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アンジュと白のペンダント  作者: 北村 清
プロローグ アンジュという少女

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新しい趣味と将来の夢

それは、新聞のコラムを読む事だ。


我が家はお父様が脳筋な種族の人だからだろうか。本という物がまるで無い。

なので、暇つぶし兼教養を深める為に本を読みたくても、読む本が無い。これでは私の語彙力もまるで伸びない。


なので執事に頼んで毎日何紙かの新聞を買って来てもらっているのだ。


政治と経済の事しか書いていないお堅い新聞も有れば、9割社交界や芸能界のゴシップなんて新聞もあるが、これがなかなか面白い。21世紀の地球のネット情報と同じで真偽の怪しい話も多々あるが、そういうものだと割り切って読めば暇つぶしにもなるし語彙力も上がる。


そんな新聞情報の中で、私が今一番気に入っているのは、とあるお医者様が書いている医療コラムだ。


地球の医療と比較して考えても正確な情報が載っているし、何よりこれを読むとこちらの世界の医療の発展具合がわかる。


CTやMRIが無いのは、電気が無い世界なので当たり前だが、麻酔はあって手術とかは普通に行われているようなのだ。


元の世界の歴史だと、全身麻酔を最初に開発したのはなんと日本人で、江戸時代の医師華岡青洲だったはずだよね。華岡青洲は、チョウセンアサガオから麻酔薬を作ったとテレビの実録バラエティー番組で見た事がある。エーテルを使った全身麻酔薬がその数十年後に欧米で開発されたらしいので、こちらの世界の医療レベルは地球の19世紀レベルかな?と推察する。


このコラムを書いているお医者様は、消化器外科が専門のようで最近では生後ニヶ月の赤ん坊の食道閉鎖症の手術をしたそうだ。

なんでもその赤ちゃん。生まれつき食道が胃ではなく肺につながっていたそうだ。そういう赤ちゃんに母乳を飲ませると、全部肺に行くから肺炎を起こしてしまう。なので輸液で体重と体力を増やして、食道と胃を繋ぐ手術にこぎつけたらしい。

すごいな。何がすごいって、生後ニヶ月の赤ちゃんに全身麻酔を施して成功したって事がだ。

全身麻酔って、21世紀の地球でも結構危険な代物だったんだよ。華岡青洲の妻なんて、全身麻酔の人体実験をやらされ過ぎて失明してしまったらしいからね。


この新聞コラムが大ボラでなければ本当にすごい。


食い入るようにコラムを読んでいると


「わからない単語があったら何でも聞いてね。」

とお兄様に言われた。


「はい、ありがとうございます。」

「アンジュは、そのお医者さんのコラムが本当に好きだよね。」

「はい。私は大人になったらお医者様になりたいのです。」

「そうなのかい!」

とお兄様にびっくりされた。少し離れた所に座っていたお父様とデルフィーヌ様にも何故かびっくりされていた。


「へえ、どうして医者になりたいの?」

「儲かりそうだからです。」

「・・・え?」

お兄様の目が点になっている。何か高尚なセリフでも言うと思っていたのだろうか?


「私は一生結婚しないで一人で生きていくと決めています。夫に養ってもらうつもりはないので、手に職をつけなくてはなりません。でも、女がなれる仕事は限られています。今のところ私が知っている女でもなれる職業の中で一番儲かりそうなのがお医者様だからです。」


そう、この世界本当に、女でもなれる職業が限られているのだ。侍女やメイドという職を除いたら、後は看護婦と教師そして『世界最古の女性職業』くらいだろう。いくら儲けが良いとしても売春婦にはなりたくない。


「儲かりそうな仕事でないと駄目なの?」

「私は苦労知らずのお嬢様育ちなので、貧乏な生活は無理だと思うのです。」

「君は、とても苦労を知っているし、足るを知る人だよ。というか、結婚しないの?」

「絶っっっ対にしません。」


何せ、過去世では王太子と婚約して、周囲の人々を不幸に(豚に)し、自分も不幸な死を迎えたのだ。

今世は絶対に婚約も結婚もしないと固く決意している。


のだが、どうしてお父様もデルフィーヌ様も微妙な顔をしているのだろう?


「結婚したくないなら、それでも良いと僕は思うけれど、それならそれで僕が一生面倒を見てあげるよ。」

「結構です。お兄様のお嫁さんになる人に悪いもの。だいたいお兄様は将来何の仕事をするつもりなのですか?」


もしも『騎士団に入る』と言われたら、命をかけて妨害する。


「いや、まだ考えていないけれど。」

「ゆっくり考えたらいいですよ。もし、なりたいものが見つからなかったら私がお兄様を養ってあげます。」


騎士団は入団するのに年齢制限があったはずだ。確か16歳以下のはずである。そしてお兄様は今15歳だ。ぼけーっとゆっくり考えていたら、入団可能年齢を過ぎてしまうはずだ。


「それは断る。」

「それは駄目だ。」

「それは駄目です!」

お兄様とお父様とデルフィーヌ様の声が揃った。


「医者は大変な仕事だと思うがな。」

とお父様が冷たく言った。


「でも、このコラムを書いてらっしゃるお医者様は女医さんですよ。」

性別を偽称していなければだが。


医者になりたいというのは、地球時代からの私の夢だ。アンジュの体に戻って来たからといって諦めたくはない。


だけど、このコラムが気になる理由は実は他にもある。

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