アシールの義妹がやって来ました
会議は続く。
「アシールの奥さんの、親とか妹ってどういう人なんだ?」
とリュッカが質問した。
「男爵様は、まあ普通に気の良い方だよ。亡くなられた最初の奥様の事をとても愛しておられて、だから最初の奥様が生んだ子供達をとても可愛がっておられるんだ。僕の奥さんと妹は後妻の子供で、奥様にも娘達にも男爵様の関心は薄い感じだったな。で、後妻である奥様は妹のミルカお嬢様を溺愛している。ミルカお嬢様は愛玩子で僕の奥さんは搾取子って奴だ。」
やはりエスターさんは『ドアマットヒロイン』であったようだ。
他人のご家庭の話とはいえ、悲しくなる。
というかアシールは当事者なんだから、だらだら惰眠を貪っていないでエスターさんを助けてあげるべきではないか!他でもない。エスターさんの夫なのだから。
「アシールは奥さんの事が嫌いなのか?」
セブラン王子がずばっと質問した。
「・・・そんな事はありませんが。」
「だったら、ちゃんと守ってやらなくちゃ。ジュストのママさんが手を差し伸べなければ彼女は危うく路頭に迷うところだったのだぞ。」
「迷いませんよ。男爵様は王都に商館を持っておられるのですから、行くところがないのならそこに行けば良いのです。」
「そこに行ったらクズゲス野郎と結婚させられるじゃない。」
とブランシュが言うと
「そうだ、そうだ。」
と王子とリュッカが口をそろえて言った。
・・・いや、あんたら会った事もない男の事をクズだゲスだと言っているけれど、あんたら過去世で全く同じ事しましたからね。
私とセブラン王子が婚約していたのに、それを一方的に王子が解消してブランシュとくっついたでしょ。
「結婚をしている以上、猫になろうともアシールには奥さんを守る義務がある。アンジュ嬢。僕がきみの夫になったら、たとえドブネズミになろうともアンジュ嬢を守ってあげるからな。」
「ドブネズミになったら近寄らないでください。」
と私は王子に言った。何がどうなったらドブネズミになるっていうんだよ。嫌なフラグは立てないで欲しい。
この日はお父様がお仕事から戻って来なかったので私達猫はまったりと過ごし、使用人さん達もお客さんのエスターさんもまったりと平和に過ごした。しかし翌日嵐がやって来た。
エスターさんの妹がうちに押しかけて来たのである。
それは青空も美しい昼下がりの事。
猫が一番眠くなる時間に来客があった。
正直ちょっと驚いた。うちは一応貴族家だ。訪問者はアポイントメントをとってから訪ねて来るのが普通である。なのに詐欺のリフォーム業者のように予告もなしに客は押しかけて来たのである。
「お姉様。ご無事で良かったわあ。」
と目をウルウルさせながら、ストロベリーブロンドの美少女がエスターさんに言って来たのでエスターさんは驚いていた。
「ミルカ。どうして私がここにいるとわかったの?」
「役人の方がリサイクル店でいろいろと換金しようとしていた泥棒を捕まえたらしいのお。お姉様、カバンにご自分の名前を書いていたでしょう。だから、商会に問い合わせが来たのよう。それで商会員総出でお姉様を探して、それで昨日お姉様が港で海に飛び込んだという情報をつかんだのお。お姉様が助けた猫はこの近所では有名な猫だったから、すぐにこの家の事がわかったのよう。」
「そう・・・。」
「もう、海にいきなり飛び込んだなんて聞いた時にはびっくりしたわあ。お姉様は嫁入り前の大事な体なのよう。気をつけなくっちゃあ。」
「私はもう嫁入り後よ。」
「ユベールもお、すごく心配してたんだからあ。んもお、お姉様ダメよう。ユベールに心配かけちゃ。お姉様の事本気で心配してくれる人なんてユベールしかいないんだからあ。」
いろいろ突っ込みたい。ユベールという男とあんたがもう完全に切れてるというのなら『ユベール』と呼び捨てにすんなや!とか、鼻が詰まっているのなら遠慮なく鼻かんでくれていいんだよ。とか。
今ここにいるのは、姉妹二人とお茶を運んで来たデルフィーヌ様。私とブランシュとアシールだ。
セブラン王子は、隣のマダムの家に遊びに行っていてお兄様とリュッカは護衛としてついて行っているので不在である。
「私、あの女嫌い。」
と小声でブランシュが私に言った。
「わかりますよ。」
と私は答えた。
「サバとブリは同じ水域では暮らせませんからね。」
「へー、そうなんだ。知らなかった。」
「例え話ですよ。」
「どゆこと?」
ブランシュは真剣に悩んでいる。自分がサバサバしているサバ女だという自覚がないらしい。
あっちのブリ女は自分で自分の事をちゃんとわかっていて、姉に対してマウントをとっているようだが。
「あのぉ、お姉様と二人でお話ししたいなあ、って思ってるんですけどお。」
とミルカとやらが目を潤ませながら言う。デルフィーヌ様はアシールをちらっと見た後、私とブランシュを見て
「どうぞ、ごゆっくり。」
と言い応接室を出て行った。勿論私達三匹は出ていかない。
人間が応接室の中で二人だけになると、ミルカとやらは豹変した。ソファーに深く座り直し足を組む。
「何やってもトロいお姉様なのに、侯爵家の別邸に潜り込むなんてやるじゃない。ここの家の主人は30代でもうおっさんだけど、騎士団長だし、すごいハンサムって有名よ。『闇の蜘蛛』とかいう盗賊団を退治した功績で退団後は伯爵位を賜るのは確実とか言われてるし、けっこういいかも。決めた!私もここに住むから。」
そう言って出されていたお菓子を貪り食べた。話すスピードも格段に上がっている。
「何を言っているの。私がここにいるのはアシール様の情報を聞く為で、お話を聞いたらすぐにおいとまするわよ。」
「あっそっ。じゃあ、そうすれば、私はここにずっといるから。商会の方にいると古参のじじいやばばあがうるさいんだもの。ちょうど良かった。」
そう言ってにやっと笑い、突然手に持っていたティーカップの中身を自分の胸元にビシャっとかけた。
そしてエスターさんが呆然としている間に自分とエスターさんのカップを取り替える。それから
「キャーーーッ!」
と悲鳴をあげた。
「どうされましたか⁉︎」
と言いつつ、デルフィーヌ様と執事さんが入って来た。
「うっ、グスッ。私が悪いんです。私がお姉様を怒らせたから。私がいけなかったんですう。だからお姉様は私にお茶を。ああ、熱い。痛い!」
「バスルームで冷やしましょう。着替えもすぐに用意しますから。お医者様にもすぐ来て頂きますからね。」
デルフィーヌ様が心配そうに気遣っている。
それを見ながら私は
「なんじゃ、ありゃーーー!」
と叫びそうになっちゃったよ。エスターさんがいるから叫ばなかったけど。
ブランシュもアシールも、フレーメン反応みたいな顔になっている。
エスターさんは諦観の表情でうつむいていた。
うーん。あの妹、うちのお父様にロックオンしたみたいだし。
なんか波乱の予感がするわ。




