お父様が駆けつけて来てくれました
私の父親で近衞騎士団長の、ギィ・ド・リュミエールが護衛の騎士達を率いて階段の途中に立っていた。
「何だ、この騒ぎは?」
とお父様は支配人に聞いたが、支配人はあわあわ言っているばかりで答えられない。
「この猫が、ユベール様を襲って殺したのよ!」
とミルカが、エスターさんの胸に抱かれているアシールを指さして叫んだ。
「違います!」
と間髪入れずにエスターさんが叫んだ。
「違います。あの人を殺したのは私です。私なんです。秘書官さんは私達を助けようとしてくれたんです。天から下って来る秘書官さんはまるで天使のようでした。」
「二人共、動揺して混乱しているようだな。」
お父様は苦々しい声で言った。
「あの男を殺したのは私だ。誰か、落ち着いて話ができるものは・・・。」
「にゃー。」
と私は階段上から鳴き声をあげた。
「茶々!」
お父様はぱあぁと微笑み、二段飛ばしで階段を駆け上がって来られる。
「茶々、無事か?怪我はないか?」
そう言って抱き上げてくれた。
「わ・・私はね。怪我してないんだけど、お兄様とブランシュとリュッカが・・、。」
私は、お父様以外の人には聞こえないよう小さな声でささやいた。
「黒!」
お父様は三匹の猫達が倒れているのに気がついたようだ。私の事を左手で抱え、右手でお兄様を抱き上げた。
「大丈夫か、おまえ!すぐ獣医師のところに連れて行ってやるからな。」
「平気です。それより・・あの化け物は?」
「騎士団長が、心臓を剣で貫いたら動かなくなった。」
と歩いて寄って来た王子が行った。
「殿下、何があったのですか?」
「レジャン夫人の元婚約者が、夫人に復縁を迫って来たのだ。夫人が断ると、逆上して暴れ出した。」
王子!それは前半の半分です。後半が丸ごと抜けています。
たとえ怒られても正直に言わなくちゃ、と思うけれど、怖かったのと安心したのと後悔しているのとで涙がぽろぽろ出て来て鼻も詰まった。
「わ・・私がいけないんです。私のせいなんです。私が悪・・・。」
「アンジュは何も悪くない!」
とお兄様は言った後、嫌そうな声で
「離してください!」
と言い手足をばたつかせた。今までお父様はお兄様の事も明らかに抱っこしたそうな様子だったのに、お兄様は断固拒否をしていたのだ。
今初めて、抱っこされてしまってお兄様は必死にもがいている。
「騎士団長はどうしてここへ来たのだ?」
と王子がお父様に質問した。
「騎士団本部にいたら、執事が会いに来ましてね。アシール・レジャンが戻って来たらしいと報告に来たのです。執事はジュストとアンジュについて何かわかるのでは、と期待していました。ですが、私は妙だなと思って、それでここに確認に来たのです。」
「そうか、助かったぞ。礼を言う。お礼に肉球を触らせてやろう。」
「またの機会にお願いします。」
「団長。怪我人を運び出しませんと・・。」
と言いつつ、お父様の部下が階段を上って来た。なので、これ以上の話はできなくなった。
「ああ、そうだな。ここにも怪我人・・というか、怪我猫がいるんだ。運んでやってくれないか。」
「えっ!」
とお父様の部下達が一斉にこちらの方を見た。
お父様の部下達はお父様の護衛として我が家にいつも出入りしている。なので私達猫とは皆顔見知りだ。そしていつも優しい目で私達の事を見守ってくれている。
お父様の部下達はダッシュで階段を駆け上がり
「自分が運びます!」
「私が抱っこします!」
と猫の奪い合いを始めた。
「白ちゃん、ふわふわしていてすごく柔らかい。」
「赤君の耳、最高に可愛いんだよな。」
怪我をしていない三毛猫王子まで、騎士に抱っこされてしまった。出遅れて猫を抱っこできなかった騎士達はものすごく悔しそうだった。
皆さん。私達よりも人間の怪我人を助けてあげてください。と心の中で思った。
古の秘宝の事は、家に帰ってからゆっくりお父様に説明しよう。
とにかくエスターさんが無事で済んで良かった。と思った。誰が見てもエスターさんは被害者だ。彼女が何某かの罪に問われる事はきっとないだろう。
そう考えていた私は天津甘栗の甘露煮より甘かった。




