第十三話「思い出の高台にて」
十二月二十四日
「井伊君、本当に参加しないのですか?」
「井伊ぽん勿体無いよ。極一部が騒いでいるだけで、みんながみんな噂を信じている訳でもないしさ」
「気持ちだけありがたく受け取る。されど今回は裏方に徹すると方針を固めた以上撤回はありえない」
強情っぱりと二人は口を揃えて不満をこぼす。
俺は生来のモブキャラ、主人公にはなれないのさ。それに折角クラス一丸となっているところに火中の栗を焚べる真似はしたくない。
今日はクリスマスイブ。
家族や恋人達の聖なる夜なのだが……毎年シングル上等主義の俺には興味のないイベント。
されど今年は違う。親友のアキラに何かプレゼントしたい気持ちが強い。
感謝、お礼、謝罪。
俺の拙い言語では上手に表現が難しいけど、それだけのことをアキラはもたらしてくれた。
だから形にする——なんだけど、元はただプレゼント渡すだけだったのに下手な誤魔化しから大事になりイベントへと化ける。
結果、クリスマス実行委員に立候補した大久保と西郷の補佐として陰ながらクリスマスパーティをセッティング。あきらの恩義に報いる。
パーティーと銘打っても所詮は学校で行っているからごっこ遊び程度だ。本来ならアニメとかゲームを見習い喫茶店とか会場を貸切にしたかったが、アキラに予算と風紀のみだれを盾に却下。
その結果、定番中の定番、学校の教室となった。先生同伴を始め色々と縛り多いが無難ではある。
飲み物とお菓子を持ち込み教室内を輪っかで飾りささやかながら形となった。
でもクラスメイトの大半が制服じゃ意中の相手を振り向かす事が叶わないからと、ここだけ譲歩せず大久保達が粘って粘ってなんとか先生から私服を取り付ける。
きっとみんな綺麗に着飾っているのだろうけど残念ながら俺は自粛。俺への噂はエスカレートしてアキラに付き纏う異常性愛者扱いだ。ワザと聴こえる声で陰口叩かれるのは構わないけど、アキラ達に迷惑かけたくないから空気を読む。
そういう訳で俺は黒子に徹し実行委員の控室、隣の準備室にて息を潜めている。
役目はプログラムに従い各催し物を準備する係。
バレないようにボランティア装いマスクしてサンタ帽被れば知名度がないモブキャラなので見破られることはない。
皆に俺達の交友関係を公表すれば事が収まる話なんだけど、未だに知っている人が少ないのは俺自体目立つ事を御免被りたいからだ。
これでも昔はスポーツ雑誌に掲載された事がある。良い事も悪い事も。
だから目立つことがトラウマなのだ。
「皆の為に準備して自らは名乗らず影武者に徹する。まるでサムライですね」
「井伊ぽんの不器用ここに極まりだよ」
「二人共良いんだよ。あくまでもパーティーはアキラへサプライズ成功させるための布石。誰かさん達のせいで面倒なことになってしまったがやり遂げてみせる」
「くっ、申し訳ありません。私が余計なことをナリに吹き込まなければここまで大きな催し物にはならなかった」
「井伊ぽん面目ない。ウチも同罪だよ」
「ごめんごめん冗談だよ。大久保も西郷も助けられてばかりでとても感謝している。もし好きな人ができたら報告してくれ。全力で応援するからさ」
「…………………」
「…………………」
しかし返ってきたのはため息のみ。すまん、こんな恋愛経験小数点のアドバイスなんて受けたくないわな。
そんなことより私の服とか褒めてほしい……とか、今日の為にメイクとかウチも頑張ったんだけどなぁは聴こえなかった。
「それにしても、イメージとかけ離れたな……これは子供のクリスマス会だぞ」
「私は素朴で好印象ですよ。その代わりケーキは気合い入れましたからプラマイゼロです」
「いんやいんや、コトブキ地味だよ地味。ウチ達のお泊り会より地味。せめてクリスマスツリーをどどん! と中央に立てたかった」
気持ちはわかる。大型のクリスマスツリーぐらいは用意したかったが片付けるのも大変なので持ち運びが簡単な小さいやつを持参。ちなみに母親が送ってくれた俺のぼっち用ポータブルツリーだ。
——などと通夜のように反省会やっているうちらに対し、メイン会場では先生の大学受験がどうとか社会人がどうとか、くどくどと説教じみた長い話に飽き飽きとした頃、水戸による乾杯を皮切りに爆発したように教室内は盛り上がる。
そのままスケジュール通りクラスメイト達の隠し芸が始まり、俺は定番のカラオケならタンバリン叩き、手品ならアシスタントをした。
アキラは占星術を披露して知的な女の子らしさと優等生をアピール。しかし本当はスーパーの特売チラシの方が好きなのを俺は知っている。
アキラは出番が終わり、『ボランティアさん帽子が曲がっているわよ』と小声で俺に話し掛けてくる。
シックな色合いのワンピースに短めのポンチョコート。同じカラーに合わせたベレー帽を被っていた。
『アキラ服可愛いよ』
『馬鹿………………その…………何もかもありがと』
『俺はアキラが喜んでくれればそれでいい』
『パーティーのことで私に協力できることはない?』
『今日だけは俺に任せてくれ』
『了解』
そしてメインイベント。
今日はサプライズ企画でサンタさんに来てもらいましたとサンタ衣装に身を包んだ俺が登場。
『メリークリスマス。わしの芸で楽しんでおくれ』
俺は口パクで西郷が声を当てる。
ピエロのノリで俺のジャグリングを披露。続いて陸上を活かしたアクロバットダンス。西郷達と特訓した甲斐があった。
大成功。拍手喝采大盛り上がり。
十分空気が暖まりメインイベントへと移る。プレゼント配布だ。
『ほほほ、皆良い子だからワシからプレゼントじゃよ』
一人一人にクッキーを渡して行く。そしてアキラにはバレないようにメモを渡す。
ありがとうサンタさんのエールと共にそして俺は教室を去って行った。
——しばらくのち。
「ようアキラ」
「もう……一人だけさっさと帰って、わざわざこんなところまで呼び出してどうしたのよ」
アキラを夏二人で花火を眺めた高台の公園へ呼び出す。
「アキラへ渡したいものがあるんだ」
「え?」
「クリスマスプレゼント」
「イヤリング? 花びらのクリスタル……綺麗」
「散々お世話なっていたから送ろうと。サプライズして驚かせかった」
俺はアキラに秘密にしていた理由を話す。
アルバイトしてお金をためて、大久保に相談してイヤリングを買った。
だいぶ遠回りしたけど目的は果たす。
しかし諸行無常——
「ごめん……私イヤリングとかピアス怖くてつけたことない」
大作戦はあえなく失敗した。
「あ…………すまん! リサーチ不足だった。陽キャラ女子ならみんな穴開けていると思い込んでいたわ。ごめん返してくれ」
「駄目。返さないよ。高かったんでしょ?」
「でも使い道ないだろ?」
アキラはソーイングセットからまち針を取り出し、「……つっ!」躊躇いもなく耳に穴を開けた。
そのままイヤリングを着ける。
「ちょっとアキラ血が出てるぞ!」
「構わない。直助ありがとうね。ずっと大切に使うよ」
「ばか! 穴開けることを簡単に決断するな」
「直助から貰ったものなら悩むことはないよ。心がすっごい籠っているのは明白だからさ」
「アキラ……」
長めのマフラーを俺の首へ掛けながら、「じゃあこれは私からのクリスマスプレゼントだよ。直助メリークリスマス……」不意をつかれロマンチックなキスをされた。




