第十話「何か俺の大事なものをなくした気分だ……」その三
十一月二十日
修学旅行最終日。
最後なので羽目をはずさない程度に自由行動のカリキュラムが設定されていた。
通常は友人同士で行動がセオリーで、次に恋人同士、マニアとぼっちは観光地を巡る。
「アキラどうする?」
「ごめんね直助、先約があるのよ。悪いけど一人で回ってくれない」
「それは構わないけどボディーガードしなくて大丈夫か?」
「平気平気」
勝手に行動すると後でうるさそうだから一応断り入れたが、他と行く奴がいるのなら仕方ない。
——が、ここでトラブルが生ずる。
「井伊ぽん、なにやっているの⁉」
「大変です。ナリが水戸君と二人きりで回ってます」
「そうなのか?」
お土産屋さんでタペストリーか木刀の二択で葛藤していると、大久保と西郷が血相を変えて俺へと迫ってきた。
アキラと水戸がペアになって行動している。
あの陽キャが好意を寄せていて、告白する機会を狙っていたのだ。
「発端はウチ達と違いナリにロマンチックなデートなんて似合わないなどと、井伊ぽんが余計な一言を口が滑ったからじゃん」
「ナリは意地を張って私達と離れて行動するようです。これでは守ることもできない」
「でも、水戸は紳士だからそこら辺は安心していいのでは?」
「バカ! まかり間違って二人が恋人同士になったらクラスカーストグループのバランスが大幅に崩れるんだよ。最悪群雄割拠になるっての」
「水戸君と友好的だったのは男子のまとめ役だったからです。それはあくまでも委員長の役目を円滑にする為であり、ナリはそれ以上望んでない筈です」
「うーん、あいつ自分の正義は貫くタイプなのに、意外と押しに弱いからな」
何だか心配になってきた。
心配した俺と大久保と西郷は協力しあってアキラと水戸の行き先を探す。
しかし何かあったとして、どうやってこの絶望的状況をどうやって覆す?
俺如き陰キャラぼっちが陽キャラ様へ楯突いて学園生活をこの先平穏無事に過ごせるのか?
「井伊ぽんなんか消極的だね」
「井伊さん乗り気じゃないのですか?」
「もし委員長が水戸を好きならば邪魔をするのも野暮だろ?」
「それはないから朴念仁」
「ないですよ」
「うお、言いきるな」
まあ、親友のアキラが他の奴と付き合うのはなんか受け入れ難い。
やきもちというか、どこの馬の骨ともわからない野郎に姉を取られる弟みたいな心境だ。
クラスメイトから情報を掻き集めて、アキラと水戸の足跡を辿る。
「ジュドーと井伊ぽん速い!」
「シュウリン最近部活サボり気味では? 現役の私はともかく陸上引退した井伊さんに負けてはアスリート失格ですよ」
「あ、委員長だ」
数時間何ヶ所か巡りそしてついに発見。俺達は咄嗟に木陰になりを潜める。
付近にひとけはなく、見晴らしが良いムードある高台に水戸とアキラはいた。
傍目から見れば誰もが羨む美男美女カップル。
いつ告白されてもおかしくはない状況。その証拠に水戸は周囲を警戒している。
「でも、ここからどうしよう? 何も考えてなかった」
「水戸君とナリはただ観光しているだけだから、下手に私達が出ていったら不自然ですよね」
「ここから覆す方法はある」
「まじ?」
「どうするのですか?」
「俺が代わりにアキラへ告白すればいいんだ。それであいつは空気を読める女だから確実に断るだろ。これで丸く収まるはずだ」
「……………………何処まで鈍感なんだ」
「まあ、井伊さんがそれでいいのなら止めませんが……はぁ」
「なんだよ二人共、不服か?」
聞き返すと別にーと適当に返される。
二人の反応が薄い。確かに神聖な告白をこんなくだらん妨害工作へ使うのは乙女として反対なんだろうな。
しかし全部円満に収まる方法が思いつかない今、これに全賭けするしか道はない。
俺は勇気を振り絞るとすぐさま行動に移り、「前から好きでした。俺と付き合ってください!」だかしかし、目を開くとそこにいたのはアキラじゃなくて水戸だった……。
「ごめん伊賀だっけ、気持ちはありがたいけどお前の想いには答えられないんだ」
「……………………なにやっているのよ」
「あれ?」
ですよね。俺もごめんだよ。
フラれて良かったのだが、でも何故だか悲しかった。心にダメージ。
しかも何故かアキラに蹴られた。涙目で何度も何度も……。
——気まずい中、修学旅行は全日程を終了して帰路に付くことになる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「これは生きた心地がしないぞ……」
新幹線ではアキラが隣、大久保と西郷が向かいだったが、終始無言の圧力は萎縮するのに十分だった。
幸い、水戸も俺を警戒して近づいてこないが、男子達にホモ野郎の烙印を押されるのは避けられない。
アキラを守る為に行動したのになんでこうなった?
清水寺から飛び降りたつもりが、計算が狂い隣の肥溜めに落ちた気分だぞ。
トホホ……。




