ってる」


「じゃあ、何が聞きたいんです?」


「いや、仕事以外」


 恒一は少し考えた。


「……特に変わりありませんよ」


「そうか」


 航平はあっさり頷いた。


 その反応が意外で、恒一は横顔を見た。


「何だよ」


「いえ。もう少し何か聞かれるかと思いました」


「何を?」


「……さあ」


 航平は笑った。


「聞かれたくないことを、わざわざ聞く趣味はないよ」


 恒一は少し黙った。


 航平とは長い付き合いだった。


 だから、過去のことも知っている。


 かつて結婚を考えていた相手がいたこと。


 その関係が終わったこと。


 それから、恒一が以前より少しだけ、私生活の予定を細かく立てるようになったことも。


 ただ、航平はそのことを軽々しく話題にしなかった。


 恒一は、それをありがたいと思っていた。


「……まあ、元気にやってますよ」


 そう答えると、航平は笑った。


「ならいい」


 二人は並んで歩いた。


 日曜日の吉祥寺は、人が多い。


 買い物袋を持った人々が行き交い、店先には行列ができている。


 恒一は人の流れを避けながら歩いていた。


 そのときだった。


「……あっ!」


 少し先から、聞き覚えのある声がした。


 恒一は顔を上げた。


 人混みの向こう。


 小さな保冷バッグを持った女性が、こちらを見ていた。


 肩までの髪。


 明るい表情。


 そして、どこか見覚えのある笑顔。


「あ」


 恒一も足を止めた。


 女性が少し驚いたように目を丸くした。


「……また!」


 恒一は思わず笑った。


「そうですね」


 二週間前の雨。


 先週の子猫。


 そして、今日。


 三度目だった。


 航平が二人を交互に見た。


「知り合い?」


 恒一は一瞬、返事に迷った。


 知り合い。


 そう呼んでいいのだろうか。


 名前も知らない。


 仕事も知らない。


 ただ、二度ほど偶然会って、少し話をしただけだ。


「……以前、何度かお会いしたことがあるんです」


 恒一が答えると、女性も笑った。


「はい。偶然、何度か」


 航平は面白そうに眉を上げた。


「へえ」


 それ以上は聞かなかった。


 女性は少し息を弾ませていた。


「お急ぎですか?」


 恒一が尋ねる。


「あ、はい。ちょっと待ち合わせで」


「そうですか」


「すみません、せっかく会ったのに」


「いえ。お気になさらず」


 女性は笑った。


「それにしても、よく会いますね」


「そうですね」


 恒一は少し考えた。


「生活圏が近いのかもしれませんね」


「なるほど」


 女性は頷いた。


 そして、少しだけ首を傾げた。


「でも、三回って、結構すごくないですか?」


「……確かに」


 恒一は腕時計を見た。


 それから、女性を見た。


「偶然としては、少し珍しいかもしれません」


 女性は嬉しそうに笑った。


「ですよね!」


 その笑顔を見て、恒一もつられて笑った。


 航平は横で黙っていた。


 ただ、二人の様子を静かに眺めていた。


「あっ、もう行かなきゃ」


 女性が時計を見た。


「それじゃ!」


「はい。お気をつけて」


「ありがとうございます!」


 女性は軽く手を振った。


 そして、人混みの向こうへ小走りで消えていった。


 恒一はその背中を見送った。


 航平が、隣で缶コーヒーを飲み干した。


「……ふうん」


「どうかしました?」


「いや、別に」


「何か気になることでも?」


「面白いなと思って」


 恒一は眉をひそめた。


「何がですか?」


「お前が」


「……私ですか?」


「うん」


 航平は笑った。


「さっき、笑ってたから」


「笑うことくらいありますよ」


「あるけどさ」


 航平は空き缶を持ち直した。


「なんか、自然だった」


 恒一は返事に困った。


 そんなことを言われても、どう答えればいいのか分からない。


 航平はそれ以上追及しなかった。


「で、あの人は?」


「……何がです?」


「名前」


 恒一は少し黙った。


「知りません」


「へえ」


「偶然お会いしただけなので」


「三回?」


「三回です」


 航平は小さく笑った。


「なるほどね」


「何がなるほどなんですか」


「いや。吉祥寺って、面白い街だなと思って」


 恒一は航平を見た。


 航平は空を見上げていた。


 その顔には、何かを面白がっているような笑みが浮かんでいた。


 恒一は小さく息を吐いた。


「……航平さんって、何でも面白がりますよね」


「写真家だからな」


「それ、関係あります?」


「あることにしてくれ」


 二人は笑った。



     *



 午後四時二十一分。


 美月は友人との用事を終え、吉祥寺駅へ向かっていた。


 保冷バッグは空になっている。


 渡したタルトは、好評だった。


 特に、クリームの軽さを褒めてもらえたのが嬉しかった。


 美月は満足そうに歩いていた。


 そのとき、スマートフォンが震えた。


 梨花からだった。


『ちゃんとお昼食べた?』


 美月は返信した。


『食べたよ!』


『何?』


『ラーメン』


『また?』


『全部のせ大盛り』


 数秒後。


『……それだけ?』


 美月は少し考えた。


『半チャーハンも』


 しばらく返信がなかった。


 やがて。


『美月、元気だね』


 美月は笑った。


『元気だよ!』


 送信。


 それから、ふと思い出した。


『そういえば、今日また傘の人に会った』


 すぐに既読がついた。


『えっ!?』


 続けて。


『また!?』


『うん』


『今度は何があったの!?』


 美月は少し考えた。


 今日は、特に何もなかった。


 雨も降っていない。


 子猫もいない。


 ただ、歩いていたら会っただけだ。


『普通に道で会った』


 送信。


 梨花から返信が来た。


『それが一番すごくない?』


 美月は画面を見つめた。


 そして、少しだけ笑った。


『そうかも』


 送信。


 しばらくして、梨花から新しいメッセージが来た。


『で、名前は?』


 美月は足を止めた。


「……あ」


 また聞かなかった。


 今度こそ、聞いてもよかったのかもしれない。


 でも、急いでいたし。


 向こうも友人と一緒だったし。


 それに、何となく。


 名前を聞くタイミングを逃してしまった。


『聞いてない』


 送信。


 すぐに返信が来た。


『三回目なのに!?』


 美月は笑った。


『うん』


『もう次会ったら聞きなよ』


 美月は少し考えた。


 次。


 また会うことがあるのだろうか。


 吉祥寺は広い。


 同じ街に住んでいても、会わない人とはずっと会わない。


 でも、あの人とは三回も会った。


 不思議だった。


『また会ったらね』


 そう返信した。



     *



 午後九時十四分。


 恒一は自宅のパソコンを開いていた。


 画面には、いつものフォルダ。


 偶然ログ。


 新しいページを作成する。


 ――偶然ログ003。


 日付:六月二十八日。


 場所:吉祥寺・井の頭公園周辺。


 概要:過去二回遭遇した女性と再会。


 状況:友人と歩行中、相手と偶然遭遇。短時間の会話。


 結果:双方とも予定があったため、その場で別れた。


 恒一はそこで手を止めた。


 備考欄。


 何を書くべきか。


 少し考えた。


 そして、文字を打った。


 ――三度目の遭遇。偶然としては、やや珍しい。


 保存。


 恒一は椅子にもたれた。


 今日の出来事を思い返す。


 あの女性は、相変わらずよく笑っていた。


 少し急いでいたようだった。


 手には、小さな保冷バッグを持っていた。


 誰かと待ち合わせをしていたらしい。


 それだけだった。


 名前は、やはり知らない。


 ただ。


 恒一は少し考えた。


 次に会ったら、名前くらい聞いてもいいかもしれない。


 そう思った。


 そして、すぐに首を振った。


 次に会うとは限らない。


 三回続いたからといって、四回目がある保証はない。


 確率は、過去の結果だけで決まるものではない。


 恒一はパソコンを閉じた。


 机の引き出しを開ける。


 中には、先日買った百七十八円のチョコレートがあった。


 恒一は一かけら口に運んだ。


 甘かった。


 そして、ふと思った。


 あの人は、待ち合わせに間に合ったのだろうか。


 少し考えてから、笑った。


「……何を考えてるんだか」


 部屋の明かりを落とす。


 窓の外では、吉祥寺の夜が静かに更けていた。


 そのころ、美月は自宅のソファで、明日の仕込みのことを考えていた。


 新作プリンの販売開始。


 焼き菓子の試作。


 材料の確認。


 やることは、いくつもある。


 それでも、眠る前に少しだけ、今日の出来事を思い出した。


 三度目。


 あの人、また会うかな。


 そう思って、少し笑った。


 そして、冷蔵庫を開けた。


「……プリン、あった」


 今日も、予定どおりにはいかない夜だった。


 ただし、それを困ったことだと思っている人間は、少なくともこの部屋にはいなかった。



第6話 了



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