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アンジュと白のペンダント  作者: 北村 清
プロローグ アンジュという少女

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兄との再会

「・・兄だと?」

お父様が軽く目を見張って言った。


「ええ。私にはお兄様がいるのでしょう?お父様とお父様の最初の奥様との間に子供がいるって聞きました。」

「誰にだ?」

お父様は低い声で聞いて来た。

執事と侍女長も顔を見合わせている。


ここは、亡くなった人に責任を押し付けよう。と思い

「お母様です。」

と私は答えた。


お父様は黙り込んだ。

何も言われないけれど、衝撃を受けているだろうし頭の中ではぐるんぐるんといろいろな事を考えているだろう。


「何を考えている?」

ドスの効いた声でお父様が聞いて来た。


「お父様も伯父様と仲良くしておられるではありませんか。私もお兄様がいらっしゃるなら会ってお話ししてみたいのです。」

「・・・・。」

お父様は黙っている。


今はこれでいい。お兄様に会えなくても、この家に引き取られなくても、とりあえずお父様がお兄様の存在を知ってくれれば良いのだ。

そうすれば、私を養女に、という話が出ても「お兄様の方でお願いします」と言えるのだ。


「仕事があるから、もう出て行きなさい。」

とお父様に言われた。私は紅茶を一気飲みして「はい」と言い立ち上がった。


一時間後。お父様は何処かに出かけていった。




お父様はそのまま4日戻って来なかった。お兄様の母親の実家があるブリクール男爵領は王都から片道2日かかるから、計算としては会っている。

4日目にお父様の従僕が、私と執事に伝言を寄越して来た。


「半日後に戻る。デルフィーヌ・ド・ブリクールと息子のジュストが一緒なので客室を用意しておくように。」

との事だった。


私のお兄様の名前はジュストというらしい。


いい名前だねえ。

キリシタン大名と呼ばれた、高山右近の洗礼名と同じだよ。確か『正義の人』とかいう意味があったはずだ。


どうか、名は体を表す的な人であって欲しいけれど。


そう考えるとちょっと不安になって来た。


お母様も私も先妻さんとお兄さんに憎まれている可能性高いよね。


お父様は当てにならない人だし、シンデレラみたいに二人に超いびられたらどうしよう。家庭内労働をしろ、くらいだったらやってもいいけどさ。白雪姫の継母みたいにいきなり毒殺とかしようとして来ないよね。


破滅フラグを折ろうと夢中になるあまり、違う破滅フラグを手繰り寄せてしまった、とかだったらどうしよう。


私は思い悩んだが、結局考えるのをやめてしまった。どうなるかもわからないうちから悩んでいても時間の無駄だ。


いびられたらいびられた時に考えればいいのだから。



でもって、その日の昼過ぎ。


メイドさん達はお客様を迎える準備に忙しくて、私の食事を用意するひまもなかったらしく、ようやく午後2時を過ぎて昼ごはんが運ばれて来た。いただきまーす。と、いつも通りの薄いスープと硬いパンを食べようとしたら、お父様達が戻って来た。と言われた。

既にピエロのような服に着替えていた私は、お父様とお客様を出迎える為、すぐにエントランスに向かった。



お兄様には過去の人生で会った事があるが、先妻さんとは初対面だ。先妻さんは美人だけど、なんか気弱で幸薄そうなオーラを発している人だった。地球の英国のミステリー作家、クリスティー風に言うならば『己が子の事を嘆くラケルのモデルを探している画家がいたらよだれを垂らして寄ってくるタイプ』って奴だ。

こういうタイプがお父様の好みなのだとしたら、そりゃあお母様とは気が合わなかっただろう。



お兄様は黒髪に金色の目をしていて、お父様にそっくりだ。世界中の誰が見てもお父様の子だ、とわかるね。こりゃ。


私の記憶が間違っていなければ、王太子はピンクの豚になったけれど、お兄様は黒豚になったんだよな。


そう考えると良心がズキっと痛み、私は精一杯愛想良くお兄様とデルフィーヌ様に挨拶をした。


私達は談話室に移動した。

すぐに執事が紅茶を淹れてくれる。


「アンジュ様にと思ってお菓子を買って来ましたの。」

とデルフィーヌ様が言われた。どうやらドライフルーツとナッツの入ったパウンドケーキみたいだ。こちらの世界では『4つの4分の1』という意味のカトルカールと呼ばれている。


「わー、ありがとうございます。すごく嬉しいです。」

と私は言った。


お世辞ではない。本心だ。昼ごはんを食べてなくてお腹ぺこぺこだったし。アンジュの体に戻って来て甘いお菓子を食べるのは初めてだったし。


わざわざお土産にお菓子を買って来てくれるなんて、すごくいい人だな。と嬉しく思いつつ私はナイフとフォークを使ってケーキをバクっと食べた。


うわ!泣きたいくらいおいしいっ。


私はケーキをゴクっと飲み込んだ。五臓六腑に染み込むおいしさだった。だけどしばらくすると、顔が妙に熱くなり目が回った。


うそっ!もしかして速攻で毒を盛られた⁉︎


私は安寿だった頃の事を思い出した。


安寿の住んでいる田舎町にチェーン店のカフェができることになって、お姉ちゃんと妹と一緒に開店初日に行ったのだ。朝ごはんも食べずに開店前から3人で並んでさ。


そうして中に入って頼んだのは、店で一番人気とネットに書いてあったホイップクリームたっぷりの、ショコラキャラメルカフェオレの練乳トッピング。それは一つのアリの巣のアリさん達が三年遊んで暮らせるだろう、というくらいの砂糖が入っていた。コンビニコーヒーしか飲んだ事のない田舎者には、かなりの衝撃の一品だった。混乱状態に陥る自律神経。あのカフェオレをぐびーっと飲んだ時と何か似てる!


あかん。死ぬかも。

と思いつつ私は完全に白目をむいてバターン!とひっくり返った。

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