Do you like coffee?
あの日のあの出来事以来……肝試しでお化けに追いかけられて以来、CDを親友に返し、携帯の着信音も替え、頭からテヨンの一切を吹っ切るように過ごしている美里。それなのに、芽生え始めた名前のない感情だけが、キレイに剥がせないシールみたいに、心のそこかしこに張り付いたままだった。それに追い討ちを掛けるように、East Topの加速する人気に伴って、外へ出れば否応無しに目や耳に飛び込んでくる彼らの曲、ポスター。
美里は、パートや買い物以外はなるべく外出しないという作戦を決行した。
どうしてここまでしてるんだろう?
時折頭をもたげるそんなクエスチョンも、彼方におしやった。
* * *
シャワーを浴びて、濡れた髪をタオルで拭きながら、テレビをつけた。なんだか喉が渇く。美里はキッチンへ行き、冷蔵庫から500ミリリットルの缶ビールを取り出すと、グイグイと3分の1位を喉の奥へと流し込んだ。
ビールってこんなに苦かったっけ? そういえば、昼食もほとんど食べてなかったわ。
「やっぱ空きっ腹にはきくな~!」
わざと親父っぽく言ったあと、なんだか虚しさに包まれた。
『本日のゲストはEast Top~!!』
背後から突然、襲いかかられたような衝撃を感じた美里。恐る恐る振り返り、思わずテレビを凝視する。
画面に映し出されたのは、音楽番組のMC2人と、East Topのメンバー。
『日本で好きな食べ物とかあんの?じゃあ、テヨンから』
MCの1人が質問を投げかけると、画面が切り替わり、テヨンのアップが映し出された。その途端、美里の心臓がドキン! と音を立てた気がした。
『僕は色々ですけど~、特に缶コーヒーが……』
『缶コーヒー? そんなん日本でも韓国でも同じやないの?』
『だけど、エピソードがあるので』
『ほう! どんな? 言うてみ』
『はい。お恵みしてもらた事が、あります』
『お恵み?』
『今日も持てあるんですけど』
そう言って、テヨンがパンツのポケットから何かを取り出そうとしている。
『自分、何してんの?』
『何処に仕舞って持ち歩いてんねん!』
MCの2人から総突っ込みされながら、テヨンが取り出したもの。
『僕、日本ではあれから、この缶コーヒーしか飲むことしてません』
真っ直ぐカメラを見て言ったテヨン。
『君、誰に向かって言ってんの?』
笑っているMCと観客、そしてメンバー。だけど、テヨンだけはいたって真面目な顔をしている。
画面越しとはいえ、目の前のその光景は、美里の頭を真っ白にさせるには十分すぎた。それ以降の音声は耳に入らず、ただ呆然と見つめているだけの画面に、フラッシュバックした光景が割り込んできた。
公園通りでの、テヨンとの出会い。
『そこの自販機で恵んで……じゃなくて、当たったからその……どうぞ!あ、もしかしてコーヒー嫌い?』
『いえ、ありがとごじゃいます』
テヨンのエンジェルスマイル。思い出しながら、美里はボ~ッとした意識のまま、ポツリとひとりごちた。
「そっか……コーヒー嫌いじゃなかったんだ」




