第十一話「不測の事態」その一
十二月三日
トラブルで縦横無尽に奔走した修学旅行も何とか終焉を迎え今年最後の月へ。
十二月はイベントが目白押しだけどインドア派のぼっちには関係ない。
陸上を引退した今、ストイックに速さを求めていないので時間を怠惰に過ごす毎日。
現在はゲームとツーリングで立ち寄った観光名所の写した画像が生きる糧だ。
それともう一つ——
「こたつは人を堕落させるわね……」
「異議なし。眠くなる……」
今日も今日とてアキラと俺はおこたでぬくぬく。
足が当たったから避けると逆に絡まれた。何気に足技が上手い。
既に二十時を回っている。アキラは普段なら帰宅している時刻だが、今日は両親が在宅しているので気兼ねなく俺のアパートでくつろぐ。
もはやアキラにとってここは秘密基地または別荘感覚。俺がいなくても合鍵で勝手に入るし、日曜祭日だろうと入り浸っている。
偶然風呂覗いてぶん殴られたのは両手で数えられなくなった。
理不尽さもあるが、ズボラな俺に代わり家事全般やってくれてるので不満はない。むしろありがたくて頭が上がらないくらいだよ。
なのでとっくに俺のライフスタイルにアキラ無しでは語れないほど侵食されていた。
しかもこの毎日がずっと続けばいいと願っている自分もいる。この上なく困難なのは認識しているつもり。
異性である以上、いずれアキラが彼氏作ったらここから離れる。それでまた俺は独りぼっちになる。
されどアキラの幸せを考慮すると幾ら親友とはいえ、俺が束縛するわけにも行かない。
「マジマジと見てどうしたの? 私に惚れた?」
「アキラってすげー可愛いかったんだな。見惚れていた」
我ながら誤魔化しが下手だ。
「ありがと♡ でもノルマ達成するまでご飯抜きね」
「えー鬼。眠たいでござる」
「甘ったれるな。最近また成績落ちているんだから留年したくなくば勉学に励むべし。ご飯一緒に食べたいし頑張ろ?」
「へーい」
試験も近いので勉強を教授してもらっていた。この頃になるとただの通過儀礼と化してる試験勝負は二の次だ。どちらにしろ俺にキスしたり噛んだりするからさ。
アキラ流のスキンシップとはいえ苛烈だな。
「さてさて今回勝ったら何やってもらおうかなぁ。にしし」
「もうやる意味ないだろ?」
頼むからその悪戯っ子の笑みをやめてほしい。可愛すぎ。フェイスが猫系なので殺傷能力がある。
ペアのマグカップにココアを注ぎ、どうぞお手柔らかにとアキラに渡す。同時にアキラはお茶請けのクッキーを机に置いた。
お揃いのちゃんちゃんこなので、もはや長年連れ添った老夫婦のようなコンビネーション。初々しさも違和感もない。
「私のモチベーションは上がるからそんなことないもん」
「そうでやんすか……」
「それに直助、最近真面目にやってるから、ネガティブから本来のポジティブに帰ってきてんじゃないの?」
「自分じゃわからんよ。半年前は死んだ魚って陰口叩かれていたけどな」
俺ってポジティブだったっけ? ただの運動バカなのは認めるけどね。
「春の頃も懐かしいね。当時私達いがみ合っていたっけ……」
「なんであの時、毎回毎回失敗発見しては俺に難癖をつけていたんだ? 他の男子だって同じことやっていたじゃん」
「うーん、中等部から同じクラスだったから、あの快活だった直助の落ちぶれぶりに我慢できなかったのかもね。生きたゾンビだったもん」
「そこまで酷かったのか……」
陰キャラぼっちに磨きがかかったとは自覚していたけどな。
「うん。目も当てられないほどだよ」
「さすがカリスマ委員長。ただのクラスメイトの為に体張ってまで俺を死地から助けてくれた。今や感謝しかないよ」
「まーそういうこと……鈍感」
ラジオのボリュームで最後だけ聞き取れなかった。
「話は変わるけど昨日どこ行っていたの?」
「出かけていた」
「最近家開けるの多いね」
「うん」
「この部屋を共有している者として私に一言あってもいいんじゃない?」
「ごめん」
「まぁいいや。それより今度の日曜どこか行かない?」
「済まない。この日は用事がある」
「あっそ」
実はある計画を水面下で始めている。それをアキラには知られたくはない。
なのでだんまりを決め込む。




