第四話「俺と委員長のサマーバケーション」
八月二十二日
無茶した足も復活して漸く夏休みらしい毎日を送る。
しかし最近委員長と一緒にいる時間が長く、バイクの免許も取ったので委員長連れて(強制)遠出したり、ファーストフードで宿題写させてもらったりしていた。
最初、日課のキスで会っても、最長でも十分程度だったのに、今では半日なんてざらだ。ぼっちに付き合うなんて余程暇なんだろう。
それで、今日は我が街の夏祭り。委員長がクラス皆で行こうと呼びかけるとほぼ全員集まる。もちろんその中に俺は含まさってない。
委員長のメッセージをずっと無視してきたからだ。あとでキレられても今更リア充の輪に入るつもりはねえ。大体俺なんてクラスメイトの名前もろくに覚えてないぞ。
なのに逐一委員長からLINEで動画が送られてくるのだ。嫌がらせかよ。リア充共による狂乱の宴へ俺を巻き込むな。
俺は見晴らしが良い高台にある公園で一人花火鑑賞としゃれ込む。つまみはスーパーで購入した半額コーヒー牛乳と半額バターロールに茹でたもやしとマヨ。
久しぶりのソロ活動。
委員長は俺といることが多いから本来のリア充に戻れてよかった。少し寂しい気もするけどこれでいい。
陰キャラと陽キャラでは元々住む世界が違うのだ。
「ハァハァ、井伊やっぱいた……」
「委員長? よくここがわかったな」
息を切らした委員長が両膝に手を当ててぜいぜい言っている。
それはそうだ。ここは長い坂道の頂上なので昔からトレーニングコースとして活用しているホームグラウンドだからな。
「井伊の性格はよく知っているからね。それに人気がないここがお気に入りって教えてくれたじゃん」
「ちっ、毎日一緒にいるから余計な事も口走ってしまうな。それより委員長、その……とても浴衣似合っている……可愛いよ」
「あ、ありがとう」
「でも、今ビデオ通話で流しているのは誰だ?」
スマホを委員長へ見せる。
「ジュドーだよ」
「名前言われても分かんねー。西郷か大久保か?」
「うん。井伊が気が付いて逃げないように替え玉を配置したのよ」
「俺は罠にハマった獣か?」
「似たようなもんでしょ——間に合った。うわー花火綺麗!」
花火が打ち上がる中、委員長は俺の隣へ腰掛ける。肩が当たるほど距離が近い。
「おお、迫力満点だな」
「たまやー!」
「それ叫ぶやつまだいたんだな」
「井伊、今年の夏は楽しかったよ」
「そうか。まーリア充はいいよな」
「何勘違いしているのさ、井伊あんたがいたおかげだよ」
「は?」
「今までは友人達と付き合いでつるんでいたけど、井伊は違かった。本来の自分でいられるから余計な気を使わなくて済む。良い子ちゃんの仮面をかぶっているのも大変なんですよ」
「優等生には優等生なりの苦労があるんだな」
委員長が差し入れしてくれたたこ焼きのご相伴に預かりながら、コーヒー牛乳を飲む。
それでなんの躊躇もなく、「井伊、一口だけ頂戴」委員長は俺の飲みかけを飲んだ。さすがリア充、ココらへんバグっているのか社交スキル半端ない。
「そろそろ夏も終わりだな。今年も彼女できず終わってしまったか」
「あんた作る気ないでしょ?」
「確かに一人でいるほうが気楽だからな。でも興味がなくもない」
「こんな可愛い女の子と毎日キスしているのにね」
——と委員長は今日のノルマ終わっているのにまたおでこにキスをした。
「委員長が好きなやつできたらこんなことやめるんだぞ。彼氏に悪すぎるからさ」
「……できたらね」
「それより委員長、貞操感緩んでないか?」
「失礼ね。癖でしてしまっただけよ。それにこんなことするの井伊だけなんだからね。罰ゲームだから嫌でも仕方なくしているだけ。陰キャラぼっちが可愛い女のコにキスしてもらうこの幸運を噛み締めなさい」
「へいへい。嬉しい嬉しい」
「あー、気持ちが籠ってない!」
祭りの夜はこうして終わり、夜が更けていく。
ちなみにクラスの中心人物である委員長が何も告げず途中で抜けた為、迷子になったと大騒ぎだったらしい。戻ったときは大目玉を食らい平謝り。何をやっているんだか……。
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