表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虫嫌いの異世界永住計画  作者: 佐久間
12/15

第2回家族会議

「私、働く。お金を稼いでリィヴの実もミントも自分で買う!」


私の決心を耳にした家族が皆、表情を固めて私を見つめる。


当然だ。


つい最近まで自分の命すら危うかった小さな少女が急にそんな事を言えば誰でも「何言ってんのこいつ?」って思うだろう。

ましてやそんな奴が自分の家族の一員ともなれば、その表情には動揺や不安、心配といった複雑な感情が混ざって浮かぶ。


そんな中、一番最初に声をあげたのはエルース母さんだ。


「エリア?何言ってるの?気持ちは分かるけどそんなの無理に決まってるでしょ。」


病弱な私の身体を一番労ってくれる優しい母さんがこうして一番に声を出すことも当然で、娘の馬鹿げた発言に賛成するわけがないのもやっぱり当然だ。


(まぁ、反対されるよね。だけど今まで通り引き下がる訳にはいかないよ。)


ここで引き下がったら虫除け用のミントも手に入らなくなるし、植物油で作ったリィヴ石鹸も元の豚油石鹸に逆戻りだ。材料が取れる森が閉鎖になるんだったら、私が自分で働いて材料を買うしかない。


「無理かなんて試してもないのにわからないよ。意外ときびきび働けるかもしれないし。」


何て言ったって私が春菜の時はちゃんと社会人やってたんだから。そこら辺の5歳児と比べたらよく働ける自信があるぞ。


「試さなくても分かるわ。エリア?何もお母さんはエリアに意地悪してるんじゃないのよ?確かに前に比べるとすごく元気になって私も嬉しい。でも、病気の"症状"が無くなったわけでもないのに外に出せるわけないわ。まして、働くなんて無理に決まってるでしょ?」


「うっ」


エルース母さんのもっともな指摘に言葉が詰まる。

それは予想していた指摘だったが、いざ面と向かって言われると全くもってその通りだと思わざるを得ない。


(エリア)の病気。


それが何かと問われれば分からない。としか答えられない。


病名も分からなければ先天性なのか後天性なのかも分からない。治療法にしてもこの世界で病院の役割をこなしているという【教会】でも分からないと言われたそうだ。そんな状態で有効な薬や手術が分かるわけもなく、果たして治るのか。はたまた不治の病と言われる類いのものなのか何も分からない。


そして、結局最後まで分からないが故にエリアちゃんは一度命を落とすことになった。


そんな中で唯一分かることはこの身に起こる"症状"だ。


「今はどう?眠くない?体温は……平気そうね。」

「……大丈夫だもん。」


怒ってもおかしくないはずの母さんが優しく私の額に触れる。

こんな言い争いのような状況においても私の体調を気遣う母さんは本当に心配してくれているのだろう。意地悪を言っているなんて思う訳もない。


額に広がる温もりはなんだかほっとする懐かしい感触だ。

下手したら本当に寝てしまいそうなほどに。


―そう。


この病気の最たる症状は耐え難い"眠気"だ。

たかが眠気と言うかもしれないが、それは"症状"と表すに十分なもので、普通とは訳が違う。


最初に訪れるのは手足の冷えだ。


まるで氷水に手を浸けているかのような冷たさがヒリヒリとした痛みを伴いながら熱を奪っていく。それが足先からも容赦なく広がる。


次第に冷たさはその面積を増やしていき、腕に脚に、胸に腹に、身体全体に広がり、最後は目の前が闇に包まれていく。



そして気がつくと私は真夜中の雪原に仰向けで寝ているのだ。

それは暗転した視界と身体を包む冷気が見せる妄想や幻なのだろう。しんしんと黒い雪が降り積もり身体を埋めていくのに、起き上がることも逃げることも抵抗もできないのだから。


どうすることもできずに仰向けのまま見上げる空は月も星もなく、真っ黒。なのに見れば見るほど更に深みを増しどこまでも深黒に近づいていく。


そんな中で私はなんとか光を求めて手を伸ばす。

だけど、何も掴むことは叶わず、意識は完全に闇に飲まれる。



途切れた意識が目覚める時、私はいつも身体を抱くようにして寝ていることに気がつく。何かを掴みたかった自らの手が強く握られた二の腕に爪が食い込み、血が出ていることもある。凍える体温を少しでも保とうと本能がそうしているのだろう。


症状を分かりやすく眠気と表現したけど、私の意思と関係なく襲ってくるそれは正確には予兆のある気絶と言った方がいいかもしれない。



母親からしたらそんな状態の娘を外に働きに行かせられるかと問われればダメと突っぱねるのも無理もない。私が母親でもそうする。私自身だってそんな状態で外に出ようとは思わない。


だけど、それは何の対処もしなければの話だ。


私の中身は5歳の少女じゃない。ただぼーっとこんな症状を毎日経験していて、何も試さずにいられる訳もない。


「今も大丈夫だし、出かける前にたくさん寝れば大丈夫だよ。最近はいきなり眠らないでしょ?」

「それは……そう、ね。」

「でしょ!」


私が編み出したこの症状に対する処方。それはしっかり眠ることだ。単純かつ直接的で何の捻りもない。こんなに眠たいならいっそめっちゃ眠ったれと半ばやけくそで見つけた対処法だ。


体調管理に休息は何よりも大切ってね。


最初は8時間から始めて9時間、10時間……そして約14時間くらい眠った後なら次の睡眠時間まで、つまり約10時間くらいは活動できることが分かった。今のところその間に気絶する症状は出ていない。


もしかしたら生前のエリアちゃんも私のようにたくさん寝たら幼くして亡くなることもなかったのかもしれない。


できればの話だけど。

そうと分かっていなければこの対処法は試すのは難しかったことだろう。


 『怖い』


なぜなら、この方法には1つだけ欠点がある。

それは恐怖でなかなか眠れないことだ。


眠る度に訪れるあの冷たい暗闇に包まれる感覚はどうしても『このまま目覚めないんじゃないか』という心配が頭から離れない。

無意識に眠気に抗ってしまうし、例え寝られても安眠はできず、すぐに目が覚めてしまう。私もこの身体になって数日は寝るのが怖かった。



5歳の少女がそんな状態で平気でいられるだろうか。無理たからこそ次第に体力は落ち、気持ちも落ちていく。ゆっくり寝られないから、昼間でも急に眠気に襲われる事もあっただろう。結果的にいつどんな時に症状が出るか分からない恐怖で部屋から出ることはできないし、それがまた不眠と不安を引き起こすという負の連鎖だ。


私が幼かったら同じように部屋から出ることもなくなり、同じ道を辿っていたことだろう。


でも今のエリアの中身は私で、しかも一度死んだ身でもある。

加えて言うなら、一週間働き抜いた週末ともなれば12時間は平気で寝ていた睡眠好きだ。


寝るだけで症状が抑えられると分かった今、心配することなんかないもない。


「お仕事行く前にしっかり寝れば大丈夫だよ。」


私は研究成果を高らかに発表する。

急に倒れることがないなら、私だって働いていいはずだ。


カイファが私の歳にはもう森で採取したのを売っていたことは知ってる。『溜箱』を引き取りに来てくれる、てるてる坊主のような格好をした私と同じ歳の彼だって働いている。


つまり年齢で働くのを縛る法律があるわけでもないはずだ。

働けるなら私が働いたって何の問題もない。


「たくさん寝る……そうね。でもやっぱりダメよ。」

「え?どうしてっ!?」


日本であれば5歳で働くことが許可されないのも頷ける。

だけど、ここは日本じゃない。だから許されるはずだ。それがどうしてまだ反対されるのか分からない。


私は強い意思を込めて母さんを睨む。

だけど、母さんが私の目を睨み返すことはなく、その表情は曇る一方だ。


「……エリア?母さんは本当に心配してるんだぞ。」

「父さん…」


そこに入ってきたのは父さんだ。


「確かにエリアの体調はよくなってる。それは家族に取っても嬉しいことだ。もしかしたらお前の言う通り、たくさん睡眠が取れているおかげかもしれない。」

「うん」


「だがな。だからといって外に出せるかといえば別の話だ。俺達の目の届かないところで急に倒れたりしたらどうなる?絶対にないと言い切れるか?それを心配するなという方が無理な話だ。それに他にも問題はある。エリアができる仕事がない。」

「え?」


「エリアの言う通り子供も仕事はできる。だが、できる仕事は限られている。よくあるのはカイファのように森で木の実や薬草なんかを収穫して売ったり、買わずともいいように家に持ち帰ったりだ。」

「それなら私にだってできるもん」


ミントの葉っぱだってリィヴの実だっては見れば分かるし、収穫くらいできる。


「無理だよ。エリア。だって森に行くなら朝早く出なきゃいけないもん。ずっと寝てたら他の子達がいいのを全部収穫しちゃうよ?早く採らなきゃいけないから走らなきゃダメだし、帰りは荷物だって重いんだから。」


「早起き……荷物。それはえっと…父さん…カイファまで。でも他の仕事なら……」

「難しいだろうな」


確かに早起きをしなきゃならないと言われると難しいかもしれない。睡眠時間を取れないと荷物も満足に持てないだろう。


父さんとカイファも私が働くことに反対する。

しかも、それは私の体調がどうこうというよりも具体的に私には無理だという内容だ。


外に出られれば何とかなると思っていた私に言い返す準備もなく、この世界の詳細も分からない私は他の仕事がないと言われればどうすることもできない。


「でも、でも。」


それでも虫の対策であるミントと葉も、石鹸の原料のリィヴの実も諦められない。なんとかしてお金を稼がないといけない。


「エリア。虫除けの葉が買えればいいのよね?なら私が今よりも仕事の数を増やすから我慢してくれないかしら?」

「え?」


狼狽する私を見かねた母さんがそんな提案をしてくれる。

確かにそれなら私が働かなくてもいいかもしれない。


ミントの葉とリィヴの実が手に入るなら……


「エルース。それはダメだ。はぁ………こんな時にいうもんじゃないと思うがな。カイファ。エリア。よく聞け。エルースのお腹の中にはお前たちの妹弟がいる。身重のエルースをこれ以上無理して働かせる訳にはいかない。」



「「え?」」


私とカイファの驚きの声が重なった。

エリア式24時間法


この世界に時計はないので日の出を5時、南向きの窓の正面に太陽が来たら12時、日が沈むのを19時として算出しただいたいの時間です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ