風に舞う羽毛のように
「貴女の母親が亡くなった後、雇い入れた使用人達から私は貴女の情報を聞いていたの。」
「・・そうですか。」
「使用人達は口を揃えて、貴女の事を我儘で扱いにくい子だと言っていたわ。」
あの連中・・・。
さすがにムッとした。私の横でお兄様はなんか殺気だっている。
「そして、つい先日使用人が全員解雇されたでしょう。シンシアを通じて使用人達の話を聞いてみたら、貴女が癇癪を起こして全員追い出された。って。だから、私貴女に我儘を控えるように。と今日忠告をするつもりでいたの。」
「そんなの、全部嘘です!奴らの方がアンジュを虐待していたんです。」
とお兄様が叫んだ。
「食事もろくに与えずに離れに押し込めて。父上がアンジュの為にと預けていたお金も横領していたんです。それなのに、そんな嘘を吹聴するなんて!父上!お金を返せば監獄行きは勘弁してやる。と言ったけれど、あいつら今からでも監獄に放り込んでやるべきです!」
「そうだな。」
とお父様はひっくい声で言った。
いや、私は『シンシアを通じて』っていうフレーズが気になるけれど。この女が嘘を捏造したのかもしれなじゃない。で、その罪を使用人になすりつけているのかも。
「でも、今日貴女に会って、貴女はそんな子ではないと思ったわ。貴女は挑発されても冷静に対応ができる礼儀正しい子供だった。言うべき事をはっきりと言う性格が高圧的に見えるのかもしれないけれど、人に理不尽を押し付ける性格ではないわ。貴女に会って、問題があるのは貴女ではなく解雇された使用人達の方だと気づいたの。今更だけど申し訳ない事をしたわ。」
「いえ、そんな・・・。」
「シンシア。貴女もアンジュに謝りなさい。」
とお祖母様は固い声で言った。
「貴女が私を含め、今日のお茶会に来ていた人皆に言ったのよ。アンジュは我儘で扱いにくい子供だと。今日の招待客達は貴女の言葉を信じてアンジュを攻撃的に扱ったわ。シンシア。アンジュに謝罪しなさい。」
「ごめんなさいね、アンジュさん。」
シンシアは猫撫で声で言った。
「本当にごめんなさい。でも、私も騙されていたのよ。許して欲しいわ。」
・・・・。
本音を言えば許したくなんてなかった。
この女には過去世でもかなりいびられたし、いろいろ悪評をばら撒かれたのだ。
過去に私がお祖母様に嫌われていたのも、この女が一枚かんでいたのでは?という気がする。
でも、一応謝っているのだし、お父様もお祖母様も見てるし「許さない!」って言ったら『我儘で扱いにくい子供』って事になるよね。
ここは私が大人になるしかないか。
そう思って
「わかりました。」
と言おうとした途端
「許せるわけないだろう。ふざけるな!」
と大声が響き渡った。
お兄様だった。
「あんたが雇った使用人のせいでアンジュは死にかけたんだ!その謝罪も償いもせずにアンジュの悪口を言いふらすなんてあんた性格悪過ぎだろ。謝って済むなら司法省はいらないんだ。アンジュがどれだけ苦しい思いをしたと思っている!」
そう言ってお兄様はポケットからナイフを取り出した。え⁉︎ナイフを標準装備しているの?
突然のナイフの登場にその場にいた全員が蒼ざめる。お兄様は、ソファーの上にあった羽毛クッションをつかみ、ザクっとナイフを突き立てた。そして窓辺に寄って破れたクッションを上下に振った。大量の羽毛が開いた窓から風に乗って外へと飛んで行く。
「悪意のある噂話はこの羽毛と同じだ。どこまでも広がって行って信じられないほど遠くに伝わって行く。この羽毛を一枚残らず拾って来い。そうすれば無責任な噂を流した事を許してやる。それが終わるまで二度とアンジュの前に顔を出すな!」
「ジュストが正しい。」
とお父様が言った。
「ジュストが言った事ができるまで二度と私の前にもアンジュの前にも現れないでくれ。君はそれだけの事をした。」
「そんな、ギィ!」
と言ってシンシアがお父様にすがりつく。だが、お父様はその手を振り払った。
「仕方ないわね。シンシア。貴女はアンジュやジュストの許しを得るまで本邸にも出入りを禁止します。」
とお祖母様が言った。シンシアはへなへなと倒れ込んだ。
でも、正直言って私は嬉しかった。
シンシアを許したくなかった。お兄様が私の為に怒ってくれた事も、お父様やお祖母様が私の味方をしてくれた事も嬉しかった。
私は首から下げたペンダントを触った。友人のゆかりが、フリマで売っていたペンダントだ。
お兄様、私絶対絶対今世ではお兄様を幸せにしてみせるから。そう心から思った。
お祖母様が同伴していた使用人達に命じて、シンシアを部屋から連れ出した。
「待って、ギィ。話を聞いて!」
と連れ出される間ずっとシンシアは叫んでいた。
お兄様が舌打ちをした。
「何で父上なんだよ!話し合うべき相手はアンジュだろう。」
「私も帰るわ。」
とお祖母様が言った。
「アンジュ、いつでも私の所に遊びに来なさい。貴女に招待状は不要よ。いつ来てくれても構わないわ。」
それはそれで逆に訪問しにくいのだけれど・・・。
「いやー、でも私、本邸の侍女長さんに嫌われているみたいだし。」
「彼女はクビにしました。」
「えっ⁉︎」
「貴女ではなく彼女の言葉に従っていたら、ルナールの命はなかったのです。デビュタントもまだの子供に知識でも洞察力でも劣る人間を侍女長の地位に据えておく事はできません。だから、気にせずいつでもいらっしゃい。」
「・・わかりました。」
と、とりあえず言うしかない。
だけどまあ、まだ予断は許さないみたいだけれど。
ルナールが無事手術を受けられて良かったと思った。




