アンジュ、事件を推理する
30分後。
私は、殺人犯と思しき人の部屋を訪問していた。自首を進める為だ。
と言っても、猫の姿の私がペラペラと推理を披露するわけにはいかない。なので、推理はデルフィーヌ様に話してもらう。現在私はデルフィーヌ様の腕の中で抱かれている。
30分前。
「どうしてリュミエール令嬢は、ブリクール様が見た相手が女性だとわかったのですか?」
とアシールに聞かれた。
「『男性』だったら、デルフィーヌ様が役人の質問に答えるわけがないです。」
と私は答えた。
「もし『金髪で長身の男性を見た』と言ってしまったら、現在行方不明中のセブラン殿下に疑いが向きますよね。そしたら、護衛のお兄様達が殿下にまかれた事が芋づる式にばれちゃうでしょう。そしたら、お兄様達は罰せられてしまいます。だから見た相手が男性だったらデルフィーヌ様が『見た』と言うわけがありません。女性だったから答えたんです。お祖母様も伯母様も行方不明中の私もブランシュも金髪でも赤いドレスでもないから、疑われる事はないですしね。」
「なるほど。」
「というか、今日赤いドレスを着ている女性は三人しかいないのだけど。」
「全員金髪ね。」
リュッカとブランシュがそう言った。
「王妃殿下と隣国の大公妃とその妹だけだな。だが、王妃殿下は背が高いとはいえない。」
「はっきりチビだって言えよ。」
とセブラン王子。
「言えるか!」
とリュッカは怒った。
「となると残りは二人ね。エミリカ大公妃とマリーカ公女。でもマリーカ公女は私達より後から来て死体を見て大騒ぎしていたから、きっと犯人じゃないわ。」
「今思うとエミリカ大公妃は、全くご夫君が亡くなった事を悲しんでおられませんでしたからね。」
とブランシュとアシールが言った。
「悲しくなかったんだと思いますよ。彼女、とても厚化粧だったでしょう。」
と私は言った。
「お母様に仕えていた侍女達があんな感じの厚化粧でした。お母様が暴力を振るうから、彼女達はいつも顔にあざがあったんです。それを隠す為に不自然に厚い化粧をするんですよ。それにエミリカ大公妃は、初夏の夜会だというのにまるで肌を見せないドレスを着ていました。きっと腕とかにもあざがいっぱいあるんだと思います。」
「夫に暴力を振るわれていたのか?」
とお兄様が聞いた。
「きっとそうでしょう。所詮、お母様の弟ですからね。」
「・・そこらへんが動機だったのだろうか?」
「おそらく。
時系列的にはこういう事なのではないかと思います。
エミリカ大公妃は、妹がセブラン殿下にヤクを盛る事をおそらく知っていました。侍女を買収して妹の情報を集めているような人でしたからね。ばれたら国際問題になる事です。大公妃は、妹と殿下の様子を監視していたのでしょう。そしてセブラン殿下が夜会会場を出て行った。それをつけて行ったのだと思います。あるいは洗面所を出て一人でふらふら歩いている殿下を発見したのかもしれません。大公妃はセブラン殿下について行き、リュミエール家の部屋にやって来ました。そして眠り込んでいた殿下を起こそうとしたのではないでしょうか。だけど殿下は目覚めなかった。その起こしている最中にロートル大公が妻を追いかけてやって来たのだと思います。」
「ロートル大公も妻を監視していたのか?」
「そうだと思います。お兄様。暴力男にはよくある事なんですよ。妻なり彼女なりがどこかに助けを求めたら困ると深層心理で思っていますし、そもそも束縛や執着が異常に強いんです。そして、部屋の中で二人きりでいる殿下と妻を発見してしまったら、後は誰にでも予測できる修羅場です。」
「暴力を振るったのか。」
「きっと首を絞めたのです。大公妃は、事件の後首にストールを巻いていたでしょう。指の跡を隠していたのだと思いますよ。」
「首を絞めるって死んでしまうじゃないか!」
「だから大公妃は無我夢中で抵抗したのです。偶然手に当たったナイフで刺し、力いっぱい突き飛ばしたのです。というのが私の推理・・というか空想です。
でもですね。現実でも作り話でも、配偶者を殺す人間はとても多いのですよ。」
その時私は過去世のデルフィーヌ様の事を考えていた。
「リュミエール令嬢の推論はとても理に叶っていると思います。被害者のロートル大公は肥満体で運んで来る事は誰にもできません。ですからロートル大公は自分の足で歩いてリュミエール家の部屋までやって来たはずです。そして他にロートル大公があの殺害場所になった部屋にわざわざ来た理由は思いつきません。」
とアシールが言った。
「つまり、セブラン様のせいじゃないっすか!あなたがあの部屋で眠り込んだから。いや、そもそもブランシュをまいたから!」
「何だよリュッカ。悪いのは僕じゃなくてあの金髪豚女だろう!」
スコティッシュフォールドと三毛猫が猫パンチを繰り出しながら喧嘩し始めた。
「でも、大公妃が犯人だという決定的な証拠がないよな。」
お兄様はそんな二匹を無視して考え込んだ。
「・・首についたあざが証拠になると思いますよ。指の長さや手の大きさが証明できますからね。そこをぐいぐい攻めて後は自白を引き出すしかないのではないでしょうか。自白してもらって亡命を勧めるんです。ろくでなしのクズ野郎でも、ロートル大公は王族です。国へ戻ればエミリカ大公妃には重い罰が待っているでしょう。だから亡命を勧めるんです。殿下を助けようとして起こった悲劇ですし、それに大公妃は『古の秘宝』についても、もっと何か知っておられるかもしれません。」
「アンジュの意見に賛成!」
と言ってブランシュが前脚を挙げた。
「そもそも正当防衛だし、暴力男が許せないし!」
「でも、どうやって説得するのだ。我々は皆この姿だぞ。」
とお兄様が首をひねる。
「それはまあ・・・。」
と言って私はデルフィーヌ様を見つめた。
というわけで30分後。大公妃の部屋に私達は来ていたのである。




