王子の行方を捜索する
「まかれた?」
「って、どういう事だ⁉︎」
お兄様とリュッカがブランシュに詰め寄った。
「殿下が洗面所に行かれると言って。中について入るわけにはいかないから廊下で待っていたの。だけど、いつまで経っても出てこなくて。そこにちょうどアシールが通りかかったから、中を確認してもらったの。そしたら、殿下は中にはいなくて窓が開いていて。」
「連れ去られた、とかではないんだよな?」
とリュッカが声をひそめて聞いた。
「そういう痕跡は無かったわ。窓の外の地面にも殿下の足跡がついていたし。」
とブランシュは言った後
「アンジュが呼び出したというわけではないの?」
と意味不明な事を私に聞いて来た。
「え?何で私が?」
「他に思いつかないもの。呼び出されて殿下がいそいそと出かけていく相手なんて。」
「知らないし、有り得ないし!」
と私は叫んだ。
「そんな、絶対アンジュと一緒と思ったのに。どうしよう。団長に報告する?」
「「ちょっと待て。」」
と男二人の声がそろった。
「一応、少し探してからにしよう。」
とリュッカが蒼ざめて言う。それから私の顔をちらっと見た。
「でも、確かにアンジュ嬢以外に殿下を呼びつけられる人が思いつかないな。」
「誰かがアンジュの名前を語ったんじゃないか?」
とお兄様が言った。
だから何で私なの!
と私は叫びそうになった。
私以外にも容疑者はいるでしょう。1人か2人か10人くらいっ!
「アンジュが一緒なら、リュミエール侯爵家の部屋に行ったのかと思ったのだけど。」
とブランシュが言う。
伯爵家以上の高位貴族は王宮内に『部屋』を持っている。そして王宮に用事があった時休憩したり、宿泊したり、密会したりと使用するのだ。
「行ってみよう。」
とお兄様がリュッカとブランシュに言った。勿論私はついて行くつもりはなかったがリュッカに
「アンジュ嬢も来て。」
と何故か言われた。
「何でですか?」
「アンジュ嬢を一人にして何かあったら僕らが殿下に叱られる。」
意味がわからないが、隣国への手前というものがあるのかもしれない。逆らうのもめんどくさいし、またシンシアに寄って来られたら更にめんどくさい。私は3人と一緒に行動した。
舞踏会の会場を出てしばらく歩き、私達は貴族の部屋があるエリアにたどり着いた。途中、アシールが合流した。アシールは王族の控え室にセブラン王子を探しに行っていたらしい。そこにはいなかった。とアシールは言った。
私は落ち着かなかった。
今、私は過去世で豚に変えてしまった4人と行動を共にしている。彼らと一緒に行動しないとならないなんて、全てセブラン王子のせいだ!
だいたい護衛をまいてどっか行くなんて、王族としての自覚が足りないのではないか?
王子の身に何かがあったなら、お兄様達は石を抱かされるかもしれないのだぞ!
リュミエール家の『部屋』は2つある。男性用と女性用だ。お兄様が女性用の部屋のドアをノックしてから開けた。
中にはお祖母様がいた。ソファーに腰掛けお茶を飲んでいた。
「あら、ジュストにアンジュ。どうしたの?」
とお祖母様に聞かれた。だけどまさか、王太子が行方不明だと言うわけにはいかない。
「誰か、ここに訪ねて来ませんでしたか?」
とお兄様はお祖母様に質問を返した。
「デルフィーヌが少し前に私の様子を見に来てくれたわ。」
とお祖母様は言った。この様子ではセブラン王子は来ていないのだろう。
お兄様は「失礼します」と言ってドアを閉めた。
「いらっしゃらなかったな。」
「もう一つの部屋は?」
とブランシュが聞く。
「アンジュの名前で呼び出されたのなら、男性用の部屋にいるとは思えないけれど。」
と言いつつもお兄様は、『男性用の部屋』をノックした。男性用と女性用、2つの部屋は廊下を挟んで向かい合わせにある。ちなみにここは3階だ。
ノックをしても中から返事は無かった。
というか、どうして私の名前が語られたと皆思い込んでいるのだろう?今世では、王子と私は婚約していないし、たとえ婚約していたとしても呼び出しに応じるとはとても思えないんですけど。
しかし。
予想に反してセブラン王子はいた。リュミエール家の男性用の部屋の中に。
お兄様が部屋のドアを開けると、部屋の一番奥のソファーにセブラン王子が寝っ転がっていた。目を閉じて寝息をたてているところを見るに、どうやら熟睡しているらしい。
お兄様、リュッカ、ブランシュ、アシールの4人は仰天していた。
私も驚きのあまり部屋の中を二度見してしまった。
部屋の中にはもう1人、人がいたのだ。
その人物はセブランのすぐ横で寝っ転がっていた。
というか倒れていた。
床の上に仰向けに倒れ、その豊満な腹部には深々とナイフが刺さっている。白いシャツは血で真っ赤に染まり床にも血溜まりをつくっていた。出血量と倒れている人間の顔色からしてもう死んでいるのは間違いない。
私の叔父であるロートル大公が、リュミエール家の部屋の中で息絶えていた。




