殺人犯の見当がつく
「エミリカ様。ご報告にあがりました。」
「荒れてたわね、あの子。・・その猫ちゃん達どうしたの?」
「懐かれてしまったみたいでついて来るのです。」
「ふふ、可愛いわね。おいで。」
ベッドで横になっていた大公妃のエミリカが体を起こした。大公妃が手を伸ばしなでまくったのは、ブランシュだった。まあ可愛いよね。長毛種の猫は。正直、私だってブランシュに抱きついてモフモフしたい。
「セブラン王子が行方不明という事もあって、非常に不機嫌になっておられます。探しに行くというのを必死で止めました。」
「王子殿下は、どこへ行ってしまったのかしらね」
と言った後ぽつんと
「あの人を殺した人間を見たのかしら?」
と言った。
「どちらにしても、これで亡命の話は立ち消えね。『古の秘宝』の情報がこれでこの国に流れずに済むわ。・・・良かった。」
「『古の秘宝』の情報と言いましても、既にある程度の情報は各国に流れているのではないでしょうか?」
と侍女さんが言う。
「かつてこの国で『古の秘宝』が使われた事があるのよ。」
暗い声でエミリカは言った。
「そうなのですか?」
「先先代の国王陛下は、本当はアリエノール殿下をこの国の国王に嫁がせたかったの。だけどアリエノール殿下は護衛騎士に一目惚れして、その騎士と結婚したいと言い張った。今まで散々甘やかされて、一度も『駄目』と言われた事の無い方だったから、その件だけ『駄目』と言われても彼女は言う事を聞かなかった。それで周囲が折れて・・・。
なので、先先代の国王陛下は方針を変えたの。アリエノール殿下の生んだ娘を、次の王の妃にしようって。
この国ではね。王太子妃になれるのは、爵位を持つ貴族の第一子だけなのですって。だから、『王家を含む全貴族の第一子に必ず男の子が生まれるように』というふうに秘宝の力を使ったの。
そして実際、この国では貴族家の第一子にアンジュ・ド・リュミエール以外女の子が一切生まれなかったのよ。あなたも見たでしょう。舞踏会の会場で、10代の男女比が明らかに歪なのを。」
「そのような事までできるのですか⁉︎」
と侍女さんが言った。
私も思った。
「・・恐ろしゅうございますね。」
私も思った。
だから、この国の10代の貴族は男女比が3対1なんてとんでもない比率になってしまっていたのか。
そしてもし、その話が事実なら。
もしかしてセブラン王子って、本当は最初は女の子だったんじゃないの!
それが王妃様のお腹の中で男の子になっちゃって。だから、今、三毛猫になっているとか・・・。
やめよう。考えるのは。
この思想は危険だ。
何の証拠も無いし。証明の仕様がないし。
「あら、どうしたのトラ猫ちゃん。震えているわ。寒いのかしら?」
寒くはない。この部屋は十分暖かい。長袖の部屋着に着替えているのに、ストールだけはそのまま首にきちっと巻いている大公妃様は暑くないのだろうか?と不思議なくらいだ。
「いつもありがとう。」
と言って大公妃は、小さな袋を侍女に渡した。たぶんお金だろう。
「マリーカの動きを、また教えてちょうだい。」
「かしこまりました。」
と侍女は言って部屋を出て行った。エミリカ大公妃は、眠るつもりらしくベッドに横になって目をつむられた。なので私達猫六匹も廊下に出た。
その後も廊下を歩いてまわったが、立番をしている騎士しかおらず、それ以上は興味深い話を聞く事はできなかった。
なので私達は、リュミエール家の女性用の部屋に戻った。
・・・三階まで上るのは、はっきり言って大変だった。嗚呼、元の世界のエスカレーターやエレベーターが今たまらなく懐かしい。
「大丈夫か、アンジュ?」
お兄様が心配してくれる。
「迎賓館までわざわざ行ってみたけれど、犯人わからなかったな。殿下に薬を盛ったのはマリーカ公女みたいだけれども。でも、殺人犯ではなさそうだった。」
とリュッカが言った。
「そうね、あの頭の弱さで人殺しは無理だわ。びっくりするくらい頭が悪かったわ。本当にびっくりしたわ。」
とブランシュも言う。
「演技かもしれませんよ。」
とアシールが言った。
「『能ある鷹は爪を隠す』と言うじゃないですか。巧みに爪を隠しておられるのかも。」
「あの女に爪は無い。能も無い。」
ブランシュが断言した。
「でも、その白いペンダントの秘密はわかったじゃないか。きっとそのペンダントが『秘宝』で、アンジュ嬢がその継承者なのだ。で、一年に一回しか力が使えないって事だから、一年後には人間に戻れるって事だ。」
とセブランが言う。
「・・一年は長いですよ。」
とリュッカが言う。
「過ぎてみればあっという間よ。」
ブランシュがケラケラ笑いながら言った。
「すみません・・なんか、いろいろと。」
私は『ごめん寝』のポーズで皆に謝った。
「だから、アンジュが気にする事じゃない。そんな事より、アンジュが殺されたり、誘拐されたりしなくて良かった。ロートル大公が本気で君を殺すつもりだったのだとしたら、僕はロートル大公を殺してくれた人に御礼を言いたいくらいだ。」
とお兄様が言った。
「御礼を言う為にも、誰が犯人なのか見つけ出さなくっちゃな。」
セブランのセリフに、私は首をコテンと傾けた。
「殺人犯人ならもう見当がついてますよ。」
「誰⁉︎」
猫五匹の声がそろって結構な大声になった。私は飛び上がってしまった。
「・・犯人は、たぶんデルフィーヌ様が部屋に入って行くのを目撃した人ですよ。」




