古の秘宝について知る
私とブランシュは控え室に向かった。
「別について来なくても良いけれど。」
「一人でうろうろするなんてダメよ。社交界は、檻が壊れている動物園と同じ。いつ、どこで、ケモノに襲われるかわかったものじゃないのだから。」
「ケモノって。セブラン王子に夢中な女の子達の事?」
「そうよ。今回は特に隣国からマリーカ公女が来ているし。あの女、何をしでかして来るかわかったもんじゃないわ。」
「マリーカ公女?」
「ロートル大公の奥様、エミリカ大公妃の妹よ。以前セブラン様が隣国を表敬訪問した時にセブラン様に一目惚れしたらしくって、それ以来猛烈にセブラン様にアタックして来てるの。隣国では王族よりも権力を持っている公爵家の娘だから、とにかく我儘で人の言う事をまるで聞かないのよ。」
死んだお母様と同じタイプって事か。そういう女が多い国なのだろうか?
「王族よりも権力持ってる公爵家とはすごいですね。」
「元々先代の国王の重臣だった公爵なの。彼が第二王子の側についたから第二王子が新国王になったのよ。王太后とかは第二王子が新国王になるのに大反対だったらしいから。」
「でも、権力を持っているって言っても、隣の国ででしょう?セブラン様も迷惑なら迷惑だとはっきり言えばいいんじゃないですか?」
「隣国の人間は怒らせたら厄介よ。『古の秘宝』を持っている国だから。」
「『古の秘宝』。何ですか?それ。」
不穏な言葉だ。というか旧日本人には、卑猥に感じる言葉である。
「詳しい情報は秘匿されているけれど、時間を巻き戻したり、人間を動物に変えてしまったりとかできるんだって。」
もしも今何か飲み物を飲んでいたら鼻から吹いた事だろう。
「・・なっ・なっ・・んなっ!」
「ほんと物騒よねえ。」
まさか、お母様から受け継いだあの白いペンダントが『古の秘宝』なのか⁉︎そして、今現在首から下げているコレが!
だから、5人もの人間を豚に変え、更に令和の日本からこちらの世界の、それも過去に戻って来る事ができたのだろうか⁉︎
「そ・・それは物騒ですね。」
「ほんとよ。セブラン様が動物に変えられたりしたら一大事だわ。ちょっと、大丈夫アンジュったら真っ青よ!」
「アンジュさん。」
突然背後から声をかけられた。ブランシュが警戒の表情で間に立つ。
「どなたですか⁉︎」
「私の親戚です。お父様の従姉妹です。」
と私が返答した。私に声をかけて来たのはシンシアだった。
「あなたと話がしたいの。二人で話ができない?」
「駄目です。」
とブランシュが言う。何故、君が答える?
「いいですよ。」
と私は答えた。
「私も行く!」
とブランシュがすかさず言う。
「二人でって事だから、ブランシュはここで待っていてください。あそこのバルコニーで話して来ますから。」
私は舞踏会における密会の鉄板エリアであるバルコニーを指差した。
「駄目よ!私はアンジュを守るようセブラン様に命令されているの。」
「別に彼女は危険な人じゃないですから。」
これはシンシアがどうのという問題ではなく、私の残機数の問題だ。
私は安寿だった頃、格闘技マニアだったお姉ちゃんにいろいろ技を仕込まれたのだ。お姉ちゃんと二人、列車内で痴漢行為を働いた痴れ者にカラリパヤットの技をかけ制圧し、警察から表彰状をもらった事もある。華奢な貴婦人であるシンシアが少しくらい暴れても、問題は何も無い。
それよりブランシュがずーっと私に張り付いている方がストレスで残機数が目減りするのだ。
私とシンシアは二人でバルコニーに移動した。
「お願い。許すと言って欲しいの!」
開口一番そう言われた。
『羽毛は全部集め終わったんですか?』
と言いたくなったがそれは言わずに
「それはお祖母様やお兄様を交えて話し合いましょう。」
と返事した。
「あなたが『許す』と言えば伯母様は納得するわ!」
「ならお兄様だけ呼んで来ます。少し待っていてください。」
「ジュストはどうでもいいでしょ!」
「どういう意味ですか?」
と私は聞いた。
「ギィはデルフィーヌと再婚する気はないんでしょ。ジュストの事だって息子と認めていないという意味だわ。そもそもデルフィーヌがジュストの存在をギィに隠していたのは、ジュストがギィの本当の息子ではないからではないの。そうみんな噂しているわよ。」
私はため息をついた。
「そういう無責任な噂話に花を咲かせたり言い広めたりするから、お祖母様やお兄様の怒りを買ったんでしょう。まるで反省をしていないんですね。もう結構です。」
「待ってちょうだい。アンジュさん!」
「アンジュ!」
と言いつつバルコニーに人が入って来た。お兄様とリュッカだった。
「シンシア殿、何をしているのです?」
と言ってお兄様が私からシンシアを引っぺがす。
「この事を父上やお祖母様は知っているのか?」
お兄様がそう言うと、シンシアは悔しそうな顔をしてうつむいた。
「行こう、アンジュ嬢。」
と言ってリュッカが私の手をとった。
私はお兄様とリュッカと一緒に会場に戻った。
「ところで何で、二人がここにいるんですか⁉︎セブラン殿下はどうしたんですか?」
「ブランシュがジュストを呼びに来たんだ。で、心配した殿下が僕にもついて行くように指示された。殿下にはブランシュがついている。」
「大丈夫か?シンシアに何か危害とか加えられていないか?」
「大丈夫ですよ、お兄様。というか、向こうからブランシュがこっちに走って来てますけど。」
「ジュスト、リュッカ!」
ブランシュが蒼い顔をして言った。
「殿下にまかれた。」




