どうする?
「お先にどうぞ」
美里はアパート自室のドアを開けると、背後のテヨンを促した。
「大丈夫。後ろから襲たりしないから」
ニヤリと笑って返すテヨンに、美里は自分でも気付かない下心を悟られたようで、やけに恥ずかしくなった。それに、まるで年齢差から対象外だと通告された気分。なんだかカチンともきた。
「そ、そんなこと考えてないから! とにかく早くして!」
こんなところを誰かに見つかりでもしたら、引越しを余儀なくされる。いや、それだけじゃ済まないのは目に見えている。私が今まさに部屋へ連れ込もうとしているのは、普通に生活していたんじゃ到底、二人きりで会うことなんか出来やしない人。超人気アイドルグループのメンバー。
本当にこんな事が許されるの? 今ならまだ引き返せる。でも……。
「すぐに怒て怖いな~」
そうのんきに返すテヨンに、美里の葛藤など分かるはずもない。玄関で靴を脱いだかと思うと、どんどんと奥の部屋まで行ってしまった。その後姿に今度は美里が促され、慎重に辺りを確認すると、意を決したようにドアを閉めた。
《ガチャ!》
鍵をかけるその音が、美里の頭の中で響いてまた、鼓動が速くなるのを感じた。
ハッ! 待って! ダメ!! 美里は心の中で叫び、慌ててテヨンの後を追ってリビングに向かった。が、時既に遅し。
「おっ! 僕たちのCD~」
見ると、コンポの前に屈んで、今にもプレイボタンに指を掛けそうなテヨンがいた。家をでる直前まで、East TopのCDを聴いていたことなど、すっかり忘れていた美里。自分がファンだと勘違いされるのが、美里にはこの上なく恥ずかしいことに感じる。最早、それは勘違いでもなんでもないのだけれど、何故か認めたくない気がした。
「ちょっと待っ……」
テヨンの行為を阻止しようと、慌てて駆け寄った。その拍子に勢いあまって、テヨンを蹴ってしまった。
「アプダ!(痛い!)」
「ごご、ごめんなさい!」
「う~……あと1回」
「え?」
「あと一回ごめなさい言わせたらイーブン」
「……?」
「僕が帰るまでに言わせるから」
笑いながら言ったテヨンの言葉に、美里は寂しさを覚えた。『帰る』そんな当たり前のことなのに。




