9.うちは謎の薬が出てくるような薬屋ではないはず
「本当ですか?」
「ああ、前回と同じ貴族から報告を受けた。西の山に生息していたヘルフレイムライガーが勇者殿によって討伐された」
「あらまぁ」
「…すごい?」
「すごいなんてものではありません!ヘルフレイムライガーは近づくことすら危険なモンスターです。それをまたしても勇者様が倒してしまうなんて…」
「勇者は強いにゃ?」
「短期間に大型モンスター二体も討伐したのだ。実力は確かだろう」
目の前に仲間キャラとして優秀な召喚術師、獣人斥候、重騎士、水術師、魔法剣士が何か言っているな。
普通ならここにいるメンツから二人と氷術師のルミナを連れて倒しに行くボスモンスターだ。普通に戦うと確かに強力だが、ルミナは強力なカウンターとなる。
おそらくちゃんと勇者とルミナは仲直りしたに違いない。
いや、だとしてもルミナと二人ならなんとかなるの…か?
「アルリアさん、こちら注文いただいていたものです」
ヘルフレイムライガーの被害は周囲にも及んでおり、アルリア率いる第二部隊もケガをした団員が多くいるらしい。うちにも、なかなかの数の薬の注文があった。
さっきも適当に自分で包帯を巻いていたアルリアさんの処置をし直したところだ。
「うむ確かに」
「あれ、ロイさんそういうもの引き受けているのですか?」
「いや、なんでもかんでも受けていると手が足りなくなるので、知り合いだけです。それにこういう大口の注文は普段より少し上乗せしてもらってますから」
個人経営の薬屋で無差別に大口顧客なんて抱えたらパンクするに決まっている。普通はやらないだろう。
「とはいっても今流通しているポーションより店長殿の薬の方が安い。というか明らかに値段を釣り上げられている。緊急性が無ければ通常の薬で十分だ」
できた薬をアルリアが引いてきてくれた荷車に積み込む。
「じゃあ、ミャン、イレイナさん、一緒にそれ運んできてもらえますか」
「かしこまりにゃ!」
「わかった」
「む、伝え忘れるところだった。店長殿」
「はい?」
「技師に連絡が付いた。もうすぐミャンの魔封じの首輪が外せる」
ミャンが耳をピクッとさせる。
「お!本当ですか!ありがとうございます」
「…はずせるって」
「…」
ミャンは首の重たそうな魔封じの首輪を触っている。
「あ、ありがと…」
「いえ、重そうですし、そんなものはもう不要ですから」
「そっか…」
子供のころから虐げられて生きてきた彼女には、思うところがあるのだろう。
二人が配達に出て、店内の花を替えてくれたラライネと、一緒に来ていたハンナも帰った後、雨が降り始めた。
「雨…」
そういえば最近雨も少なかったような。ヘルフレイムライガーの影響だろうか。
「ロイ様っ!」
「ロイ!」
「おかえりなさ――」
雨に濡れている二人が、誰かを両脇から抱えるようにして駆け込んできた。
魔眼から血を流している、ルミナを。
「早く診察台へ!!!」
急いで店の札を『急患対応中』に変更する。
どういうことだ。ヘルフレイムライガーを倒したのであれば、ルミナは勇者と一緒にいるはずじゃないのか?
「ぐぅ!あぁぁ!あ゛ーーー!!!」
「ど、どうするにゃ!?」
「…ロイ」
鎮痛剤を投与?いや、これまでルミナはうちの鎮痛剤を使ってたんだぞ。効き目が弱いものとはいえ、強いものに変えたところで、少しの間楽になる程度だ。
「睡眠薬を…」
いや待て、あるじゃないか。キーアイテム『魔属性抑制剤』が。
でもあんなの使う素材が分かっていたから、好奇心で試しに調合してみた薬だ。本当に効くかどうかも分からない薬を、患者に使うのか?
「いたいいたいいたいっ!」
「ロイ様…?」
「二人とも、ルミナさんが動かないように身体を押さえてください。点眼します!」
これ以外に治療法がない!今は自分を信じるしかない!
鍵付きの引き出しから作った抑制剤を取り出す。
「落ち着くにゃ!今薬が来るにゃ!」
「ぐぅぅぅ!」
「大丈夫、大丈夫」
ルミナさんの瞼を無理やりこじ開けて抑制剤を垂らす。
「ああああああああっっっっっっ!!!!!!」
失敗か!?――そう思った瞬間、ルミナさんの身体の力が抜けていく。
「だ、大丈夫かにゃ?」
「…」
「はぁはぁ…い、痛みが引いて…え?ここは…」
ようやくルミナがこちらを見た。
勘弁してくれ。
なんで俺は、効くかも分からない薬を患者に使うなんて…こんな緊張感あることしているんだ。
うちは普通の薬屋のはず。
薬屋 ロイ 俺は普通です
召喚術師 イレイナ お使いでヒロイン連れてきた
氷術師 ルミナ 勇者と一緒にいません
獣人奴隷 ミャン 複雑な気持ち
王国騎士 アルリア 雑応急手当
花屋 ラライネ 普通にお茶しに来ただけ
ギルド ハンナ たまたま居合わせた
勇者 カイン 強固な縛りプレイ疑惑




