第十四話「最近アキラが彼女づらしてくる。可愛いい」その一
十二月三十日
大晦日の夜。年末、盆暮れ、除夜、年越し、類似語は色々あるのだが、長年ボッチを通してきた俺には代わり映えがない今年最後の日。
バイトはないからアパートにてラジオの紅白へ耳を傾け、ポテチ貪りながら今日も今日とてSMSでくだらないコメント載せて暇を潰す予定だった。
……いや、だったのだが——
「直助、そろそろお蕎麦完成するからドンブリ用意してくれない?」
「料理長了解っす」
「大掃除は期待してなかったけど、年越しそばをインスタントで済まそうだなんて信じられないんですけど……。どこまで自分に甘いのよ」
「何をおっしゃる。通年ならカップラーメンだったんだぞ。それを蕎麦に挑むなんて大した進歩だと自己評価するのだが。うん」
「あほ」
夕刻、来訪したアキラが鼻歌交じりに持参した材料で蕎麦を作っていた。クリスマスの日、イヤリングの他にプレゼントしたエプロンが似合っている。
両親が折角仕事納めで家族揃っているのにわざわざ団欒放り投げ、こんな青春雑魚敗残兵へ気を回す必要性はない筈だが真面目な委員長なので心配だったのだろう。
最近アキラが側にいなかったので友人として喜ばしいのだが、学生が羽を伸ばせる短い冬休み、本人が無理してないか心配だ。
しかも夜も遅い。普段なら帰路についている時間帯。
俺達はテレビ観ながらコタツで茹で上がった蕎麦を黙々と啜る。
別段交わす言葉はない。チラチラ表情を覗うも向こうから打ち明ける気配はなさそうだ。
もしかして家庭内トラブルかもと一抹の不安が過ぎったので、「アキラ、家族と一緒にいなくていいのか? もし何かあったのなら相談に乗るけど」プライベートに首を突っ込むのは気が引けるから恐る恐る質問。
「そんなシリアスなことじゃないわよ。私がいたら妹達お母さんに甘えられないから気を利かせたの。うちは普段バラバラだから何話していいか分からないしね。それに私としては好き勝手使わしてもらっている直助の部屋が断然落ち着く」
「気に入ってもらえて幸いです」
取り敢えず揉め事ではないみたいなので胸をなでおろす。家族仲が良くないのかと心配したぞ。
「それと駄目人間の直助が人様に迷惑かけて自堕落した年末過ごしてないか監視する必要性もあったしね。委員長としては」
「さいですか。でもよく深夜の外出許してくれたな?」
「初詣行くからコトブキのところで年越すって伝えておいた。たまにお泊り会やっているから親は疑ってないよ」
「何処の不良娘だよ。嘘言って独り暮らししている男の家で寛いでいる事が知れたら家族会議ものだぞ」
俺はコタツでぬくぬくの中、足でアキラの足を突っつく。
「直助だから大丈夫。あんたヘタレだし心配してない」
「わかってない、俺も男なんだ。ムードで興奮することもあるかもしれない。もっとアキラは自分が可愛いことを自覚しろ。いつオオカミになるかわからんぞ」
「信頼しているけど何かあったら責任取ってくれるよね、直助♡」
「そうならないように努力します」
焦る俺に対してアキラはいたずらっぽく微笑む。からかっているとしてもあの真面目な委員長からこんなドキッとする発言を聞けるとは予想もしてなかった。半年前まで険悪だったんだけどな。
「直助あけましておめでとう。今年もよろしくです」
「あけましておめでとうございます。その……今年も迷惑掛けるけど、一緒に一杯色んなことしような」
「うん! でもそれって恋人同士にする挨拶じゃない?」
「元々ひとりぼっちの俺にこれ以上レベル高いこと求めないでくれ」
それもそうかとアキラは笑う。
除夜の鐘がなり、俺達は大事な挨拶を交す。
人生初の女の子と過ごす大晦日はこうして終わった。




