エントロピーの移植と多臓器不全
百万枚の鏡が割れる音が、軌道プラットフォームにまだ木霊していた。だが俺の耳には、それが最も美しい交響曲に聞こえた。軍医総監の難攻不落のドームは、ルナの共鳴のおかげで死んだ光のピクセルへと崩れ去っていた。
完璧な機械は、今や丸裸だった。そして俺たちは、飢えていた。
『警告。構造的完全性が損なわれました。防衛マトリックスに致命的なエラー……』彼がそれほどまでに軽蔑していた物理世界のノイズに突如として飲み込まれ、軍医総監のテレパシーの声が揺らいだ。
「あんたの診察時間は終わりだ!」グリッスルが吠えた。
オークは力なく垂れ下がった右腕を無視した。彼女はヴァレリアと俺がリヴァイアサンの高密度な骨を移植した左脚を、油圧ピストンのように使った。プラットフォームの人工重力では彼女の暴力的な質量を止めることはできず、グリッスルは跳躍し、敵の白い大理石のアーマーの側面に直接、回転蹴りを叩き込んだ。
衝撃は内臓を抉るようなものだった。運動エネルギーを無効化する力場を失い、軍医総監のアーマーは、セラミックとシリコンが砕ける身の毛もよだつような音とともに陥没した。機械は横に吹き飛ばされ、エミッターの回転リングの縁の危険なほど近くまでよろめいた。
ヴァレリアは、奴がジャイロスコープを再調整する隙を与えなかった。
「てめぇの漂白剤、そっくりそのまま返してやるよ!」エンジニアは叫び、両足をしっかりと踏ん張り、力みによるうめき声とともに重ライフルの引き金を引いた。
プラズマ砲が咆哮を上げた。連続したビームではなく、過熱された物質の凝縮されたバーストを放つ。プラズマは軍医総監の彫刻された胸に激突した。合成大理石は瞬時に溶け落ち、そのアルゴリズムの忌まわしき者の血の代わりとなっている、ソリッド・ライトのケーブルと銀色の液体が露わになった。
『残り2秒』機械の背後にある軌道エミッターが臨界質量に達した。セルリアンブルーの光は目も眩むほどになり、その唸り声は俺たちの骨を振動させるような金切り声へと変わった。
軍医総監は自身の胸の致命的なダメージを無視した。奴の目的は生き残ることではない。俺たちを確実に殺すことだ。機械は、切断されたカドゥケウスを持つ腕を振り上げ、エミッターの中央コンソールに直接突き立てた。眼下のコンタージェンのクレーターへの殺菌パルスの手動発射を強行しようとしたのだ。
サイバネティックな左目が、赤い閃光で俺に警告した。引き金が引かれようとしている。
走りはしなかった。慣性をチャネリングし、膝を曲げ、弾道ミサイルのように宙に身を躍らせた。
黒水晶の腕は最大出力で点火し、俺自身の汗の湿気を凍らせるほどの絶対零度の紫色の霧を放っている。人間の右手では、ミスリルのメスが血に飢えたように輝いていた。
軍医総監は空虚なバイザーを俺に向け、空いている腕を上げて俺を迎撃しようとした。だが、傷ついた機械の熟考よりも、カオス的な生物学のほうが常に速いのだ。
奴と激突した。俺の体重が、俺たち二人をエミッターのむき出しのコアへと叩きつけた。
「俺がこの地球の『主任外科医』だ」耳をつんざくような唸り声を切り裂き、俺は囁いた。「そしてお前は、切除されるべき単なる腫瘍にすぎない」
寄生体の爪を完全に伸ばした右手を、奴のアーマーの溶けた胸の傷口に直接突き立てた。俺の変異した汚らわしい生物学が、その存在の汚れなき処理コアと直接接触する。寄生体は無菌状態を汚染することに歓喜の遠吠えを上げ、ハードライトの回路に腐食性酵素と有機酸を注入した。
機械が震え、そのシステムは、俺が銀色の静脈に無理やり押し込んでいる生物学的な泥を必死にパージしようとした。
『感染……末期感染……』
だが、俺はまだ終わっていなかった。
エミッターの発射まで、まだ数秒あった。
黒水晶の腕を振り上げ、軌道爆弾のセルリアンブルーのコアそのものに、直接手のひらを押し当てた。
「混沌の輸血だ」俺は命じた。
『バベルのコード』を解放する。かつてヨーロッパを跪かせたエントロピーのウイルス、構造化された魔法を破壊するために設計された論理的「病気」が、俺の腕からエミッターへと流れ込んだ。
反応は即座であり、黙示録的だった。
殺菌パルスの青い光がむせ返った。バベルのウイルスは数ミリ秒で発射シーケンスを書き換えた。惑星の表面にクリーンな放射線波を放つという命令があった場所に、ウイルスは無限の数学的パラドックスを挿入したのだ。ゼロ除算。デジタルな多臓器不全だ。
軌道エミッターの球体が身悶えし始めた。青い光は突如として病的なものになり、腐敗した紫と黒の筋で汚染されていく。
コンソールと物理的に繋がっていた軍医総監は、その反動をまともに受けた。奴の白いバイザーが内側から粉々に砕け散り、黒い火花と破損した光を噴き出す。合成大理石の体は硬直し、最後の破裂音とともに、不透明で不活性なガラスへと変わった。宇宙の「安楽死」は死んだのだ。
機械の腕を引き抜き、激しく息を喘がせながらよろめき後退した。
「アーサー! 球体が!」ヴァレリアが俺の方へ走りながら叫んだ。
エミッターを見た。バベルのコードはそれをただシャットダウンしただけではない。内側から喰い尽くしていたのだ。球体は自己の重力崩壊を起こし、スローモーションで内破しつつあった。
「手術は成功だ。だが、手術室が崩壊してるぞ!」ヴァレリアの腕を掴み、コアから引き離しながら警告した。
『針』のアルゴリズムを維持するエミッターを失い、塔のインフラは機能不全に陥り始めた。足元のソリッド・ライトの床が明滅する。人工重力が激しく揺らぎ、俺たちを1秒間浮遊させたかと思うと、次の瞬間には床に重く叩きつけた。
巨大な円柱の銀色の壁が、輝くシリコンの粉塵へと溶解し始める。高度1万メートルの希薄な大気から俺たちを守っていた膜に穴が開き始めた。中間圏の凍てつく風がプラットフォームに吠え込み、酸素を吸い出していく。
「螺旋の階段が消えた!」俺たちが登ってきた光のリボンが火花となって散っていく塔の中心を、グリッスルが指差した。
俺たちは、成層圏とコンタージェンのクレーターを繋ぐ針の頂点にいた。そしてその針は、今まさに溶け落ちたのだ。
「降りなきゃならん! 今すぐだ!」シールドを破るという途方もない努力の末、いまだ膝をついていたルナの元へ走り、彼女の腕を俺の肩に回して立たせた。「ヴァレリア! エーテルの緊急パラシュートだ!」
エンジニアは溶けたライフルを投げ捨て、タクティカルベストの留め具を開けて、高密度の小さな金属ディスクを取り出した。
「これ、ドレッドノートの自由落下を安定させるために設計されたもので、生身の人間4人用じゃないんだよ! あんたらの人生で最も荒っぽい降下になるからね!」
「固まれ!」俺は命じた。
グリッスルが無事な方の腕でヴァレリアにしがみつく。俺はルナを抱き寄せた。プラットフォームの中央で体を寄せ合ったまさにその時、ハードライトの床が最後の明滅を見せ、完全に消滅した。
地球の重力が、俺たちを取り戻した。
自由落下が始まった。
崩壊していく塔の内部を真っ逆さまに落ちていくにつれ、耳をつんざくような激怒の風が耳元で咆哮した。頭上ではついにエミッターが内破し、衝撃波を生み出し、液体金属と死んだシリコンの破片の雨を抜けながら俺たちの落下を加速させた。
絶対無菌状態は「治療」された。地球は殺菌から救われたのだ。
だが今の課題は、最も汚らしく、最も容赦のない物理法則を生き延びることだ。つまり、俺たち自身の世界の傷跡である「ガラスの床への激突」を。




