対決、家庭教師
その日から、ジュスト兄様とデルフィーヌ様はうちに住む事になった。
「まず、使用人を揃えなくてはいけませんね。」
とデルフィーヌ様が言われた。10分前に全員追い出されたからだ。
「実は、ブリクール家のタウンハウスを売りに出す話があるのです。なので、そのタウンハウスの使用人達をこちらに呼んでもよろしいでしょうか?」
この時期のブリクール家は、デルフィーヌ様の兄がギャンブルにはまっていて大きな借金を背負っていたはずだ。その為タウンハウスを売らなくてはならなくなったが、そうなるとタウンハウスで働いていた使用人が路頭に迷う事になる。デルフィーヌ様は、使用人達を守る為タウンハウスを売らないで済むよう、兄と兄嫁の指示通りに評判の悪い成金と再婚した。
って、うちの使用人達が過去世で噂していたなあ。
その時は、彼女がお父様の最初の奥さんだったって知らなかったから、右から左へ聞き流していたけれど、今思うと聞こえよがしに私に言っていたのは嫌味だったのだな。
まあ、それはともかく。ブリクール家のタウンハウスの使用人さん達が路頭に迷う心配がなくなれば、デルフィーヌ様もど腐れDV野郎と結婚する必要は無くなるはずだ。そうなるとお兄様が母親を失うこともなく、よって騎士団に入る事も、王太子の護衛騎士になる事もない。
いい事しかないではないか!
私は
「わー、嬉しい!楽しみー。」
と言って小躍りし、新しい使用人さんを迎える事になった。
というわけで、デルフィーヌ様はタウンハウス宛に手紙を書き始めた。
それを見て私はもう一つ解決しておかねばならない問題を思い出した。
私は『尊敬!』という口ぶりで、デルフィーヌ様に言った。
「デルフィーヌ様は、文字の読み書きができるんですね。すごいなあ。私もできるようになりたいなあ。」
「「「・・・え?」」」
と3人分の視線が集中した。デルフィーヌ様とお父様とお兄様だ。
3人ともぽかんとしている。
それはそうだろう。私はもう14歳だ。来年には成人するのだ。それで文字の読み書きができないなんて軽くやばい。
「アンジュは、読み書きできないの?」
とお兄様が質問する。
「できません。」
「どうして?」
「誰も教えてくれる人がいなかったからです。お兄様は読み書きができますか?もしできるなら教えてください。私、本が読めるようになってみたいです。」
「教えてくれる人がいないなどと馬鹿な!おまえにはちゃんと家庭教師をつけていたはずだ。アルディ子爵夫人が来てくださっているはずだろう。安くない給料も払っているんだぞ!」
と、お父様が言った。この人わかってないなー。
「アルディ夫人が教えてくれるのは、礼儀作法やダンスやピアノだけで、文字の読み書きは教えてくれませんよ。」
「そうなのか?」
「まあ、ダンスやピアノもからっきしできないですけどねー、私。アルディ夫人ってちょっとでも失敗すると鞭でビシバシ殴るんですよ。だから私夫人と顔を合わせるのが怖くて、夫人が来る日は夫人が帰る時間になるまで庭に隠れているので、この数年夫人はうちに来てお茶を飲んでいるだけです。」
「・・・夫人を解雇する!」
とお父様は叫んだ。
やった!と、私は内心ガッツポーズをとったが、そこに待った!をかけた人がいた。デルフィーヌ様だ。
「お待ちください、夫人を呼んで今の話が本当かどうか確認するべきです。そして本当だったら、侯爵家の人間に対する傷害罪で訴え服役させるべきです。なかった事にして無視してはなりません。罰を与えるべきです。」
「確かに、そうだな。アンジュ。夫人が次にくる日はいつだ?」
「明日の午前です。」
と私は言った。
「明日の午前も仕事を休もう。夫人に会ってみる。」
とお父様は言った。
そして翌日である。
早速ブリクール家の使用人さん達がこちらに来てくれたので、アルディ夫人を迎えたのは新しい使用人さん達だ。
勘の良い人だったら、風が変わった事に気がつくだろうが、アルディ夫人は全く何も思わなかったようだ。いつも通りの態度で横柄にお茶とお茶菓子を要求した。
私は一人で、夫人が待つ離れに向かった。久しぶりに私が現れた事にアルディ夫人は驚いたようだ。
「まあ、随分とお久しぶりですこと。背が伸びていていったい誰だかわからなかったわ。いったい今日はどういう風の吹き回しかしら。」
ハリケーンがすぐそこに迫ってますよ。と、教えてあげる義理はない。
「今まで私の時間を無駄にしていた事を謝罪しなさい。」
「・・・すみませんでした。」
「愚かな私に教えをお与えください。と言いなさい。」
どういうプレイだよ、と思いつつ
「・・・愚かな私に教えをお与えください。」
と言った。夫人が邪悪な微笑みを浮かべた。
「床に手をつきなさい。」
私は右手をぺたっとつけた。
「両手をよ!」
どうやら夫人は私に土下座をさせたいらしい。私は両手をついた。
「頭を下げて、もう一度すみませんでした。と言いなさい。」
「すみませんでした。」
「ふん。」
と言ってアルディ夫人は立ち上がり、私の右手を踏んだ。
・・ローヒールだけど、結構痛い。一瞬、反撃しそうになった。
夫人は
「ふふふ。」
と笑って、バッグの中から鞭を取り出した。
「立ち上がって貴族の挨拶をしなさい。」
私はカーテシーをした。
「まああ!まるで立ちくらみを起こしたニワトリね。何てみっともないのかしら。」
「・・・。」
「もう一度やってみなさい。」
私はもう一度カーテシーをした。
「ああ、全然駄目。話にならない。そんなではお仕置きが必要ね。スカートをまくって太ももを出しなさい。」
「・・・。」
「まずは、鞭打ち5回よ。早くスカートを上げなさい。何をぼーっとしているの?さっさとしないと10回にするわよ!」
そう言って私の顔の位置まで鞭を振り上げる。
その途端、私の寝室に繋がるドアが開き、お父様とお兄様が飛び出して来た。




