隣国から使者が来る
王国歴257年。
私は16歳にお兄様は17歳になった。
運命の『あの日』まであと半年だ。
そんな中、王太子セブランの専属護衛騎士が選ばれる事になった。名誉な事だから皆そわそわしているが、過去世の記憶がある私は誰が選ばれるか知っている。
王太子の乳兄弟のリュッカと、騎士団長の息子のお兄様と、そしてリュッカの従妹で騎士団一の美少女のブランシュだ。
はっきり言ってコネと忖度にまみれた人選だが、専属護衛騎士は命を託す相手だ。よっぽど身元がはっきりしていて信頼できる人間でなければ選ばれる事は不可能だろう。
心の中では、違う人が選ばれてほしい。運命が変わってほしい。と思っていたが、結局今世でもお兄様達三人が選ばれた。
それ以来セブラン王子がしょっちゅう騎士団本部に現れるようになった。
そして私が自分の護衛騎士の妹だからだろうか?医局にも顔を出し私にいつも声をかけて来るのだ。正直言って迷惑だっ!
「誰もがなりたくてなりたくてたまらない宮廷医の話を断った子、ってんで王宮内ではアンジュ嬢は有名人なんだよ。」
とリュッカが言った。
「それにまあ、あの伝説の悪女の娘だし。」
「リュッカ。」
と言って兄上がリュッカを睨む。
「いや、だから、つまり隣の大国の王女の娘だろ。アンジュ嬢は。それこそ、社交界に出たら国王陛下の姪達より格上の立場だ。というか、なんで社交界デビューしないの?」
「私はまだ修行中の身です。正式な医師になれるまで勉強に集中したいのです。」
「一生なれなかったらどうすんの?」
とリュッカが聞く。
「「リュッカーっ!」」
とお兄様とブランシュがダブルステレオで怒った。
「縁起でもない事言ってんじゃないわよ!」
「アンジュなら大丈夫だ。次こそは必ず受かるはずだ!」
怒ってくれるのはありがたいが少しうっとおしくもある。
「いや、でも、社交界デビューが遅れたらそれだけ、社交界での影響力に響いてくるし!アンジュ嬢は有力なセブラン殿下の妃候補なんだから。」
そう言われて私は、フランケンシュタイン博士が作り出した化け物みたいになっているナスをボトっと落としてしまった。
「ナスのつぎはぎが落ちたぞ。」
「何で私が王太子の妃候補なんですか、サンテミリオン様!私は爵位も領地も相続する予定はありませんよ‼︎」
「伝統的に騎士団長が退団する時は、爵位と領地が下賜される。それを相続する可能性があるだろ。」
「相続するのはお兄様でしょう!私はしませんよ。」
「庶子のジュストより、母親の身分が鬼高い君の方が相続する可能性は高いじゃないか。」
「・・・・。」
そうなのだ。アレから二年も経つというのに、何故かお父様とデルフィーヌ様は再婚しないのだ。そのせいでお兄様は戸籍上、庶子のままだ。センシティブな話題だし、私が口を出したらアカンと思っていたが、二人が再婚するようなんらかの働きかけをするべきなのかもしれない。私が王太子の婚約者にならずに済むように!
というか、ブランシュとセブラン王子の仲はいったいどうなっているのだろう?と不思議でたまらない。
私が見る限り、今のところ二人の仲が全然進展しているように見えないのだ。
セブラン王子は三人の護衛騎士に平等に接しているし、ブランシュはそれこそ、王子よりもうちのお兄様に好意を持っているっぽいのである。
あの二人は、あと半年の間に突然雷に打たれたように恋に落ちるのだろうか?自分自身が恋をした事が無いので、人がどういう時に恋に落ちるのかさっぱりわからない。
だけど二人がいつかの段階で恋に落ちるのは間違いないのだから、セブラン王子には絶対に関わり合いたくないのだ。
そう思っていたのだが・・・。
「王宮で開かれる舞踏会でセブラン殿下のパートナーになれですってーーーっ!」
光のどけき春の某日。私は伯父様とお祖母様に無理難題を迫られていた。
「どうして、社交界デビューもしていない私が王宮の舞踏会なんぞに行かないといけないんですか⁉︎」
「隣の国から使節団が来るんだ。」
と伯父様は言った。
「使節団のリーダーは国王陛下の弟。つまり君の叔父に当たる。」
私の母親は隣国の王女だったもんな。
「だから、成人年齢を迎えている君をまだ社交界デビューさせていないとバレるのは困るんだ。我が国が君を冷遇していると思われる。」
めちゃくちゃ冷遇されてましたけどね!
と思った。
栄養失調でぶっ倒れた過去があるくらいなのだ。
「わかりました。ど田舎の村のシャーマンくらいアクセサリーをじゃらじゃらつけて舞踏会に来いというなら行ってやろうじゃありませんか!だけどセブラン王子にエスコートされるのは絶対に嫌です!」
「セブラン殿下とは仲良しなのでしょう?」
「仲良くありません。断じて仲良くありません!アリの脳ほども仲良くなんかありません‼︎」
「でもそれなら、誰にエスコートしてもらうの?貴女のお父様もお兄様もその日は王族の警護をするのよ。」
「一人で結構です。エスコートなんぞいりません!」
「アンジュ・・・。」
伯父様が頭を抱えた。
「王室の要請なんだ。アンジュ。君は今の社交界の10代の男女比がどれくらいか知っているか?」
「知りませんよ。」
突然の話題の転換に私はきょとんとした。
「約3対1と言われている。」
「・・・どっちが多いんですか?」
「男だ。」
「へー。」
と言ってみたが、この比率は明らかに異常だ。
どういう自然の摂理かは知らないが、世の中男女比は同じくらいに赤ん坊が生まれてくる。
正確には男の方が少し多いらしいが、新生児の死亡率は女子よりも男子の方がはるかに高い。男の子が幼少期に一定数死ぬので結局男女比はほぼ同じになる。
なので、医療が進歩した社会では男の方が微妙に数が多いらしい。それでも『微妙に』多いくらいだ。3対1という比率は明らかに異常だ。
となると考えられる可能性は一つしかない。人為的に大量の女の子が『間引き』されたのだ。
安寿がいた世界でも、そういう国がたまにあった。子供が一人しか持てないと法で決まっていた国や、男尊女卑が甚だしい国では女の子を妊娠した事がわかると中絶したり、生まれてすぐに捨てたりしていて、結果として異様に男の数が多い社会になってしまっていたのだ。
そんなおぞましい事がこの国で、しかも自分が生まれた頃に起きていたのか、と思うと胸が悪くなった。
「アンジュ。何か不穏な事を想像しているのかもしれないが、君が想像しているような事は起きていない。」
と伯父様が言った。
「『自然』に、そんな比率になったっていうんですか?」
「そうだ。」
「他の世代でも、男性の数の方がそんなに多いんですか?」
「・・いや、他の世代はそんな事はない。10代でも平民は女子の方が多いくらいなんだ。なのに何故か、貴族の10代は男子の方が圧倒的に数が多い。」
不思議な話だが、そういう事も時にはあるのかもしれない。平民は女子が多いというのなら、あぶれた男は平民と結婚すれば良いだろう。
正直この話にどういう意味があるのかわからない。
「10代の男が多いと何か問題があるんですか?」
「我が国では王太子妃になる女性は貴族家の後継者と決まっている。しかし、どこの貴族家も第一子が男で『後継者が女性』の家が無い。王太子妃になれる10代女子がいないんだ。」
そういえば一周目でもそうだった。私以外に王太子妃になれる女性がいなかったので、私が王太子の婚約者に選ばれたのだ。
「なので、セブラン殿下の妃に限り、女性後継者でなくても良いという事になっている。結果として10代女子のほぼ全員が王太子妃の地位を目指して肉食獣のようにセブラン殿下に詰め寄っているんだ。」
それは、他の10代男子には迷惑この上ない話だろう。それでなくても少ない資源を王太子が総取りしているのだ。
「その状況で、誰かを王太子の舞踏会のパートナーに選ぶ事はできない。主賓の姪の君がなるのが一番カドが立たないんだ。」
「私が王太子の婚約者候補と勘違いされたらどうするんですか⁉︎」
「何か問題があるのか?」
問題しかないわ!
「とにかくこの件は王命だ。急いでドレスを仕立ててダンスの練習をしておいてくれ。」
そう言って伯父と祖母は帰って行った。




