第七話「キスの終焉と上位互換の提案」その一
十月二十七日
文化祭で先送りになっていた中間テストの結果が廊下へ張り出されていた。
「………………」
「………………」
予想外の結果、俺はこの場に適した言葉を持ち合わせてない。
そう、俺の成績が下がっていたからだ。しかし今回は悔しい気持ちより、背徳感があったキスから開放される気持ちのほうが強い。
「委員長、俺の負けだ」
「そうだね。終わっちゃった」
「これで委員長が俺にキスする理由はなくなった」
「うん」
嬉しいような悲しいような。
突如、俺達の歪な関係は漸く終焉を迎えた。
委員長が風紀を乱す俺を矯正しようと提案した罰ゲーム。成績を上げれば委員長がキスをして、下がれば俺が委員長の言いなりとなる。
今まで俺が全て勝利してキスをしてもらっていたが、勝負に負けた以上は委員長のオーダーに従わなければならない。
当初はお互い嫌がっていたが、終わってみたら一抹の寂しさもある。慣れとは恐ろしいものだ。
「それでどうする。俺は何をすればいい? 当初の目的通り学業を真面目にやれというのであれば真面目にする。約束は約束だし従うよ」
「ううん。今まで通りで構わないよ。私も考え方が変わったわ。直助はいいところも一杯あるしね」
「しかしそれだと勝負にならないぞ」
「確かにそうだね……ならこれどう?」
「ちょ、ちょっと、何をする?」
委員長は俺に抱きつくと、「次の試験まで直助を噛ませて」首筋をかぷっと噛まれた。
手で触ると思いっきり歯型が刻まれている。痛いというより気持ちよかった。
「吸血鬼かよ」
「負けた以上は私の忠実な犬。なんでも命令に従ってくれるんでしょ?」
「まじか……クラスメイト達に発見されたら恥ずかしいわ」
「直助が誰の所有物なのかというマーキング何だからいいのよ……なんてね。なるべく目立たない場所にするよ」
「頼むぜ」
これはキスの上位互換。
いいや……キスより難易度が高いだろ。
特に俺は陰キャラだからな。女を脅しているとか飼っているとか、歯型を誰かに見られたら絶対ろくでもない噂になるぞ。
何処か妖艶に微笑む委員長は、その歯型を写メに撮った。マニアックな……。
「そういえば話は変わるけど直助、夕飯の買い物に付き合ってくれないかな?」
「買い物か?」
「そう、今日スーパーの特売日なのよ。大量に買い込むから荷物持ちお願い。その代わりあんたに勝利して気分がいいから好きなもの作ってあげるよ。無論妹達のついでよ。ついで」
放課後、校門を出てこれからの予定を決めかねていたので暇つぶしには丁度いいが……。
「それは複雑な気分だ。付き合うのはやぶさかではないが、あまり人の多い時間帯だとクラスメイト達と鉢合わせしてしまうのではないか?」
「遠いところのスーパーだから大丈夫だよ。そこら辺は抜かりなし」
「なら安心かな」
毎回毎回ご飯作ってくれたり、おかずを持ってきてくれたり、俺としてはとてもありがたいが、委員長は校内でモテモテのリア充だから、共に買い物している現場を目撃されると良くない噂が流れ色々困るだろう。
それでなくても風紀委員長として校則を守る立場なんだからさ。
これでも俺なりに気を使ってるつもりだ。
「もう、いっそう私達付き合ってますって宣言しようか? 交際しているのならこんな煩わしさから解放——って冗談よ。本気にしないでね」
「恋人は行き過ぎでも友達だと公表すれば不自然さは拭えるかもしれない。しかし委員長を狙ってる奴が一杯いるから出来れば交友関係をまだオープンにしたくないんだ。どんなトラブルが発生するか予想つかないからな」
「確かにめんどくさい。彼氏なしをずっと貫いてきたから私へ告白してくる人は結構いる。でもそろそろ疲れたかな。誰かいい人いないかなー?」
「委員長がその気になればいくらでも見つかるだろう」
俺達は目的のスーパーへ買い物するためにバスへ乗り込む。
「それが私のお眼鏡に叶う人材がなかなか現れないのよ」
「理想が高そうだもんな」
「そうよ。いつも私のことを大事にしてくれて、いつも私のことを見守ってくれて、いつもピンチになったら助けてくれる私だけのヒーロー」
「おいおい、そんなやつはいないぞ。理想を見過ぎだ」
「いや直助が認識してないだけで結構近場にいるかもよ。ふふふっ」
「そんな凄いのいるかな?」
それに対して委員長は意味深に微笑むだけだった。




