公女の会話を盗み聞く
それから私は二階に登って行った。
それにしても恐ろしい話を聞いてしまった。
隣国の人達が私を誘拐するつもりだったなんて!
お兄様やデルフィーヌ様に出会う前の私だったなら、誘拐されてもそれもまた運命、むしろご褒美と思ったかもしれないが今は絶対誘拐なんかされたくない!おうち大好き!
上流社会は魔境だぜ。と思いつつ私は階段を上った。けど上るの大変!猫の短い足ではちょっとした登山だ。
二階にたどり着いた時は私は肩でゼーゼー息をしていた。
みんなはどうなのだろう?と振り返ってみたら、さすが騎士猫三匹とセブラン王子は難なく階段を上っていた。しかし、秘書官のアシールはきっと普段から運動をしていないのだろう。私並みにゼーゼー言いながらまだ階段の途中にいた。そしたら、通りがかった騎士がアシールをひょいと抱き上げ、二階まで連れて上ってくれたのだ。ズルい!
「猫がやたら多いな。」
「ネズミ対策だろう。どの猫も毛艶がいいし、大事に王宮で飼われているんじゃないのか。」
と騎士達が話している。
今目の前にドブネズミが現れたら、悲鳴をあげて逃げる自信があるけどね。
「・・公女様荒れてるなあ。」
「近寄らないでおこうぜ。触らぬ神になんとやらだ。」
元いた世界とよく似た諺があるらしい。私はマリーカ公女の部屋に寄って行った。公女の部屋もドアが少し開いている。その隙間からマリーカ公女の怒鳴り声が響いていた。
「セブラン様はどこへ行ってしまったのよ!ニーナ。あんた、セブラン様に飲ませる薬の量間違えたんじゃないでしょうね!」
「そんな事は・・・。」
はい。自白いただきました。王子にヤクを盛ったのはこの女でした。
「なら、何で眠り込んでなかったのよ。もしかしてあのまな板女とどこかにしけこんでいるんじゃないでしょうね!あるいはあの白髪の脳筋女と!」
オス猫四匹の八つの瞳が、私とブランシュを見つめる。失礼だぞ、おのれら。確かに人間だった頃の私はコウテイペンギンのような胸と腹の持ち主ではあったけど。今も胸はぺったんこで腹はルーズスキンだけれども。
「それよりも公女様。どうしてロートル大公があの部屋で亡くなっておられたのでしょう?恐ろしい事でございますわ。」
「ふん。決まっているわ。あのまな板女が殺したのよ。お義兄様はあの女を殺すつもりでいたわ。それできっと返り討ちにされたのね。」
「まあ、そんな!どうしてリュミエール令嬢を?」
「あの女が『古の秘宝』を継承していたかもしれないからよ。あの女が死ねば、継承権がお義兄様に移るかもしれないでしょう。そうしたら、お義兄様が王様になれるわ。」
「でも、アリエノール殿下以外にも外国に嫁がれた王女はおられますし、先代の国王陛下に隠し子がいたという可能性もゼロではありません。リュミエール令嬢が継承者かどうかはっきりわからないのに、殺してしまうなんて大問題ではありませんか⁉︎」
「何が?」
心の底から不思議そうにマリーカ公女は聞いた。
この女怖え。サイコパスだよ、サイコパス!
というか私、ロートル大公に命を狙われていたの⁉︎
古の秘宝の継承者かもしれない、なんて曖昧な理由で!
別に肉親の愛情を期待していたわけではないけれど、それでもやっぱりちょっと・・いや、かなりショックだ。
思わず猫背になって俯いていたら、誰かがそっと背中に手を当ててくれた。肉球の感触がとても心地よい。心配そうな顔をしたお兄様が私の背中をさすってくれていた。
「殿下、あの女引っ掻いてやってもいいですか?」
とブランシュが聞く。
「今はやめとけ。また今度にしろ。」
とリュッカが言った。
「とにかく!一刻も早くセブラン様を見つけて!」
「公女様。もしも・・もしもの話ですが、大公閣下を殺したのがセブラン王子だったらどうなさるのですか?」
「だったら好都合じゃない。殺人犯だとしたら王位にはつけないし、我が国に連れて帰るわ。そして私達結婚するの。あの綺麗な顔がずっと私の側にあるのよ。なんて素敵なのかしら。」
「我が国の王族を害したのですよ。連れて帰るなんてできるわけがありません!」
「お父様に頼めば大丈夫よ。お父様にできない事はないし、お父様は私の頼みなら何だって聞いてくださるもの。」
馬鹿だ。
この女、ファンタジスタ級の馬鹿だ。
脳みそが魚の白子でできているんじゃないのか?隣国の上流階級の女子教育ってどうなっているんだ?
だけどもし、この女の言っている事が本当だったら。本当になんとかなっちゃうのだとしたら、隣の国は国としてやば過ぎる。
私達はドアから離れた。侍女の一人が部屋の中から出てきたのだ。私達を見て
「あら、猫ちゃん達。」
と言って笑ってくれる。
正直、人間だった頃の一千倍周囲の人達に優しくしてもらえている。
「ふふ、可愛いわね。」
と言いつつ侍女さんは廊下に出てドアを閉めた。それで中の声があまり聞こえなくなった。
侍女さんは深刻な顔をして周囲を見回し
「よし、誰もいないわね。」
と言った。六匹の猫は『誰も』の中には入らないらしい。
侍女さんは、廊下を歩き出した。そしてある部屋の前で止まり、再び周囲を見回した。
「失礼致します。」
と言って侍女さんはドアを開け中に入った。
彼女は誰と会おうとしているのだろう?何か秘密の匂いがする。ドアを閉じられたら、中の様子はわからなくなる。中に入り込んでしまおうか?
と私が悩んでいたら、なんとセブラン王子が部屋の中に入ってしまったのである。すかさず三匹の騎士猫と秘書官がついて行く。廊下に一人残されてしまった私。慌てて私も部屋の中に入り込んだ。




