二匹目と三匹目の子豚
そして私は騎士団の医局に勉強に行ける事になった。
お父様の娘だという事が広まるとお父様が嫌な気持ちになるかもしれないので、私は貴族だという事だけ周囲に伝えて家名は秘密にしておいた。
ちなみにお兄様もブリクール姓を名乗ってお父様の息子だという事を秘密にしていたが、顔が顔なのでお父様の息子である事が秒でバレた。
医局の責任者はクロード医師という40代の男性医師で、サンタクロースのコスプレをしたら似合いそうな見た目のおじさんだった。
弟子が二人いて二人とも20歳くらい。名前はギョームとカミーユといった。二人共男性だ。カミーユはクロード医師の親戚なのだそうだ。ギョームは、元々騎士だったらしいが足の怪我が原因で騎士を辞めたらしい。それで、その後医者見習いに転職したそうだ。
まるで怪我が原因で、マネージャーに転身する運動部の男子高校生のようだ。
クロード医師は優しそうなおじさんで実際優しかったし、先輩二人も優しかった。ギョームはツンデレ系で、カミーユはほんわか天然系だ。
正直、お父様のあの反対ぶりを見て、騎士団の医局にいる人達は性格に難有り、な人達かと思っていたので拍子抜けしたほどだ。
だけど医局を含め近衞騎士団は、真面目過ぎて融通がきかない堅物のお父様がトップをはっている組織である。
堕落とか虐めとかは勿論、冗談も許されないようなお堅い真面目な組織なのだ。だから、新人虐めとかはあり得ないのだ。仮にそういう奴がいた場合、速攻で淘汰されるのであろう。
だけどやはり品の無い奴はそれなりにいるようで、ある日クロード先生に経理部に書類を届けに行くよう頼まれて廊下を歩いていると、王宮を警邏中の近衞騎士の姿を見かけた。彼らは私の存在に気がついていなくて、ちょうど私の噂話をしている真っ最中だった。
「新しく医局に入って来た女の子可愛いよな。」
「そうだな。胸はつるぺただが顔はなかなかだ。」
このくらいなら別に気にしないし本当の事なので傷つかない。
問題はその後だった。
彼らは、私が貞操観念が低い女かどうかを噂した挙句、ゲラゲラ笑いながら出版禁止用語を連発し始めたのである。
私は蒼ざめた。
何故なら、私は経理部の場所がわからず偶然医局の前を通りかかったお父様に場所を聞いたのだ。そしたらお父様が、間違った場所に書類を持ち込んだら大変な事になるからと言って、自ら案内をかって出てくださったのである。
そう、つまり。今私の真横にお父様がいるのだ。
それに気がつかない騎士達は最後に
「あの子、騎士団幹部の娘って噂だけど誰の娘なんだろう?」
と最悪な事を言い出した。
「第一隊隊長の娘ではないのは確実だな。隊長の娘だったらきっとカバみたいな顔に決まっている。」
「色男なのは第四隊隊長だが、全然似てないしな。」
「第五隊隊長もいい男だぜ。」
「もし、そうだったらやばいだろ。隊長まだ26歳だぜ。あんなでかい娘、何歳の時の子供だよ。」
はっ!と私が気がつくと、お父様がヘビのように音も立てず騎士達の側に寄っていた。
「おまえ達。」
「ひ・・いぃっ!リュミエール団長っ!」
「あの娘は私の娘だ。おまえ達、演習場に戻って100周ランニングをした後、腕立て伏せを一千回だ。」
・・・お父様。そんなにさせたら、横紋筋融解症で死にますよ!
というわけで、私がお父様の娘だという話は騎士団中に広まってしまった。
「団長の娘って事は、君は伝説の悪女のむす・・・。」
カミーユがそう言って、ギョームに口を押さえつけられていた。
それ以来、私は周囲に腫れ物のように扱われるようになった。それが嫌で黙っていたのに!
変わらぬ態度で私と接してくれるのはお兄様だけだ。そのお兄様の方は、すぐに騎士団内に親しい友人が何人もできていた。お兄様すごいわ。コミュ力高いのね。
そんなお兄様の一番の親友になったのは、リュッカ・ド・サンテミリオンだった。
彼の事はよく覚えている。彼は王太子であるセブラン殿下の乳兄弟で、私が過去世で豚に変えてしまった三人の騎士の一人だったのだ。
なので彼を見るたび「すみません、すみません」と言って土下座をしたくなる衝動にかられる。人目があるからやらないけれど。
そして日々は穏やかに過ぎていった。
小さな事件はいろいろあった。
医療系事件としては、採血をする為に腕をゴム紐で縛って注射器を刺して血をとった後、ゴム紐をほどかずに注射針を抜いてしまい、傷口から血が噴水のように噴き出した事だろうか!
アレはマジで焦ったわー。その時採血をした相手がよりにもよってリュッカで、その時ばかりは五体投地で謝罪したよ。リュッカは真っ青な顔をしていたけど一応許してくれた。
日常系事件としては、私が医局に入った翌年新人騎士としてブランシュ・ド・サンテミリオンが入団して来たのだ。
彼女はリュッカの従妹で、セブラン王子が『運命の人』と呼んだ女性だった。つまり三匹目の豚さんである。
過去世でも思ったが、彼女はそりゃあもう美しい女の子だった。可愛いというより綺麗系で、スト値がバカ高い。
これならセブラン王子もふらーっとなるよな。と心から思う。
私だって、会うたび見惚れてしまうもの。騎士団の制服がとてもとても似合っていて、彼女を見ていると禁断の世界に足を踏み入れてしまいそうな気持ちになるほどだ。
彼女に関わるのはあらゆる意味で危険なので、関わらないようにしようと思うのだが、彼女は同い年の私に何故かやたら好意的で懐いてくる。
こちらとしても、用もないのに医局に入り浸られたら「帰ってください」と言えるが、怪我をして医局に来られたら追い返せない。
そして彼女はどうやら、あんなに綺麗なのにドジっ娘のようで、しょっちゅう怪我をして医局にやって来るのだ。
こちらとしては、とほほな気分である。
とにかく、早く医師国家試験を受けて医者になり王都から私はとんずらしたかった。だが私は15歳で受けた医師国家試験に合格できなかった。
筆記試験は満点をとったのだ。
だが実技試験で不合格だった。
実技試験の一つが傷口の縫合だったのだが、縫う対象が『豚足』で、私はそれを見た途端脳貧血を起こしたのである。
今まで傷口の縫合の練習をナスでばかりやっていて、本物の肉でやって来なかった弊害が出た。出たけど、縫う対象が鶏モモ肉とかだったら、水のように冷静な心で縫えたと思うんだ!
いきなり豚足が一本ドーン!と出て来た事に動揺してしまったのだ。悲しすぎる!
次に試験を受けられるのは二年後だ。
お兄様もデルフィーヌ様もお祖母様も、そして何故かブランシュもすっごい慰めてくれたけれど私は悲しかった。
16歳のあの運命の日が再び来る前に医者になって王都を出て行きたかったのだ。
私は別に伯父夫婦の養女ではないし、王太子の婚約者でもないけれど、でも何か運命の修正力みたいな物が働いて、今世で優しくしてくれるお兄様やリュッカやブランシュをまた豚にしてしまったらどうしよう。とそう思って恐ろしくてたまらないのだ。
だけど落ちてしまったものはどうしようもない。
私は騎士団の医局で修行をしながら次の機会を待っていた。
そしてまた時は流れ、私は16歳になった。
人間が闘って勝てる動物は『匹』勝てない動物は『頭』で数えるものらしく、そういう点では豚は『頭』と表記するのが正しいのでしょうが、名作『三匹の子豚』に倣ってこの作品では豚は『匹』と書かせていただいています
プロローグ編終了です
次話より事件編になります
少しずつですが増えていくブクマと評価に感動しています
感謝です!
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これからもアンジュと作者をよろしくお願いします




