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アンジュと白のペンダント  作者: 北村 清
プロローグ アンジュという少女

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対決の後

更に玄関ドアからデルフィーヌ様とデルフィーヌ様の侍女、お父様の部下の騎士が3人入って来た。


「僕の妹に何をするんだ!」

と叫んでお兄様が、鞭をつかんだアルディ夫人の手を押さえつけた。


「違うんです!これは誤解・・・。」

「何が誤解だ!アンジュに土下座までさせて、腕を踏んでおいて‼︎」


「娘に家庭教師から暴力を受けていると相談されたが、まさかここまでひどい仕打ちを受けているとは思わなかった。貴様、私の娘に・・・。」

お父様が剣に手をかけながら言う。お兄様は乱暴に夫人を振り払ってこかし、私の手をとった。


「ひどい、アザができている。ごめんよ。すぐに助けてやらなくて。」


いえ、大丈夫です。元々、鞭を振り上げるタイミングで乱入するっていう打ち合わせだったし。


「この女を拘束しろ!騎士団本部に連れて行って余罪を調べるんだ。拷問にかけても構わん。」

お父様のセリフにアルディ夫人もだが、私も震え上がった。騎士団怖え。


お父様の命を受けた騎士さん達3人が夫人を拘束して連れて行く。


「お許しください!どうか、御慈悲を!」

アルディ夫人の叫び声が段々と遠くなりやがて消えて行った。


「アンジュ。」

と言ってお兄様が私を抱きしめてくれる。

その優しさに良心がグサっ!と痛んだ。私はこんなにもシュッとした貴方を黒豚にしてしまった女なんですよ。


「屋敷に戻りましょう。」

とデルフィーヌ様が言った。


「そもそも何でアンジュは、離れで暮らしていたんだ?」

とお兄様が私とお父様の顔を見ながら聞いた。


「私、お母様に嫌われていたから。私の顔を見るのも嫌だって。」

「どうして?」

「私を産んでお母様のウエストが5センチも太くなったらしいの。」

「何だよ、それ!」


お兄様は私なんかの為に本気で怒ってくれている。そんな人は初めてだった。どんなにお母様に辛く当たられてもそれを怒ってくれる人は今まで一人もいなかった。お兄様の優しさが嬉しいのと同時に、自分って本当に可哀想な子供だったんだな。という現実に涙が出た。


デルフィーヌ様がそっとハンカチを差し出してくれた。


「さあ、戻ろう。」

お兄様が優しく背中を押してくれた。



私も本館で暮らす事になり、私は新しく雇い入れた使用人達を紹介された。


皆朗らかで明るく優しそうな人達だ。料理人の男性に

「お嬢様の好きな料理、嫌いな料理、食べられない料理を教えてください。」

と言われて、自分には絶対食べられない食材がある事をちゃんと言っておかなくてはならない事に気がついた。


「私、豚肉が食べられないんです。」

「え!どうして?」

とお兄様に聞かれた。貴方には聞かれたくなかったなあ!


本当の事を言うわけにはいかないので、何か適当な言い訳を考えないといけない。


「昔、聞いたんです。死体を完全に人目につかないよう隠すには、豚に食べさせるのが一番だって。その話を聞いて以来豚肉はちょっと・・・。」

お兄様がのけぞった。


「誰が、そんな事を言ったんだ⁉︎」

とお父様が怒っている。安寿時代に読んだ推理小説に書いてあったのだが、それを言うわけにはいかない。私は死人に濡れ衣を着せる事にした。


「・・お母様。」


・・・・。

嫌な沈黙が流れた。


「鶏肉は食べられる?」

とデルフィーヌ様が優しく聞いてくれた。


「はい。人間より小さい動物は平気です。」

「じゃあ、鹿肉や牛肉は?」

「草食動物は平気です。」

「じゃあイノシシ肉は?」

「・・無理です。」

少し考えて私は言った。


「だって、イノシシと豚は腹違いの兄弟みたいなものでしょう。」

お兄様が黒豚なら、私こそがウリボウだ。とても食べる気にはなれない。


「腸詰とかベーコンとか加工してあっても駄目ですか?」

と料理人に聞かれる。


「無理です。豚骨スープすら無理です。」

「鶏肉や牛肉が食べられるなら栄養的には問題無いわ。アンジュさんには豚肉料理は出さないであげて。」

とデルフィーヌ様が言ってくれた。

「承知しました。そういう理由で豚肉がダメってんなら、クマ肉やサメ肉も出さない方がいいかもしれませんね。任せてください。鶏肉や牛肉で美味い料理を作ってみせますから。」

「ごめんなさい。わがまま言って。」

と私は言った。


「その程度わがままでも何でもないわ。ジュストなんか野菜はほとんど嫌いなのよ。特に豆は全く食べられないの。」

とデルフィーヌ様が言う。

「今、それを言わなくてもいいでしょう!」

お兄様が真っ赤になって言った。


「私もグリーンピースは嫌いです。」

と私は言った。豚肉と違って全く食べられないわけではないが、食べずに済むものなら食べたくない。


お兄様が

「わかる、わかる。」

と言い、私達は笑い合った。




そうして私とお兄様とデルフィーヌ様は一緒に暮らすようになった。

そしたら、今までろくに家に寄り付かなかったお父様が頻繁に家に戻って来るようになった。


ちなみにお父様とデルフィーヌ様は、まだ再婚はしていない。我が国では男女共に、配偶者が死ぬと半年間喪に服さねばならず、半年の間は再婚できないと法律で決まっているのだ。

私のお母様が亡くなってまだ三ヶ月なので、お父様は再婚できないのである。



そして私には新しい家庭教師がつけられた。


アルディ夫人は貴族の身分を剥奪されたうえ、王都を追放されたからだ。


アルディ夫人の夫という人は働かないうえ、昼間から酒に酔っている飲んだくれだったらしい。思春期の一人息子は親を嫌って部屋に閉じこもり口もきかなかったそうだ。

夫人はそんな生活にストレスを溜めていた。どこかで発散させなければ爆発してしまいそうだった。それで、私に当たり散らしたのだそうだ。夫人は私を含め3人の子供の家庭教師をしていたらしいが、私が八つ当たりの相手に選ばれたのは私が放置子だったからだ。他の二人は勉強する間母親や護衛騎士が側に張り付いていて、虐待できなかったらしい。


可哀想な人だったのかもしれないが、同情はできない。向こうだって私にだけは同情して欲しくはないだろう。


それにしても働かないない夫と引きこもりの息子は稼ぎ手だった母親がいなくなって、これからどうやって生きていくのだろうか?


私の新しい家庭教師は、以前お兄様の家庭教師をしていたという人が来てくれる事になった。


お兄様は読み書きなら自分が教える!と言ってくれたのだが、プロに任せるように。とお父様が言ったのである。


だけど勉強は全然、苦にならなかった。


算数は、安寿時代に勉強したから問題無い。読み書きも日本語のように、平仮名があってカタカナがあって漢字が山のようにあったら大変だが、この国には基本文字が32文字しかないのだ。それを覚えて、文法を記憶すれば後は楽勝だった。

安寿時代に勉強の習慣ややり方が身についていたのも大きいと思う。

おかげで、すごい天才と教師には思われているようだ。


正直、それはよろしくない。すごい天才だと思われて、それが噂になりなんかしたら、従兄弟が死んだ後、ジュストよりもアンジュが養子に欲しい。という事になってしまうかもしれない。それは絶対困る。


適度にバカと思われるよう匙加減をしつつ勉強に励む、そんな私だったが最近新しい趣味ができた。それは・・・。



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