第五話「風邪と合鍵と彼シャツ」その一
九月十一日
夏休みが明けて少し経つ。まだ休みボケが尾を引いているのでホームルーム中と相まって眠い。先生の長い経験談聞いていたら睡魔にブーストがかかった。
とうとうウツラウツラ舟を漕いでいると、「もう……井伊、寝ないでよ」隣で委員長が俺の手をつねる。
「——っ悪い委員長」
「ねえ井伊、学校終わったあと買い物に付き合ってくれないかな?」
「委員長、風紀委員会いいのか? 今日から風紀強化週間だろ?」
委員長はクラス委員長の他に風紀委員長と美化委員も兼任している。リア充にして優等生なのだ。
「平気平気。今日は挨拶程度だし所詮はお飾りの風紀委員長兼美化委員だし私いなくても機能するのよ。それに貧乏なウチはスーパーの特売のほうが百倍大事」
「別にいいけど俺なんかに付き合っていいのか? お前優等生で人気あるから噂になったら厄介だろ?」
「私達はダチなんでしょ? 気にしないよ」
「それを言われると痛いな」
夏休み前より委員長との関係がだいぶ変化する。
前は何処か他人行儀だったが、今やゲームやっていると平気で覗いてくるし、俺のカバンからものを探したり、ハンカチ忘れたら貸してくれる。ボディータッチもぽんぽんしてくるし何処か距離も近い。
委員長の親友である西郷と大久保は周囲には明かしてないが何となく関係が変わったことを察知したのか、二人は付き合ってないのかと聞かれる。しかし挫折した陰キャラぼっちの俺と将来が明るいカリスマ委員長では釣り合いが取れないと本音を語った。
「それに妹達がまた会いたいってせっつくのよ」
「この前モールで迷子になっていたのが委員長の妹達だと分かった時はびびったぞ。——となると妹同伴のデート?」
「デ、デート? 勘違いしないでよね。これはあくまでもあんたはスーパーの荷物持ちよ」
「だと思った……」
性格もこのように軟化したような気がする。真面目なのは相変わらずだけど、融通がきくようになったし羽目を外すときは外すようになった。
委員長っちの双子を迷子でたまたま面倒みたときも感謝していたっけ。
「あといつものあれもやるからね」
「もういいだろ?」
「だめ。あんたを改心するまではやめない」
「まじか……」
あと変わったと言えば、当初はいやいや事務作業だったキスも、今はノリノリでこなしている。しかも手にキスをしなくなった。頬とか耳とかうなじとか変わった所ばかりする。俺が恥ずかしくなるのを楽しんでいるんだろうなぁ。
なので一切表情に出さないようにしている。




