お父様が帰って来ました
再びの『猫猫会議』である。
隣の家から戻って来たセブラン王子とお兄様とリュッカに、何があったのか説明した。
話していると怒りが沸々と湧いてきて、猫だけどウサギのように足ダンをしたい気分になって来る。
「その話、母上にはしたのか?」
とお兄様に聞かれた。
「勿論したよ。たぶんデルフィーヌ様は私の話を信じてくれたと思うけど。」
結局私は足をダンダンしながら叫んだ。
「あんなピンク髪の脳みそまでピンクな女にお父様が騙されたらどうしよー!あんな女が継母になるなんて絶対嫌だよ。本当にどうしよー!」
「団長は、若い女に誑かされるような人じゃないよ。」
とリュッカが言うが、私は安心できない。あのエセぴえん女は顔だけは抜群にいいのだ。
「だったら団長が戻って来るまでに追い出してしまえばいい。」
とセブラン王子が言うので私は
「どうやってですか?」
と聞いた。
「僕達にだけできる事があるじゃないか。」
と言って王子が胸をはる。
「化け猫騒動を起こすんだ。」
「夜中に油でも舐めるんですか?」
「それのどこがホラーなんだ?白い布を被って廊下を走り回るとか。暗闇から声をかけるとかするんだよ。」
「それならいっそ、刃物持って飛びかかる方が効果的じゃないかしら。」
とブランシュが言う。
「そこまでしなくても父上が叩き出してくれると思うけれど。」
とお兄様が言ったところでコンコンと離れのドアをノックする音が聞こえて来た。
「アンジュさん。旦那様が戻って来られましたよ。」
とデルフィーヌ様の声がする。
「すぐ行きます!」
と言って私は猫用出口から外へ飛び出した。
私は人間だった頃からお父様が帰宅する時には、使用人さん達と一緒に玄関でお父様をお迎えしていた。その習慣は猫になった今でも変わらない。使用人さん達と並んでお父様をお迎えしている。
変わったのはお父様の方だ。人間だった頃は、ちらっと私の方に視線を向けるだけだったが今は
「帰ったぞー、茶々。」
と言って私を抱き上げ、撫で回す。そしてそのまま執務室まで連れて行くのだ。
今日もお父様は上機嫌で私を抱き上げた。それからデルフィーヌ様に
「変わった事は何かなかったか?」
と聞いた。ここまでがいつものルーティーンだ。
「海に散歩に行った白さんが、ウミネコと喧嘩して海に突き落とされたのです。そこにたまたま通りかかったアシール・レジャン氏の奥様のエスター夫人が海に飛び込んで白さんを救出してくださいました。エスター夫人は海水まみれの状態でしたので、我が家にお呼びして入浴して頂きました。夫人は元々、こちらを訪ねるご予定だったようです。行方不明になったご夫君の情報を旦那様から聞きたいと希望しておられます。」
「そうか。」
・・ものすごく情報量の多い報告だったと思うのだが、お父様は聞き返したりはされなかった。
と、そこへ。
「おかえりなさいませ。お初にお目にかかります。私、アシール・レジャンの義妹のミルカ・ド・オービニエと申します。高名なリュミエール卿にお会いできて感動しています。」
そう言いながらピンク髪女が廊下に飛び出して来た。お父様の前に立ち、目を潤ませながら上目遣いに微笑みかける。更に胸の谷間が強調されるよう肩を寄せている。思わず猫パンチを喰らわせてやろうかと思った。
「やめなさい、ミルカ!身分が上の方に許可なく話しかけてはいけません。」
エスターさんも奥から飛び出して来て、妹をお父様の側から引き離そうとするがピンク髪は動かない。
お父様は、ふっと笑った。
「白の奴め。いつも『王都一強い騎士になる』と猛っているくせに、ウミネコと喧嘩して負けるとは情け無い奴だな。あのビッグマウスも身の程を知って少しおとなしくなるといいが。」
お父様きっつー!
ブランシュが聞いたら傷つくよ。っていうかエスターさんの足元にいるブランシュ。ちょっと泣きそうになってるもん。
それと同時に、オービニエ姉妹の事は全無視している。もしかしてお父様。さっきのデルフィーヌ様の報告、前半しか聞いてなかったのでは?
「エスターさん。紹介するわ。こちらが当家の主人ギィ・ド・リュミエールです。猫の言葉がわかると言っている変人だけど危ない人ではないから気にしないでね。」
・・デルフィーヌ様はもっときつかった。
お父様は私を抱っこしたまま執務室に入った。普段ならまずお父様は着替えをされるので、ここで私は部屋を出て行く。だけど今日は客人と話をする為だろう。着替えをせずに執務室の机の側の椅子に座った。だから私はそのままお父様に抱っこされている。
入室の許可をとってからデルフィーヌ様とエスターさんが入って来る。妹までついて来た。そしてぞろぞろと五匹の猫達も入って来た。
「アシール・レジャンに関する事だが。」
お父様は前置きもなく言った。
「話す事などない。」
とお父様はばっさり話を切って捨てた。
「公式で伝えられている事が全てだ。それ以外の情報は王国の機密に当たる為教える事はできない。」
「えー。」
とピンク脳女が言った。
「お義兄様がそんなすごい事に関わっておられるなんてお義兄様すごーい。でも、ミルカちょっと怖いかもお。どういう事が機密になるのかわかんないしー。だから、ちょっとでもお義兄様の近況を教えて欲しいですう。お義兄様が心配なんですう。」
「教えられないと言ったのが聞こえなかったのか!貴様は頭蓋骨の中に脳が詰まっていないのか!同じ事を二度言わせるな!」
お父様が怒鳴り声をあげた。ピンク脳は一瞬硬直し、それから目を更に潤ませぽろぽろと泣き出した。
「ごめんなさいぃ。私、ただお義兄様の事が心配でえ。」
「夫人。」
お父様は泣いている女を綺麗に無視してエスターさんに話しかけた。
「あなたは王国に仕える役人の妻となった。そして役人の妻になるとはこういう事だ。夫は自分が知っている情報の全てを妻に話せるわけではない。妻に言えずに特定の行動をする事もある。それに不満があるのなら別れなさい。そして朴訥とした田舎の領主とでも再婚しなさい。」
「・・・私、別れません。私には覚悟が足りていなかったかもしれません。でも、今心を固く定めました。私はアシール様を信じてアシール様を待ちます。」
強い目をしてエスターさんはそう言った。




