ペンダントがキラリと光りました
なんてこった!
私は前脚を口に当てて震えていた。
たった今、私の目の前で人が死んだ。殺されたのだ。
だけど、怖い!と感じているのは人が殺される現場を見てしまったからではない。だって、これは正当防衛だ。この男が先にナイフを取り出して人を殺そうとしたのだ。その瞬間の方が百倍怖かった。そして今私が震えているのは、エスターさんが犯人として連れて行かれてしまったからだった。
あの性格のひん曲がった妹が正直に状況を話すと思えない。
そしたらエスターさんはどうなるの?
だいたいエスターさんは男爵令嬢で、この死体は子爵令息だ。当然エスターさんの方が立場が弱い。裁判とかになったらそれだけで不利だろう。
私達が自由にしゃべれたら、エスターさんは悪くないって証言できるのに!
でも、猫の言う事なんて人間が信じてくれるだろうか?裁判で証拠能力があるだろうか?
怖くて不安で私は涙がこぼれてしまった。
「アンジュ。」
と言ってお兄様が肩を寄せてくれる。そしたら何故か、反対側の肩に王子がすり寄って来た。
「生き返ってえ。」
と私は死体に向かって言っていた。しかし、当然死体は生き返らなかった。
私の涙があごを伝い、白いペンダントに落ちる。
「動いて。」
と私は言った。
「お願い、動いて。」
その瞬間である。
ペンダントが光ったのだ。
「えっ?」
と私はつぶやいた。至近距離での光に一瞬目がくらんだ。
「この光は!」
とアシールが言った。
「あの時と同じだ!」
とリュッカが言う。
私はわけがわからない。そうこうしているうちに、ペンダントの光は消えた。そして。
ゆらり。と。
死体が動いたのだ。
「えっ・・えっ・・・?」
私はフリーズしてしまった。そんな私の前で、死体がくねくねと動き、手を使わずにミミズのような動きで起き上がった。
こんな動きをする物体、お兄様達は見た事がないのだろう。みんなそろって、フレーメン反応みたいな顔をしている。
でも私にはこの独特な動きに見覚えがあった。これはゾンビだ!
私も竹名安寿も本物のゾンビは見た事は無いが、安寿だった頃ゾンビ映画はたくさん見た。
世界的大ヒット、と言われる超大作から『ゾンビVSゾンビ鮫』みたいなB級以下の作品まで本当にいろいろ見て来たのだ。
それらの作品に出て来るゾンビにそっくりな動きだった。
そして顔が既にゾンビだった。白皙の美貌は見る影もなくなっている。完全に白目をむき、口をだらしなく開け、人間らしさは全くなくなっていた。
というか、どういう事!
もしかして私のせい?白いペンダントの力なの?
「何だ、これは!」
「古の秘宝の力なのか⁉︎」
リュッカとお兄様の声にもわずかに怯えがあった。
「でも、秘宝の力は一年に一回しか使えないのでしょう?」
とブランシュが言う。
「もしかして『一年間で一回』という意味だったのではないでしょうか?」
とアシールが言った。
「どういう意味よ?」
「つまり、ある時点でリセットされるのです。例えば夏至の日とかに。夏至の日から夏至の日までの一年間とかで。今年の夏至を過ぎたのでリセットされたとか・・・。」
「つまり、やっぱり、これって私のせいなんですか?」
と私は震えながら聞いた。
ゾンビ映画を観ている時は「すげー」とか言いつつ、ポップコーンを頬張りながら楽しく観ていたけれど、目の前に本物がいるのは怖すぎる!
立ち上がったゾンビが歩き出し、全猫が全速力で部屋の隅に逃げた。しかし、ゾンビは猫には興味ないようだった。ただ体を不自然に揺らしながらドアに向かって歩いて行く。私は生唾を飲み込んだ。こんな化け物が部屋の外に出て行ったら、お店の中は阿鼻叫喚の大パニックだ。
「止まって・・止まって、止まってー!」
私はペンダントを握りしめて叫んだ。だけど、ゾンビは止まらなかった。
「貴重な一年に一回をこんな事に使ってしまうなんて・・・。」
とリュッカの嘆く声が聞こえてくる。申し訳なくて猫背な背中がますます猫背になった。
ガンッ!
とゾンビはドアに頭を叩きつけた。その一撃でドアにヒビが入る。更にもう一撃、頭でゴン!
その攻撃でドアは完全に破壊された。
「んぎょえええー!」
「ふがががが!」
廊下から奇っ怪な悲鳴が聞こえて来た。ドアの前で見張りをしていた店員達の声だろう。バタバタバタと走って逃げる音がする。
私は廊下に飛び出した。
ゾンビは吹き抜けの方へ歩いて行く。私はその後を追った。
「だから、お姉様がいきなりユベール様を突き飛ばしたの!それでユベール様は死んでしまったのよ!」
ピンク髪のキンキン声が階下から聞こえて来る。
私が思うに、支配人はユベールとやらの死体をこっそり海にでも捨てて殺人があった証拠を隠滅してしまいたかったのではないの?と思う。そうでないなら、普通医者を呼ぶはずだ。
なのに、ピンク髪がその企みを台無しにしている。
そんな騒ぎがあってもまだ、客はけっこうな数がいる。恐怖や驚きよりも何があったのかという好奇心が勝っているのかもしれない。
だが、ナイフを持ったゾンビが現れると、一階や二階にいた客達は次々に悲鳴をあげた。
二階の踊り場でディスカッションしていたエスターさん達も表情が凍りついた。エスターさんもピンク髪も、信じられないものを見る目で階上を見つめている。
ゾンビは人間の柔軟性ではあり得ないほど体を反らし、ゴジ◯のような咆哮をあげた。
そして、エスターさん達姉妹に向けて走り出した。
北村はホラー作品が大の苦手でして、実はゾンビ作品は全く見た事がありません(^◇^;)
なので「こんなゾンビはおかしい!」という表現が多々あるかと思いますが、これはゾンビではなくゾンビっぽいもの、という事で生暖かいお気持ちで読んで頂けると嬉しいです




