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アンジュと白のペンダント  作者: 北村 清
Case 2アシールの奥さんがやって来た

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そして平穏な日常が戻って来ました

私達、猫猫隊はお父様と騎士達に抱えられて家に帰った。


心配しながら、家で待っていてくださったデルフィーヌ様がすぐに獣医師さんを呼んでくれた。

けれどさすがは騎士というべきか。あれだけ床に叩きつけられたのに三匹共ちゃんと受け身をとっていたらしい。獣医師さん曰(いわ)く。怪我は打撲だけで、骨折や出血は無かったそうだ。高所から飛び降りたアシールも奇跡的に怪我はなかった。まあ、彼も一応猫だしね。


私達は家に帰ったけれどエスターさんは事情聴取の為、騎士団本部に連れて行かれた。だから、その後に起こった出来事は全部後日お父様から聞いた話だ。


事件は『婚約者に捨てられそうになったユベール・ド・アランブールによるストーカー殺人未遂事件』という事になった。

怪我をした買い物客と商会にはアランブール子爵家が慰謝料を払うのだそうだ。ユベールとミルカの婚約もアランブール家の有責で婚約解消となり、アランブール家がオービニエ家に慰謝料を払う事になった。


が。


アランブール家は納得できずにいた。


確かにユベールのした事は犯罪だ。死人が出ていたら、親兄弟はその罪に連座させられていただろう。社交界でも爪弾きにされるようになってしまった。ユベールはそれだけの事をした。でも、そうなったのはそもそも、ミルカ・ド・オービニエのせいではないか!


あの小娘が一方的にユベールを捨てたから!


それならばせめて責任をとって姉のエスターがユベールを引き受けてくれていれば!


そう思ってアランブール子爵家の人々は、オービニエ男爵家を恨んだ。

特にユベールの母親である子爵夫人の怒りは激しかった。夫人は自分の生家である伯爵家に頼み、伯爵領にある海峡をオービニエ商会の船が通る事を禁止させた。


地理の関係上、その海峡を通らなければオービニエ領から王都へは船で荷物が運べない。そこが通れないとなると、荷物は陸路を馬車で運ぶしかなく、日数も費用もものすごく余分にかかる。オービニエ商会は存続の危機にさらされた。


オービニエ家は、慰謝料の受け取りを辞退した。王都の商会の修繕費も請求しなかった。それでもアランブール家の怒りは収まらなかった。そしてアランブール家に同情する貴族も実は多かった。

ユベールという男は、エスターさんという婚約者を捨ててミルカに乗り換えた。だからミルカに捨てられても自業自得、因果応報と私は思うのだけれども、そう思わない人が意外に多いらしくオービニエ家に対して社交界は非難轟々だったそうだ。


たぶんアレだな。ユベールという男が美男子だったから、人は、特に女性達が無責任に同情するのだ。もしも奴が、エキゾチックショートヘアみたいな顔をしていたら、ここまで奴に同情が集まる事はなかっただろう。


というわけで、アランブール家の怒りを少しでも解く為、エスターさんとミルカはオービニエ家から絶縁された。エスターさんは元々結婚しているからもうオービニエ家の人間ではないが、ミルカも急遽平民の商人のじーさんの後妻にやられる事になったらしい。

ミルカは泣いて嫌がったらしいが、オービニエ家の商会の全従業員の人生がかかっているのだ。どれだけミルカが嫌だと言っても無駄だった。


エスターさんも実家からは勘当の身となり、実家に頼らず一人で生きていかなくてはならないらしい。


ミルカの末路はともかく、エスターさんに対してひどすぎる!と私は思ったが、エスターさんは気にしていなかった。元々、家族との関係が希薄だったし、お金にも困っていないからだ。

アシールとエスターさんは、結婚した時夫婦共同名義の銀行口座を作った。アシールの給料はそこに毎月振り込まれる。行方不明になった今でも給料は支払われ続けているのだ。なので、とんでもない贅沢をしない限り、エスターさんが生活に困る事はない。


「だけど私、そのお金には手をつけないで働こうと思っているんです。」

とリュミエール邸を訪ねて来たエスターさんはデルフィーヌ様に言った。


「王都でなんとか仕事を見つけて、自分が食べていく分くらい自分で働いて稼ごうと思います。」

「立派だわ。エスターさん。」

と言った後、デルフィーヌ様は突然こう言われた。


「だったら、うちで働かない?猫さん達のお世話をして欲しいの。アンジュお嬢様がいなくなった後私が面倒を見ていたのだけれども、なかなか目が届かなくて雇い人を増やさなくてはと思っていたのよ。どうかしら?」


「いいのですか?今の私は平民です。それなのに侯爵家の屋敷で働くなんて。」

「身分よりも、猫達が気に入ってくれた人かどうかが一番大切よ。ぜひエスターさんにお願いしたいの。」

「ありがとうございます!私一所懸命働きます。」


エスターさんは嬉しそうだが、アシールは焦っていた。更に、デルフィーヌ様が『離れ』の鍵までエスターさんに渡してしまった事にショックを受けていた。これでは『猫猫会議』も開けなくなってしまう。


オロオロしているアシールに、セブラン王子が言った。


「もう、いっそエスター夫人に正体バラそうぜ。」

「駄目です!」

とアシールは言った。

よくわからないけれど嫌らしい。男心はよくわからないな。


今現在離れには、猫用のおもちゃやキャットタワーなど、猫グッズがたくさんある。オービニエ商会がお詫びとお礼と言ってたくさんプレゼントしてくれたのだ。

猫嫌いの支配人は、危機管理がなっていない!と言われて更迭されていなくなったそうだ。それで新しく就任した支配人に、いつでも猫達を連れて気軽に来てください。とお父様は言われたらしい。


家に戻った後私は、お父様に『古の秘宝』の話をしたが、お父様には

「その件は黙っておきなさい。」

と言われた。お父様も王様に報告とかはしていないようだ。


確かに死体が動く。というのはかなりやばい力だと思う。戦時下で軍事転用ができる能力だからだ。


「そのペンダントには、人を生き返らせる力は無いのだな?」


事件から数日後。

ウミネコに今度こそ負けない!と言いながら筋トレに励むブランシュを眺めながらセブラン王子はぼそっと言った。


「そうみたいですねえ。でももしそんな力があったら、その力を利用して永遠に生きている権力者とかいそうじゃないですか。」

と私は答えた。だけど、そんな人の存在は聞いた事がない。


「使い方次第なのかもしれないな。」

真面目な顔をして王子は言った。王子は誰か生き返らせて欲しい人がいるのだろうか?王子が赤ん坊の頃に死んでしまった王妃様だろうか?


私はふと思って、白いペンダントを握りしめた。

そして言った。


「人間に戻れ。」


・・・・。

人間には戻れなかった。

Case 2 完結です(^◇^)


読んでくださる皆さんお一人お一人に心から感謝します

少しずつ増えていくブクマやリアクションに背中を押して頂いています

ブクマがまだという方、ぜひぜひポチッとお願いします

次章もどうかよろしくお願い致します

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