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アンジュと白のペンダント  作者: 北村 清
プロローグ アンジュという少女

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13/27

騎士団へ

それからつつがなく、十日の日々が過ぎた。


ルナールは再発もせず、予後も良好で無事抜糸も済んだらしい。

私達家族も喜んだが、伯父夫婦の喜びようはそれ以上だ。

結果として私の元には、伯父夫婦から絶え間ないプレゼント攻撃が加えられるようになった。


お兄様達が屋敷で暮らすようになって以来、私も離れから本館に移動して来たのだが、新しい私の部屋は伯父夫婦からのプレゼントで足の踏み場もないくらいだ。


プレゼントはぬいぐるみに人形に、流行りの詩集にオルゴールにリボンに日傘に扇子にハンカチに、更に数えきれないほどのアクセサリーにと多岐にわたる。

他にもガラスの花瓶やら絵やらタペストリーやら雑貨屋が一軒、開業できるレベルだ。というか、どこぞの雑貨屋で

「店ごと全部頂くわ!」

というのをやったのではあるまいか⁉︎


これでも、ドレスとか帽子とか靴とか手袋とかサイズが違う物を贈られたら何にもならない物は自重したらしい。

私の体のサイズが外部流出したら、いったいどういう事になるのやら。


これ以上もらっても置き場が無いから結構です。と伝えたら

「家を一軒買ってあげよう。」

と言われた。金持ち相手には迂闊な事も言えやしない。


「それだけ、貴女に感謝をしているのですよ。」

と、あれ以来三日に一度くらいの割合で我が家に来るようになったお祖母様がお茶を飲みながら言った。


ちなみにお祖母様がそれだけしょっちゅう来るようになっても、出す茶菓子には困らない。毎日伯父様が大量の菓子を送って来るからだ。

最初は正直嬉しかった。しかし、十日も続くと自分自身と家族と使用人さん達の血糖値が心配になって来る。実際、この十日間で私は確実に太った。


ただお祖母様が今日持って来てくれたプレゼントは割と嬉しい物だ。


伯父に

「他に欲しい物はないかい?」

と言われた私は、最新の医学治験の書かれた医学書と花をリクエストしたのだ。


医学書は本当に欲しかったから。

花は時間が経ったら枯れるので、遠慮なく捨てられるからだ。

正直ビスクドールみたいな場所をとるものはこれ以上いらない。夜中に動き出しそうで怖い。


「アンジュは医学が本当に好きなのね。」

プレゼントされた医学書をすぐに開いて読んでいるととお祖母様にそう言われた。


「はい。私は将来お医者様になりたいのです。」


このセリフはお祖母様から伯父夫婦に伝わった。そして、後日とんでもない所にまで伝わってしまった。


どういう経緯でかはわからないが、王宮に伝わり

「リュミエール侯爵の姪は賢いうえに医者志望だそうだ。だったら、宮廷医にならないか?」

と打診されたのである。



ちなみにこちらの世界、『大学』はあってもそこに『医学部』は無い。

医者になりたい者は、現役の医者の弟子になり、そこで医学を勉強し、二年に一度実施される医師国家試験を受けて合格したら医者になれるのだ。


なので、医者になりたければ必ずどこかの医者の弟子にならないといけない。それで、現役宮廷医の弟子にならないか?とスカウトされてしまったのだ。


冗談っっじゃないっっっ!


私は今世では、王室とも王太子とも関わらないで生きていきたいと思っているのだ!


どうして、プライベートで王太子と親しくなってしまうポジションに自ら就かなくてはならないのか?


王宮で働くなど、絶対にごめんである。


「宮廷医になんかなりたくありません。」

と家族に言うと

「なら、医者になるなどやめたらどうだ。」

とお父様に言われてしまった。


この父親はほんとにアテにならねえっ!


こうなると頼る相手は他にない。

私への感謝と愛情、ダダ流し中の伯父様とお祖母様だ。


私が相談したい事があると手紙を出すと、二人は我が家へすっ飛んで来てくれた。


「私、宮廷医の弟子になんかなりたくありません。」

と私は二人に訴えた。


「どうして?とても名誉な事なんだよ。」

と伯父様。

「体も楽だし、給料もいいのよ。」

とお祖母様。


その代償に、何かあった時は死んで責任をとらないといけないでしょうが!


とは言えないので、私は精一杯可愛く見えるよう体をくねくねさせながら、


「私の夢は騎士団の専属医になる事なんです。」

と、ホラを吹いた。


「騎士団だと?」

お茶を飲んでいたお父様が眉をひそめた。


「はい。私は昔からお父様に憧れていました。そして騎士という職業に憧れていました。ですが、私にはとても騎士になる事はできません。なので、騎士様達をお支えする事ができるよう、騎士団の専属医になりたいのです。」


「駄目だ!」

とお父様は厳しい声で言った。


「騎士達のほとんどが若い男だ。そして頭蓋骨の中身まで筋肉でできているような野蛮な者ばかりだ。そんな連中の中に入って行くなど私は許さん。」

「騎士団には女性騎士もたくさんいるではありませんか?」

「女騎士などいない。メスゴリラが何頭もいるだけだ。」


お父様、そのセリフは令和の日本ではコンプラ違反です!

不適切にもほどがあります!


お父様は私が、脳の奥まで筋肉でできているアホを誘惑して食い散らかすと思っているのだろうか?

まあ、私の母親は騎士好きの猪突猛進、イノシシ女だったけど。


お父様との話し合いは時間の無駄だ。早々に見切りをつけ私は伯父様とお祖母様に頼み込んだ。

「伯父様、お祖母様。お父様を説得してください。」


「でも、騎士団の男達が野蛮で汗くさいのは本当よ。」

お祖母様。騎士団長をしている息子の前でそんな事言って良いのですか?


「医者は意識の無い患者を抱えて運ぶ事もある。筋肉ダルマな騎士を君が抱えるのは無理ではないだろうか?」

と伯父様も言う。


「それでも私は絶対、騎士団の専属医になりたいのです!」


嘘である。宮廷医以外ならどこでも良い。だが、今現状コネで入れそうな場所は騎士団くらいしかないのだ。

リュミエール侯爵家の主治医も、ルナールの一件で解雇されたらしいし。


「ギィ、入れてやりなさい。」

「ギィ、アンジュを入れてあげるのよ。これは命令よ。」

伯父様とお祖母様がたたみかけてくれた。やったね!


こうして私は騎士団の医局で研修を受ける事ができるようになった。医者にさえなってしまったらこっちのものだ。『国境無き医師団』的なところに所属して、家から独立して生きていくのだ。


と思っていたが、一つ想定外な事が起こった。


お兄様が私を守る為、騎士団に入ると言い出したのだ。


「反対です。絶対反対です。優しくて清潔感のあるお兄様が、野蛮で汗臭いという騎士団に入るだなんて!」

私は転げ回って反対したが、お兄様の決意は変わらなかった。私が騎士団の医局に入るのをやめない限り自分も絶対騎士団に入るというのだ。


王宮勤務の近衞騎士団に入団試験は無い。『然るべき人の推薦』さえあったら入団できる。そしてお兄様の推薦はお父様がする。だから落ちるわけがない。


破滅フラグが一本高々と上がってしまった。


私はとほほ、と肩を落とした。



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