7.うちはヒロインが頼りに来るような薬屋ではないはず
テキパキと朝ごはんの準備をしていると、戸が開き、イレイナが出てきた。
「…おはよ」
「はい、おはようございます」
なぜこんなことになっているのかぁ!
いや、自分から誘ったのだが。
「おはようにゃ!イレイナ!」
「…ん」
すでに起きていたミャンが一階から上がってきた。店舗部分の軽い掃除を頼んでいたのだ。
ゲーム内のヒロインは、当然、最初に仲良くなって終わりというわけではなく、親愛度を上げると第二イベント、第三イベントと順に発生していく。
イレイナの第二イベントがまさにあの「家、なくなった」だ。
何らかの理由で住んでいた場所を失ったイレイナが、主人公を頼りに来るのだ。
そしてこのイベント以降は、サブクエストで確定でイレイナを同行させられるようになる。
他の仲間キャラは一定確率で選択できないことがあるのに。
こういうイベントが用意されているヒロインは、『メインヒロイン枠』などとファンから呼ばれていて、評価も高い。
「いただきますにゃ!」
「いただきます」
「きゅー!」
そしてなぜかそんなメインヒロイン級が目の前に二人いる。なぜこうなったのか。
しかし、あんな顔で頼られては助けないわけにはいかない。
なんで俺なのかはわからないが、イレイナというヒロインは困ると勇者に頼りがち。だから、誰かを信頼すると素直に頼るタイプなのだろう。
なのに俺のところに来るということは…。
きっとまだ勇者との親愛度が上がってないんだな!
…そうだよね?
というか意外と毛玉は大食いか!あんまりでかくないのに!
そんなこんなで開店してのんびりしていると一人の女性が花を持って訪れた。
…花瓶ごと。
「おはようございますぅ、ロイくん」
「いらっしゃいませにゃ!」
「あらぁ?可愛い猫ちゃんねぇ」
「…『濁流』」
「あらあら?」
入ってきたのは近所の花屋の店主、ラライネだ。普通に彼女もゲームのヒロインである。最初に会ったときはびっくりしたもんだ。
しかもこの人は元冒険者で、『濁流』などと呼ばれていた魔法使い…のはずだ。
なぜか装備可能武器に斧や棍棒が含まれているのである。普通に近接攻撃力が高い。
謎めいたお姉さんだ。
「ロイくん、いつの間にこんなに女の子と仲良くなったのかしらぁ、隅に置けないわねぇ」
「隅に…いや、そういうことではないですよ」
この人は、こうやって知り合いのところに花を定期的に持ってきてくれるのだ。うちに飾ってある花は、すべてラライネの店のものだ。こちらからもお返しに、常備薬の提供などをしている。
「ロイくんは、とっても優しいからぁ、いつかこうなると思っていたわぁ」
そう言ってニコニコしているが、どういうことだ。俺は普通の薬屋だぞ。
「…あのとき、ありがと」
「あのとき?」
「ここ、教えてくれた」
「あぁ、猫ちゃんがケガをしていたときねぇ。いいのよぉ」
はい???
「にゃ?猫ちゃん?」
「ケガをした野良猫を抱えて困ってたからぁ、ロイくんのところを紹介してあげたのよぉ」
「…そう」
なん、だと…?
なんだ?つまりイレイナがあのときうちに来たのは勇者にスルーされて仕方なくではなく、ラライネさんがうちを紹介したからなのか?マジ???
今ここに明かされる衝撃の真実である。
「ロイくん?どうかしたのぉ?」
「いえ、世界の不確定変数について考えていました」
「ふかくてい…なんにゃ?それ?」
「…悩み事?」
「ふふっ、ロイくんってぇ、たまに考え事で忙しくなってるのよねぇ」
平民向けの薬屋などうち以外にもある。
もし、俺がラライネさんと知り合っていなければ、イレイナがケガをした猫を連れていく先はうちではなかったかもしれない。
それに薬屋ならどこでも動物を診られるわけではない。
俺は師匠から仕込まれたから診られるが…。
なるほど、まさかラライネさんが紹介してくれていたとは。
「かんがえてるにゃ!」
「…かんがえてる」
「お茶でも淹れましょうか。良い茶葉を持ってきたのよぉ」
いや、でも…。
うちは普通の薬屋のはず。
薬屋 ロイ 考えている
召喚術師 イレイナ 新住人
獣人奴隷 ミャン ふかくてい?
花屋 ラライネ あら~
召喚獣 毛玉 大食い発覚
勇者 カイン 親愛度上げサボり疑惑という風評被害




