デルフィーヌの話を聞く
私がそう言った途端、三匹の騎士猫と秘書官の八つの瞳がセブラン王子に集中した。
ちなみに今は夜なので、全員、瞳がまん丸だ。とても可愛い。
「違う!僕じゃない。僕は殺してなんかいない。本当に、ただあの部屋で眠っていただけなんだ!」
セブランが首をぶんぶんぶん!と横に振った。
「そういえば、ジュストのお母様はどこに行かれたのかしら?」
と言ってブランシュが無人の室内を見回した。まさにそのタイミングでノックの音がして、デルフィーヌ様が部屋の中に入って来た。
「まあ、あなた達!殿下も。いったいどこへ行っておられたのですか⁉︎」
デルフィーヌ様は手で胸を押さえて、深くため息をついた。
「探したんですよ。」
「すまなかったな、ジュストのママさん。」
とセブランが答える。
「ご無事で良かった。」
デルフィーヌ様がしみじみと言った。
「猫になったショックのあまり愚かな事をされているのではないかと・・・。」
「ははは、自死などするとでも思ったか?」
「いえ、正体を隠せるのを良い事に恨みのある人間のドレスをこっそり引っかいたり、化け猫のふりをして脅したりとか。」
「・・・・。」
「デルフィーヌ様。それにお父様もだけど、どうして私達の正体に気づいておられるのですか?」
と私はデルフィーヌ様に質問した。
「悲鳴が聞こえて来て、もう一つの部屋に駆けつけた時、皆普通にしゃべっていましたもの。ジュストは『アンジュが死んじゃう。母上、父上、アンジュを助けて!』と言って泣いていて、殿下は『こういう時は人工呼吸だ』と言ってアンジュさんにキスしようとして、ギィに尻尾を踏まれて・・・。」
カオスだな。
その状況を見て『幻覚!』とか思って見なかった事にしようと思わずに、現実としてすぐ受け入れた二人がすごい!
というか王子。どさくさに紛れて何をしようとしてくれてやがるんですか!
私は人間とは勿論、ツシマヤマやイリオモテヤマとさえ口にキスした事はないんですよ!それをまあ、人が失神しているのを良い事に。あんたは、グリム童話に出て来るエロ王子ですか!
でもまあ、お父様が防御してくださったみたいだから良かったけれど。というか、騎士団の立派なブーツで尻尾踏まれたなんて殿下もさぞ痛かっただろう。
「・・・お父様は猫がお好きなのでしょうか?」
と私はデルフィーヌ様に聞いてみた。
「あなたのお父様は、動物が大好きだったわよ。以前は、小鳥やウサギやデグーを飼っていたわ。でも、あなたのお母様が嫉妬してその子達を殺そうとしてしまったそうなの。それで、泣く泣くペットを全て手放したそうよ。」
・・・お母様ならまあ、やりかねんな。
お父様も可哀想な人だよな。としみじみ思った。
「アンジュさん。あなたの事もよ。あなたのお父様はあなたが生まれてとても喜んだそうだけど、あなたを可愛がろうとすると、お母様が烈火の如く怒って暴れたのですって。それでお父様はあなたを守る為に距離をとったそうなの。サラ様がそう言っておられたわ。」
「・・・・。」
「それでお母様がいなくなった後も、あなたとの間の距離感がつかめなくて、戸惑ってしまっているけれど、でも本当はとてもあなたを愛していて大事にしているのですよ。あなたのお父様は。」
「・・そーなんですかー。」
「それより母上に聞きたい事があるのです!母上は、殺人事件の現場になった部屋に入って行く人を見たのですよね?どういう人だったのですか?」
とお兄様が割って入って来た。
デルフィーヌ様は眉根を寄せた。
「確かに見た事は見たけれど、ほんの一瞬の事でよく見えなかったのよ。廊下は薄暗かったし。」
「デルフィーヌ様、でも。」
と私は言った。
「男性か女性かはわかりますよね。」
「あっ!」
と何匹かの猫達が言った。
そう。デルフィーヌ様は目撃した相手の性別は言わなかった。言ったのはメイド達だ。
「ええ。」
デルフィーヌ様はうなずいた。
「女性だったわ。ドレスを着ていたから。」
「何色のですか?」
「赤よ。」
デルフィーヌ様はそう言った。




