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離さない  作者: mimayu
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7/12

Do you like coffee?

 あの日のあの出来事以来……肝試しでお化けに追いかけられて以来、CDを親友に返し、携帯の着信音も替え、頭からテヨンの一切を吹っ切るように過ごしている美里。それなのに、芽生え始めた名前のない感情だけが、キレイに剥がせないシールみたいに、心のそこかしこに張り付いたままだった。それに追い討ちを掛けるように、East Topの加速する人気に伴って、外へ出れば否応無しに目や耳に飛び込んでくる彼らの曲、ポスター。

 美里は、パートや買い物以外はなるべく外出しないという作戦を決行した。

 どうしてここまでしてるんだろう?

 時折頭をもたげるそんなクエスチョンも、彼方におしやった。


*   *    *


シャワーを浴びて、濡れた髪をタオルで拭きながら、テレビをつけた。なんだか喉が渇く。美里はキッチンへ行き、冷蔵庫から500ミリリットルの缶ビールを取り出すと、グイグイと3分の1位を喉の奥へと流し込んだ。

ビールってこんなに苦かったっけ? そういえば、昼食もほとんど食べてなかったわ。

「やっぱ空きっ腹にはきくな~!」

 わざと親父っぽく言ったあと、なんだか虚しさに包まれた。


『本日のゲストはEast Top~!!』

 背後から突然、襲いかかられたような衝撃を感じた美里。恐る恐る振り返り、思わずテレビを凝視する。

 画面に映し出されたのは、音楽番組のMC2人と、East Topのメンバー。

『日本で好きな食べ物とかあんの?じゃあ、テヨンから』

 MCの1人が質問を投げかけると、画面が切り替わり、テヨンのアップが映し出された。その途端、美里の心臓がドキン! と音を立てた気がした。

『僕は色々ですけど~、特に缶コーヒーが……』

『缶コーヒー? そんなん日本でも韓国でも同じやないの?』

『だけど、エピソードがあるので』

『ほう! どんな? 言うてみ』

『はい。お恵みしてもらた事が、あります』

『お恵み?』

『今日も持てあるんですけど』

 そう言って、テヨンがパンツのポケットから何かを取り出そうとしている。

『自分、何してんの?』

『何処に仕舞って持ち歩いてんねん!』

 MCの2人から総突っ込みされながら、テヨンが取り出したもの。

『僕、日本ではあれから、この缶コーヒーしか飲むことしてません』

 真っ直ぐカメラを見て言ったテヨン。

『君、誰に向かって言ってんの?』

 笑っているMCと観客、そしてメンバー。だけど、テヨンだけはいたって真面目な顔をしている。

 画面越しとはいえ、目の前のその光景は、美里の頭を真っ白にさせるには十分すぎた。それ以降の音声は耳に入らず、ただ呆然と見つめているだけの画面に、フラッシュバックした光景が割り込んできた。

 公園通りでの、テヨンとの出会い。

『そこの自販機で恵んで……じゃなくて、当たったからその……どうぞ!あ、もしかしてコーヒー嫌い?』

『いえ、ありがとごじゃいます』

 テヨンのエンジェルスマイル。思い出しながら、美里はボ~ッとした意識のまま、ポツリとひとりごちた。

「そっか……コーヒー嫌いじゃなかったんだ」



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