EX1.勇者はひとりでは剣を振るえない
※5話、うちはヒロイン達のたまり場になるような薬屋ではないはずに一部欠けている部分がありましたので、追記しました。聖剣エンゲージカリバーについて、アルリアから勇者がルナティックキメラを倒したと聞いたあたりで説明をしています。是非一読ください。
―By the Hero's Side―
「これで、とどめ、だぁぁぁぁぁっ!」
聖剣エンゲージカリバーから放たれた光の刃が、複数の獣の頭を持つ異形の体内にある魔石コアを打ち砕く。
目から光を失った異形の獣が、ドサリと音を立てて倒れた。
「はぁ…はぁ…」
勇者カインは油断せず聖剣を構える。
そして少し静かな時が流れて誰かが「やった…!」と声を上げた時、カインは聖剣を下ろした。
カインの背後にある村の住人たちが訪れた平和に感謝して歓声を上げた。
それを見た安心したカインは、膝をつく。
「カイン様!」
傷だらけのカインの元へ一人の令嬢が走り寄る。
「あぁ、シーシャ。なんとかなってよかったよ」
カインはにこりとシーシャに笑いかけるが、その笑顔ですら傷で引きつっている。
「しかし、カイン様のお体がっ!」
並の冒険者でも避けていた異形の獣、ルナティックキメラ。
カインとて慢心で挑んだわけではない。
別の依頼でシーシャと共に、王都ハーヴェインから東の村へ向かっていたところ、ルナティックキメラが村へ近づきすぎていることに気づいたのだ。
このまま冒険者ギルドや騎士団を呼びに戻ったら村が壊滅する恐れがあると判断したカインは、たった一人で強大な敵に立ち向かった。
「皆を救えてよかったよ」
笑うカインにシーシャの胸に、悔しさが込み上げた。
(私は何もないっ!また傷ついてるカイン様を見ているだけ!)
シーシャ・アルバート子爵令嬢は、違法な金貸しを行った商人のもとへ嫁がされかけたところを、勇者カインに救ってもらったのだ。それまではたまたま何回か話しただけの関係だったにもかかわらず、カインは聖剣を振るってくれた。
それからというものシーシャはカインに想いを寄せているのだが、彼は『勇者』たらんと危険に踏み込んでしまう。
だがシーシャはただの子爵令嬢、武芸や魔法に長けているわけでもない。
仮に治癒の心得でもあれば、ここでカインにしてあげられることがあったかもしれない。
シーシャは安全なところからカインを見守ることしかできなかった。
「勇者様、ぜひ我が家で休んでいってくだされ!これ、おまえら!勇者様に肩を貸してさしあげろ!」
村の方から村長が駆け寄り、そう言ってきた。村長の指示を受け、すぐに二人の青年がカインへ近寄り、肩を貸した。
(何をしているのシーシャ!あなたは子爵令嬢、貴族でしょ!)
己への失望を、頭を振って追い払うと、シーシャはすぐに動き出した。
村長と連携して関係各位に連絡しなければならない。
勇者カインの功績を確かなものにしなければいけないのだ。
「お父様にも動いてもらいましょう、屋敷にカイン様を休ませる部屋を用意していただかなければいけないわね」
社交界における勇者カインの扱いは、良いとは言えない。
どこぞの田舎出身の平民、両親に何か特別な逸話があるわけでもない。生まれながらに聖剣を宿していなければ普通の青年だった彼を、貴族たちは陛下の前では手をたたいて祝福したが、その笑顔の下ではどんなことを思っているか、シーシャは感じていた。
「カイン様の横に立てないのであればせめて剣を向けられない敵に私が立ち向かいましょう」
勇者ともなれば、本来なら貴族とって喉から手が出るほど欲しい縁のはずだ。
その生まれ故にカインは貴族から少し腕の立つ平民程度の扱いしか受けておらず、彼の後ろ盾となる家はなかった。
シーシャは奔走した。一応、冒険者登録しているカインの冒険者カードを借り、ギルドマスターに話を通し、騎士団にも話を持って行った。
「なに?勇者様がお一人で倒されたと?」
男性の騎士は一応こちらが貴族令嬢と知ると紳士的に話の場を設けたが話の内容については、「疑っています」と顔にありありと書いてあった。
「私の報告を疑うと?」
「いえいえ、そういうわけではございません。なにぶんアレは騎士団でも一人で倒せる者はごくわずかと言えましょう。少々驚いてしまっただけです」
「現場にはまだモンスターの遺体が残っております!確認していただければわかります!」
「ふーむ…」
進まない話にシーシャは苛立ち始めていると、一人の女騎士が部屋に入ってきた。
「話の途中に失礼する」
女騎士は騎士としてシーシャに礼をする。
「王国騎士第二部隊隊長アルリア・ウォードと申します。アルバート嬢、突然の入室、申し訳ありません。どうやらこちらの騎士では手に余るご様子でしたので、何かお力になれることがないかと失礼ながらお邪魔させていただきました」
話を聞いていた騎士はアルリアを睨んでいるが、当の本人は涼しい顔をしている。
「いえ、お気遣い、ありがとう存じます」
「アルリア隊長!この話は第三の管轄であり!」
「ほう、管轄、か。冒険者ギルドから色々聞いているが?」
「チッ…」
小声で「王女のお守り集団が」と言ったような気がしたがアルリアは無視をする。
「君は忙しいだろう?だから私が引き継ぐと言っているのだ。早く仕事に戻ると良い」
男性の騎士はシーシャに丁寧に挨拶をすると、退出していった。
「すまない、情けないところをお見せした。淑女に礼を尽くせぬ騎士など恥もいいところだ」
「いえ、その代わりにあなたが話を聞いてくださるのでしょう?」
「ああ、もちろんだ」
シーシャの尽力でこの件は勇者の功績の一つとして正しく世に広まった。
しかし未だに勇者への評価はあまり変わらない。
命知らずの平民。
蛮勇。
倒したモンスターもズタボロで素材になりはしない。
魔石コアも砕いてしまい、突然出現したモンスターの正体もわからず。
それでも、一人の少女が勇者を支えていた。
聖剣エンゲージカリバーの宝玉がキラリと光る。
勇者 カイン ズタボロ
子爵令嬢 シーシャ 頑張る
王国騎士 アルリア 仕事奪った
村の住人 村長 やべ、勇者様へのお礼どうしよ




