殺人事件を解決する
自白は早かった。
エミリカ大公妃は否定も言い訳もせず、ただ話を聞いてガタガタと震え出した。
大公妃は泣き出して顔を手で覆ってしまったので、ブランシュが大公妃の座っている椅子の手すりに飛び乗り、ストールを口でくわえて引っ張った。ストールはするりと首から外れた。
予想していた事とはいえ、生々しい指の跡が首についているのを見て私は辛くなった。側に控えていた侍女達も知らなかったのか動揺が走っている。
「あなたが言った通りです。でも、違う事もあります。」
大公妃は、ストールを口にくわえたままのブランシュの背中を撫でながら言った。ブランシュのふかふかな毛並みと温かな体温に触ると気持ちが少し落ち着くのだろう。
「私は、セブラン王子の為に妹を止めようとしたんじゃない。妹が憎かったから、妹の企みを妨害したんです。妹の企みが成功したら、妹はセブラン王子ときっと結婚する。そんなのとても許せませんでした。私は親の命令であんな下衆と結婚させられたのに、妹は好きな相手と結婚できるだなんて・・・。」
「・・・・。」
「そんな考えだった私がこの国と王室に恩を着せる事はできません。亡命はしません。私はそんな事ができる価値ある人間ではありません。私なんか・・・。」
長きに渡るDVがこの人の自尊心と生きる力を奪って来たんだ。と気づかされた。
私なんか。なんて言わないで。と言いたかったけれど猫の姿では言う事もできない。自分の無力さにうなだれていたら、そんな私の背中を優しくデルフィーヌ様は撫でてくださった。
「私は妃殿下に救われて頂きたいです。」
とデルフィーヌ様は言われた。
「私もかつて、あなたの国の王族にひどく傷つけられました。だから王族の横暴に苦しまれたあなたに救われて欲しいと願っています。私以上に苦しんだであろう私の元夫や、夫の娘も同じ気持ちだと思います。妃殿下が救われる事が、私達にとっても救いとなるのです。」
「なーう。」
と言ってブランシュが大公妃にすりすりした。大公妃はブランシュを抱き上げて頬ずりをした。その頬に新たな涙がまた一筋流れた。
正直、亡命を申請して受け入れられるかは私達にはわからない。我が国の国王陛下は彼女をあっさり見捨てるかもしれない。
それでも、私はこの人に救われて欲しかった。
私が大好きな、ノーヴェンバー・ジョーのシリーズでも、暴力夫のDVに苦しむ女性の物語がある。
女性の父親が怪我に気づき、娘に何があったか問いただす。父親は娘婿に、娘に暴力を振るわないでくれと頼むが、夫は妻が義父にチクったと言って激昂し、家に帰ったらもっとボコボコに妻を殴ってやると言う。そのセリフを聞いた父親は娘婿を殺してしまう。
事件を推理したノーヴェンバーは、せっせと証拠を隠滅。事件は迷宮入りとなった。
後日、別の短編で未亡人になった女性と父親が仲良く幸せに暮らす様が出てくる。
探偵は刑事じゃない。私が回帰してしまった世界は、水曜夜9時系の世界じゃない。そこにいるのがろくでなしな被害者と可哀想な犯人だったら、犯人の味方をしてしまっても良いと思う。
犯人の幸せを願ったっていいと思う。
もしロートル大公が生きていたら私が殺されていたかもしれない。
この女性は意図せずとはいえ、私の事を守ってくれたのだ。
その感謝を伝えたくても猫の姿では伝えられない。私はせめてちょっとでも可愛く見えるよう瞳を潤ませながら
「みゃー、みゃー。」
と鳴いた。
そしたら三毛猫王子も
「うみゃ。」
と言いつつ、大公妃の足首に体をすりすりし始めた。
セクハラ!
ブランシュはともかく、あんたがそれやるのはアウトー!
と思うが、大公妃は嬉しそうだ。
その三毛猫はメスではなく、17歳の人間の男です。と言えないのがもどかしい。
「ありがとう、猫ちゃん。励ましてくれるのね。」
と大公妃は言い
「責任者の方を呼んで来てください。全てお話しします。そのうえで、この国の法に従います。」
と言って立ち上がられた。
デルフィーヌ様は扉の外に視線を移した。実は扉の向こう側には近衞騎士が数人控えていた。
殺人犯と対峙するのである。どんな危険があるか予測できない。猫騎士だけでは護衛が心許ないので、ついて来てもらっていたのだ。騎士の一人が責任者を呼びに言ってくれた。
そうして、殺人事件は解決した。




