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不完全さの共鳴とガラスの音

私はいつも、世界を見るより先にその音を聞いてきた。レヴィアタニアの下水道にいるネズミの速い心音、血の鋼鉄ブラッドスチールが苦痛に軋む音、アーサーの寄生体が主導権を握ろうとする時の頻脈タキカルディア。すべてに歌がある。すべてが振動している。


でも、目の前にいるあの機械は? 何も発していなかった。軍医総監サージョン・ゼネラルの力場はあまりにも閉じた数学的方程式であり、軌道プラットフォームの音響を吸い込んでいた。


『7秒』彼の声は私の耳ではなく、頭蓋骨の中心に直接響いた。


彼は私を見た。あの白い大理石の仮面の奥にあるアルゴリズムが、脅威マトリックスを再調整した。アーサー、グリッスル、ヴァレリアは、彼のシールドのあり得ない物理法則によって無力化され、床に倒れている。私は、まだ立っている唯一の変数バリアブルだった。


軍医総監はためらわなかった。銀色のカドゥケウス(杖)を掲げる。金属に彫り込まれた2匹の蛇が、無菌のクリック音とともに杖の内部へと引っ込んだ。杖の先端から、周囲の酸素を燃やすようなシューッという音とともに、超濃縮された光の固体ソリッド・ライトのビームが噴き出した。


それは単なるプラズマではない。純粋な光のライトセーバー、存在そのものを焼灼しょうしゃくするために設計された無菌の刃だ。


私はグリッスルじゃない。私の骨は簡単に折れる。ヴェラス先生のようなエントロピーも持っていない。私の音波の杖は、先端に圧電ピエゾ結晶がついた、ただの酸化した金属の棒だ。でも、私はクリスタルグラスが粉々に砕け散る寸前の「音」を知っている。


彼は前進した。無重力は彼に影響を与えない。デジタルの捕食者のような流麗さで動いた。光の剣が垂直の弧を描いて振り下ろされる。私の目で追うにはあまりにも速すぎた。


私は自分の目を信じなかった。目を閉じたのだ。


ミリ単位の空気の移動を聞き取った。刃が大気を切り裂く甲高い音符ノートを。


致命的な光が私の肩の数センチ横を通過し、熱で髪の毛の先が焦げた、まさにそのミリ秒の瞬間に、私は横へ一歩踏み出した。


目は閉じたまま、踵を返して攻撃した。


彼のアーマーは狙わなかった。彼の胸から1メートル離れた、何もない空間を狙った。杖を通して周波数をチャネリングする。ときの声ではない。鉄を腐食させるさびの、低く不協和な音符だ。


ガァァァン!


私の杖のクリスタルが見えない障壁に激突した。運動衝撃が腕を伝い上がり、肩が外れそうになったが、私は引かなかった。彼の方程式に音を注射インジェクトする。


エネルギーの壁が明滅した。信号を失った古いテレビのような静電気の波紋が、衝突点から広がっていく。力場がほんの一瞬だけ不安定になった。


『音響的異常。丸め誤差ラウンディング・エラー』彼のテレパシーの声が揺らぎ、初めて微小なノイズが混じった。


『6秒』彼は手首を返し、光の刃で私を真っ二つにするための水平の弧を描いた。


ハードライトの床に身を投げ出し、背中に軌道エミッターの振動を感じた。刃が私の頭上を通り過ぎる。倒れ込む勢いを利用して杖を振り上げ、彼の膝の近く、下から上へと見えない障壁を打ち据えた。


今度は、飢えた子供の泣き声の周波数を歌った。有機的な絶望の振動だ。


ピキッ。


ガラスがひび割れる音が響いた。力場のドームに、発光するギザギザの亀裂が現れた。数学は、生々しい感情の処理に苦戦していた。


軍医総監が半歩後退した。彼のアルゴリズムはこの戦術を理解していなかった。私は力任せにシールドを貫通しようとしているのではない。リズミカルなウイルスを導入しているのだ。私は彼の調律を狂わせて(ディスチューンして)いた。


『5秒。構造的欠陥の確率を検知。排除の優先度:歌いカンターラ


彼は白い残像と化した。完璧な幾何学的刺突と斬撃の嵐。


私は剃刀の刃の上で踊った。すべての回避が、熱的死ヒートデスに対する賭けだった。彼の光の剣が袖の生地を焼き、太ももをかすめ、私を窒息させるオゾンの軌跡を残していく。


しかし、彼が攻撃を外すたびに、私は障壁に反撃した。


ドンッ! 血が凝固する周波数。

ドンッ! 骨が粉砕される周波数。

ドンッ! 海が『フリーマーケット』を押し潰す音。


彼の周りの見えないドームは、もはや見えないものではなかった。きらめくバグで覆われ、破損したコードの六角形が青から赤へと狂ったように点滅している。今の障壁の音は、焼き付いたエンジンのように聞こえた。


『3秒』背後の軌道エミッターが目も眩むような輝きに達した。空が今まさに、地球の上に落ちてこようとしていた。


鼻から血が出ていた。私の小さなクリスタルにこれほどの音響エネルギーを封じ込める圧力で、鼓膜が破裂しそうだった。私は生物学的な耐久力の限界にいた。


軍医総監が両手で光の剣を頭上に掲げ、最後のギロチンの構えをとった。疲れ切った私の体ではもう避けられない、クリーンな処刑。


逃げようとはしなかった。


輝く床にしっかりと両足を踏みしめた。機械ののっぺらぼうのバイザーを真っ直ぐに見つめる。


背後にアーサーの荒い息遣いを感じた。グリッスルの痛みを感じた。ヴァレリアの頑固さを感じた。私たちを生かしてくれている、すべての汚れ、すべての変異、そしてすべての素晴らしい混沌カオスを感じた。


軍医総監の基音ファンダメンタル・ノートを見つけた。彼の虚無の周波数。


そして、その絶対的な対極を歌った。清潔クリーンにされることを拒む、命の叫びを。


「手術はキャンセルよ!」自身の声が杖の共鳴と融合しながら、私は叫んだ。


光の刃が私に振り下ろされるのと寸分違わぬミリ秒の瞬間に、音波の杖の先端を、シールドの胸にある中央の亀裂に向かって真っ直ぐに突き出した。


クリスタルがひび割れたマトリックスに激突した。


周波数が方程式を真っ二つに引き裂いた。それは熱爆発ではない。論理的な内破インプロージョンだった。


百万枚の鏡が一斉に割れるような甲高い音がプラットフォームを飲み込んだ。軍医総監の無菌の力場が弾け飛ぶ。破損したデータと無害な光の衝撃波が空間を一掃し、私の額の数センチ手前で光の剣を消し去り、死んだコードの断片を真空へと吹き飛ばした。


機械はむき出しになった。私たちの世界の前に、裸にされたのだ。


音波の反動で私は後ろに弾き飛ばされた。膝から崩れ落ち、感覚を失った手から杖が転がり落ちる。息を喘がせ、疲労で体が激しく震えていたが、障壁はもう存在しなかった。完璧な沈黙は死んだのだ。


血と汗でぼやけた視界の中、顔を上げて微笑んだ。


「アーサー……」弱々しいが、揺るぎない確信に満ちた声で呟いた。「麻酔は切れたわ……あとは先生の患者おもちゃよ」


私の肩越しに、巨大な影が床に投影された。


ヴァレリアのライフルのプラズマモーターがチャージされる、猛烈な咆哮が聞こえた。


折れた腕を無視して立ち上がる、グリッスルの関節が鳴る音が聞こえた。


そして、ヴェラス先生の黒水晶の腕の身の毛もよだつようなシューッという音が聞こえた。それは最大出力で点火し、プラットフォームを飢えたエントロピーの紫色の輝きで染め上げていた。


障壁は落ちた。エミッターへの道は開かれた。


私のチームが私を追い越して前進していく。宇宙の秩序そのものの胸郭を切り開く準備が整った、止めることのできない外科的カオス(サージカル・カオス)の波だ。

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