第七話「キスの終焉と上位互換の提案」そのニ
十一月四日
今月は修学旅行が控えていた。
陰キャラぼっちとしては断固として行きたくないが、ボイコットなんかしたら委員長にお叱りをうけてしまうので大人しくしている。
——などと下校途中考え込んでいたら、商店街で見知った顔と遭遇する。
「おや井伊君。珍しいところで会いますね」
「大久保お疲れさん。弓道部の帰りか?」
はいと頷く武道少女。
委員長の親友である大久保寿導。相変わらずすらっとしててカッコイイ。武道系少女で長い黒髪をポニーテールで結んでいる。こういう少女を『やまとなでしこ』と表すんだろうな。
「今日はナリと一緒じゃないのですか?」
「委員長は今日、風紀委員会の集まりに顔を出すそうだよ」
「なるほど。最近忙しくて仕事を溜め込んでるってぼやいていましたからね」
「はて、あいつは俺に最近暇でしょうがないって言ってたけど……何処か連れて行けって駄々こねなれた」
「ははは、そこはナリを察してあげてください」
「何を?」
女心はわからん。
大久保は指をさし、「よろしかったらコンビニでコーヒーでも飲みませんか?」俺を誘う。
「寄り道しても大丈夫なのか?」
「私は風紀委員じゃないのでお固くないから大丈夫ですよ。それに井伊君のお話聞きたいし、ナリを待つ大義名分も立つでしょ?」
「委員長のことはどうでもいいけど、そこまでいうのなら……」
帰っても暇なので大久保の提案を飲む。
しばらく二人でダベっていると、「——むう……珍しい組み合わせだね」俺達を発見した委員長が怪訝そうな顔をしてこちらへ来る。
「ナリお疲れ様。仕事終わったのですか?」
「委員長お疲れさん」
「今日は幼稚園に妹達を迎えに行く日だからなんとかメドをつけた。犬にもご飯を食べさせないといけないからね」
「犬なんか飼っていましたっけ?」
「犬?」
「最近飼い始めたんだよ。人の言うことをまるで聞かないダメダメのがいるんだ。すぐ部屋を散らかすし、ご飯は偏るし、徹夜して不規則だし、だからちゃんと世話をしないといけない。しかも極度の浮気症、恩を仇で平気で返すんだよ」
「ふふっ、なるほど〜よっぽどその犬のこと大好きなんだね」
「そんな犬がいるのか?」
「どうなのかな。可哀想だから構っているだけかもよ」
なぜか委員長は俺のことを凝視する。大久保の視線が逸れた瞬間蹴られた。俺が何をした……いたた。
「それで何を話していたの?」
「大したことではないですよ」
「今度修学旅行だろ。今のうちに準備しておかなきゃって感じ。経験上行きあたりばったりじゃ現地に到着しても、探すだけで時間が掛かるから、やりたいことの五割も出来ないからな。今もうちに計画を細かく練っておかないと後悔する」
「楽しみだよね」
「そうですね。行きたかった京都なので今からワクワクしてますから、自由行動に向けて準備に余念はありません」
「俺はツーリングの方が性に合っているから乗り気じゃないけどな」
委員長は当たり前のように珈琲を飲む。俺の飲みかけだったのだが……。
「協調性ゼロ君は置いといて、ジュドー、御朱印とか御城印を集めるのが趣味だもんね」
「普段は関東限定で集めているのでとても楽しみ。御朱印帳も数札購入予定ですよ」
「渋いな」
御朱印とは神社仏閣を参拝した証としてお金を払いもらえるもので、対して御城印はお城へ行った証として買える物。
御朱印帳はその御朱印を書き記すもので、各地の神社仏閣をデザインしたものが多くオンリーワンなので、コレクターにとっては喉から手が出るほどの価値がある。
俺もよく観光のついでに寄るので買ってこようかと尋ねたら怒られた。自らのから足で出向かないと意味がないそうだ。そういうもんかねぇ。
委員長が小声で、『にへへ、じゃあ私が噛んだ証のある直助も御朱印帳だね』などと嬉しそうに笑う。
俺は途端に恥ずかしくなり、その証に手を置いた。




