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アンジュと白のペンダント  作者: 北村 清
Case 2アシールの奥さんがやって来た

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王子様とデートする事になりました

爽やかな夏の風が、木々の枝を揺らしている。


大樹の根元、木漏れ日の下で私は昼寝をしていた。

やがて意識がゆっくりと上昇し、でももう少しまどろんでいたい、そう思っていた頃。

トタトタトタ。

と足音が聞こえて来た。


「お母さーん。お母さーん。お姉ちゃんがひどいの!」

「あたし悪くないもん!」

三毛猫と茶トラ猫の仔猫が私の腹に向かってダイブして来る。思わず「ぐぇっ!」と声が出た。


「お母さん見て見て。トカゲ捕まえたの。」

「お母さん、こっち来て。変なキノコ生えてる。」

「お母さん、絵を描いたの。見て見て。」

「お母さん。お腹が痛いよう。」

「お母さん。おじーちゃまが呼んでいるよ。」

更に押しかけて来る仔猫達。数が多すぎて対処ができない。


「お母さん。トカゲのしっぽあげる。」

「ねえ、あのキノコ食べていい?」

「うわーん、お姉ちゃんが!」

「お腹が痛いよう。」

「お母さん、お母さんあのね。」


助けて、誰か!




「大丈夫、アンジュ⁉︎」

肉球のついた前脚で、誰かが私をゆさゆさゆすっている。

目を開けると純白のペルシャ猫がいた。


「・・ブランシュ。」

「大丈夫、アンジュ?あなた、すごくうなされていたわ。」

「うわーん、ブランシュ。ひどい悪夢を見たの!」

「そうなの、可哀想にアンジュ。私に何かしてあげられる事はある?」

「私の代わりにセブラン王子と結婚して、子供を産んで!」

「それだけは絶対に嫌。」


何でだよ!


一周目では引き受けてくれたじゃないの!


そもそも、それが結局のところ今の状況につながっているんじゃないか!


茶トラ猫な私は、自分の首にぶら下がっている白いペンダントを触りながらため息をついた。




吾輩は猫である。名前はアンジュである。


と言っても、生まれた時から猫だったわけではない。生まれた時は人間だった。


王国の騎士団長と隣国の王女との間に生まれた私は両親から放置されて育ち、どこに出しても恥ずかしい悪女に育った。

そのせいで、婚約者だったセブラン王子から婚約を破棄されてしまった。怒った私は、王子と王子の恋人だったブランシュ、実の兄更にプラスツーを『古の秘宝』の力で『豚』に変えてしまった。


その豚のうちの一匹に反撃され、アンジュの人生は終了。


完。


とはならずに、私は全く別の世界の日本人『竹名安寿』として生を受けた。


そこでは、両親や兄妹達から浴びるほど愛情を受け、更に学校で道徳と倫理を勉強し、ごくごく真面目な清く正しい一庶民として前非を悔いながら暮らしていた。


ところが、14歳のある日。友人をかばって交通事故に遭い、アンジュ・ド・リュミエールの人生に戻ってしまったのである。


一周目の人生を悔いながら生きていた私は同じ過ちを繰り返さないよう、兄とは円満な関係を築きセブラン王子とはできる限り関わらないように生きていた。


それなのに、隣国の外交使節が来ているタイミングで殺人事件に遭遇。死体発見現場から逃げられなかった私は、私と兄とセブラン王子とブランシュと後二人、護衛騎士のリュッカと秘書官のアシールを『古の秘宝』の力で猫に変えなんとか容疑者にならずに逃げのびた。


殺人事件の現場から離脱できた私達だったが、『古の秘宝』は一年に一回しか使えないらしい。


かくして私もブランシュも、男達四人も全員猫の姿で日々を過ごしているのである。


もしも万が一、一年経っても人間に戻れなかったら、私は王様の命令でセブラン王子と結婚しなくてはならない事になっている。

猫は多産な生き物だ。

人間に戻れず王子と結婚し、たくさんの子供達に囲まれるという悪夢を見て私はうなされていたのだった。


「はー。」

と私はため息をついた。


「どうしたの、アンジュ?猫背になっているわよ。」

「うん。猫だからね。」


一年の長さに絶望的な気持ちでうつむいていると。


「アンジュ嬢。ここにいたのか?」

と私のストレスの元凶である王子が三毛猫の姿でやって来た。


三毛猫という生き物は99%以上の確率でメスだと聞いた事がある。なのに何故かセブラン王子は男なのに三毛猫になっているのだ。


極めて希少な猫なのだという事がバレると、誘拐や略取の対象にされてしまうかもしれないので、私もお兄様も王子にあまりふらふら屋敷の外を出歩いて欲しくない。なのに王子は毎日、どこかへ散歩に行っているのである。そして、天気の良い本日。


「アンジュ嬢。デートをしよう。」

と三毛猫が言って来た。


「・・・でえと?」

「そうだよ。今日は二十日だから漁港の側で『二十日市(はつかいち)』と言われる盛大な市を開いているんだ。そこに僕らも行ってみよう。」

「私達は猫なのですから、買い物は全くできませんよ。」

「大丈夫だ。この僕がほんの少し愛嬌を振り撒けば、降るように貢ぎ物をもらえるのだ。さあ、行こう。」


私はブランシュの白くて長い毛をつかんだ。


「ブランシュも一緒なら。」

「勿論行くわよ。私は殿下の護衛だもん。」


話し込んでいると他の猫達もやって来た。黒猫のジュストお兄様。ブランシュの従兄弟でスコティッシュフォールドのリュッカ。王子の秘書官でアメリカンショートヘアのアシールだ。


「今日は特別人の多い市だからな。可愛い我らが地域猫という誤解を受けると誘拐されてしまうかもしれないので、首に蝶ネクタイをつけて行こう。おまえ達も好きなのを選んでつけるがいい。」

と言ってセブラン王子が蝶ネクタイをたくさん出す。


「どうしたんですか、これ?」

と聞くと

「隣の家に住んでいるマダムが手作りしてプレゼントをしてくれたのだ。」

と王子は答えた後「にしし」と笑った。


「もしも今人間に戻ったら、裸ネクタイだな。」

「もし市場で人間に戻ったら、海に飛び込んで死にます。」

リュッカが真剣な声でそう言った。


「アンジュ嬢は是非とも、僕の瞳と同じこのブルーの蝶ネクタイをつけてくれ。」

と王子に言われ断る文句を思いつかず、仕方なく私はブルーのネクタイをつけて漁港へと向かった。


お久しぶりの方も、はじめましての方もこんにちは

北村すがやと申します

新章スタートです

また殺人事件に巻き込まれてしまうアンジュ達と作者を、ぜひぜひ、よろしくお願いします!

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