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第九話「どきどきの修学旅行」その一


 十一月十七日


 今日から高校生活一度っきりの修学旅行だ。

 東京から新幹線に乗り、着いたら更にバスで移動。それはいいがバスガイドさんに乗せられて、陽キャラ達が場を盛り上げる為にカラオケで歌うのは痛かった。

 しかもクラスから空気扱いの俺にタンバリンを持たせるな。


 まあ、気持ちはわかるが初日からスロットル上げ過ぎだぞ。俺もテンション上って京都ってだけでコンビニとファミレスの写真撮っているから同類だ。

 ご当地と違いもちろん全国チェーンなので意味はない。


 旅行先は京都・奈良。修学旅行の定番だが中学でも行った奴らが多いので不評だった。 

 せめて北海道とか沖縄ならみんなハッスルしていたんだけど、今時、貴重な時間使って鹿に鹿せんべいを与えるのになんの意味があるのだろうか?


 だだっ広い奈良公園にて班別で行動中、ふとそんなこと頭によぎる。


「直助……じゃなくて井伊、食べた食べた!」

「そうだな」


 アキラはもぐもぐと食べてる鹿にはしゃいでいた。美少女と鹿は絵になる…………一匹なら。せんべい欲しさにわらわらと集まってきたのでパニクる。


 それにしてもこんな大量にどこから湧いてくるんだろうか。しかも人慣れしてるので全く動じない。これで野生動物だというのだから恐ろしいものだ。さすがは国の天然記念物。


 それにしても、修学旅行のグループ行動はいいが俺はよりにもよって、委員長、大久保、西郷達カースト最上位グループの班になる。

 この他に数人男女がいるが俺はあくまでも数合わせなので、どうだろうと関係ない。

 まぁ、数合わせは表向きで、本来は三人と交わしたり約定により男共より守るボディーガード的な役回りも担っている。

 振るのは確定しているから、色恋沙汰でこのグループを崩壊させたくないそうだ。


 全くもって迷惑な話だ。俺は一人静かに何事もなく過ごしたいだけなんだが、次から次へとトラブルが発生する。全くもって厄介だ。


 カースト最上位グループの一人、水戸斉みといつき、男子のカリスマリーダー的存在。人当たりがよくクラスメイト達の相談相手になっている。

 アキラ達の友達だ。クラスとかイベントとお昼とかかいつも一緒に行動している。

 どうやらアキラに好意を持ってるらしいが本人はその気がないらしい。


 アキラに尋ねるとクラス内を円滑に回すため、水戸と同じグループで行動している。いい人だと思っているが特に好きというわけではない。アキラはここだけクドく主張。


「ナリ、鹿達可愛いよね。こんなところ中々来れないから大いに堪能しようぜ」

「そうだね。私達の最初で最後の旅行だもん。水戸君達も沢山楽しもう」


 さわやかイケメンの水戸は同じグループの女子達を優しくエスコート。俺的にはいけすかないやつだが、口は挟まない。大半が水戸の味方だから俺みたいなぼっちに勝ち目はないのだ。


 男嫌いの大久保も、高校生活過ごしていくには水戸達の力も必要だから邪険にできなくて困っていた。

 でも、顔がどことなく引きつっている。


 そういう風に考察すると、今までイケメンだから何でも許されると世の理不尽さを呪ってきたが、実際は一部だけだと判明するに至り、イケメンしか男とみなさない女子への考え方を改めることにした。


 奈良公園は全国にある普通の公園。違うと言えば数えきれないほどの鹿、鹿、鹿。そこら辺にくつろいでいる。もちろん動物園じゃないので柵はない。 


 それ以上に糞がすごいけど、これだけ鹿だらけだったら当然のことか。管理の人達へご苦労様だと述べたい。


 ——次に俺達は春日大社へ向かう。

 春日大社一之鳥居——日本三大木造の鳥居だが頑張れば隣の奈良公園からショートカットできるのに、勉学の為とはいえ、わざわざここまで戻るのは納得できない。


 神社の朱色と銀杏の黄色の二色。そしてでかい圧巻だった。ツーリングでよく神社とか行くが規模がまるで違う。あの鹿島神宮や日光東照宮より広いのではないだろうか。京都や奈良にはこんなパワースポットがごろごろ点在している。

 あーあ、京都か奈良に住みたいな。


 境内には無数の釣燈籠、石燈籠が設置されていて写メのシャッターが止まらない。

 その間アキラは同じ班の水戸と雑談、西郷は好意を持つ陽キャラ男子のトークを適当に流し退屈そうにあくび。

 大久保は早速御朱印帳を持ってキョロキョロしている。とっととお参りを済まして御朱印を記入してほしいのだろう。

 ちなみにここにも鹿がいた。

 

 それにしてもアキラ達話が長いな——もしかして困っている?


「済まないちょっといいか?」

「何かなえっと確か伊藤君?」

「水戸君、井伊だよ」

 

 伊しか合ってないわ。


「委員長、時間的にそろそろ戻らないとスケジュールが狂うぞ」

「しまった、もうそんな時間か……。もう周りに誰もいないや」

「井伊ごめん、夢中に話していてすっかり忘れていたよ」


 アキラは口パクでサンキューと感謝。グループの最後列で皆にバレないよう俺の手を繋ないだ。


 あとで改めてアキラへ当時の状況を聞くと、水戸が執拗く最終日の自由時間二人で出かけないかと誘われていたそうだ。

 アキラに対する水戸の本気を垣間見る。

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