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8.うちは受付嬢が依頼を持ってくるような薬屋ではないはず

「あの聞いていいですか?」

「…?」


 昼過ぎ、イレイナが細剣の手入れをしていた。荷物の一つにあったのだ。

最初に見た時はびっくりした。ゲーム内の彼女は武器など使わず、召喚獣だけで戦っていたからだ。


「それ綺麗ですけど普段から使っているのですか?」

「つかってない」


使ってないらしい。


「たまに」

「なるほど」


 たまに、ということは恐らく、不意に懐へ入られたとき用か。そう考えれば持っていてもおかしくはない。


「油、塗り替える」

「ほうほう」


 イレイナが細剣を光にかざし眺めてから布で磨きだした。それにしてもこういう姿を見るとイレイナも冒険者なんだと実感する。最近はめっきりギルドに行かず、薬屋を手伝ってくれているが。


「…」

「…」


 イレイナのそばで、じっと手入れの様子を見ていると、なぜかイレイナの顔が少し、ほんの少しだが赤らんでいることに気が付く。


「…」

「…」


 風邪?熱か?いや、様子を見る限りけだるそうな様子はない。


「…」

「…ふむ」


 しかし、こんなに小さく可愛らしいイレイナでも冒険者だ。

普通の人間より体力もある。多少の体調不良なら、表に出にくい可能性もあるか?

この世界に転生して何年も経つが、前世の記憶が足を引っ張ることがたまにある。あまり自分の常識に囚われるのはよくない。


「…っ」

「うーん」


 いくら医療技術が現代日本に遠く及ばないとしても思い込みは患者の命に関わるかもしれない。

おや?イレイナの顔がさらに赤らんでいるような?


「ロイ様ー!」

「はい!」


 おっと仕事に戻らなければ。イレイナには後から聞いてみよう。


「…すぅ…はぁ…」


 数日後の朝、ラライネと、もう一人の女性がやってきた。

真面目そうだが、とっつきやすそうな雰囲気の女性。冒険者ギルドの制服を着ている。


「おはようございます。朝早くごめんなさい。私は冒険者ギルドで依頼斡旋の受付を担当しておりますハンナと申します。あなたがロイさんですね?」

「えぇ、俺がロイです」


 ハンナ、ゲーム内ではなぜか加入フラグが回避できないヒロインだ。理由は一つ。レベル上げや所持金稼ぎのためにサブクエストを受けていると勝手に親愛度が上がるからだ。コマンドRPGでレベル上げ&金稼ぎ縛りは普通に不可能である。

その人がなんでラライネさんに連れられてうちに来てるの???


「その、実は折り入って相談がありまして…」


 ハンナが、薬屋の棚に商品を並べているイレイナを見る。


「実はいくつかイレイナさんへの指名依頼が入っていまして…」

「あ、な、なるほど」


 うちにイレイナが住み始めてから、薬屋を離れるのは、お買い物か薬草の採取に行ってくれる時くらいで、冒険者ギルドに行っていないのだろう。イレイナは自分の用事で出かけるときは必ず行き先を言う。間違いなく冒険者ギルドには行ってない。


「こちらとしても指名依頼は受けていただけると助かるのですが…」


 そんな話をしていると、イレイナがこっちに来た。そして冒険者カードをハンナに差し出した。


「かえす」

「え!?」

「にゃ?」

「あらぁ?」

「私、薬屋」


 プロポーズ!?


 いや、そんなわけない、落ち着こう。


「ちょっと待ってくださいイレイナさん。その、返すのはもったいないのでは?」


 イレイナのカードを見ると銀色、つまりシルバーランクだ。確かこの世界では中堅上位ぐらい。それもイレイナはソロでシルバーだから大したものだろう。


「…もう使わない、ここにいる」


 なに!?もう嫁だった!?


 いや、だから落ち着こう。


「なんでロイ様自分のほっぺつねってるにゃ?」

「気にしないでください」

「?」

「ふふっ」

「あ、あの?」


 おっと、ハンナが置いてけぼりだ。


「イレイナさん、俺としても冒険者でいてくれた方が助かります」

「そう」


 理由も聞かずにカードをしまってくれた。

うちは薬屋だからあまりないが、ごくまれに客に舐められる時があるので、そういう時に、冒険者カードで実力を証明できる人がいると助かる。

それに、採取を頼む時も、冒険者として動いてくれた方が何かと楽かもしれない。


「それで指名依頼の方は…」

「…」

「受けてもいいのでは?うちにずっといなくても大丈夫ですよ」

「…ここなくならない?」


 そうか、イレイナは先日家が唐突になくなった人だ。イレイナの稼ぎなら新しく住む場所を借りる金には困らないだろうが、ショックだよな。


「大丈夫です。今はミャンもいますし」

「ミャン、やれと言われればやる女にゃ!」


 いや、一応奴隷なんだからそれはそうだろうと突っ込んでいいところか?俺は奴隷扱いするつもりはないけど。


「わかった」

「じゃあ受けていただけるのですね!」

「たまに」

「では、ここに持ってきたらいいですか?」


 え?


「おねがい」

「わかりました!ありがとうございます。ロイさん」

「え、あ、はい」

「よかったわねぇ、ハンナちゃん」

「はい…ラライネさんにイレイナさんのいる場所教えていただいて助かりました…」


 え?え?


 翌日から、なぜかうちにイレイナ指名の依頼ボードが設置された。

当然、定期的にハンナさんも来るようになった。


「あ、そういえばイレイナさん体調は大丈夫ですか?」

「?」

「いえ、先日顔が赤か――」

「大丈夫」

「そ、そうですか」


 なんかすごい勢いで否定された。

なんだったのだろうか。


 しかしうちに加入フラグ回避不能キャラまできたか…。


 どうなってるんだ…。


 うちは普通の薬屋のはず。

薬屋   ロイ   風邪?

召喚術師 イレイナ ちがう

獣人奴隷 ミャン  やれと言われればやる女

花屋   ラライネ 縁を繋いだ

ギルド  ハンナ  実は苦労人

勇者   カイン  加入フラグ回避不能を突破

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