4.うちは美少女猫獣人の主人になるような薬屋ではないはず
目前の猫獣人、ミャンはがつがつとご飯を食べている。すさまじい食べっぷりだ。
「こんなにたくさん食べたのはひさしぶりにゃぁ」
とたいそう幸せそうな顔をしていらっしゃる。尻尾もご機嫌そうに揺れている。
突然現れた奴隷の猫獣人ミャンに食べ物をねだられるイベントはミャンの加入フラグだ。
魔法を行使できる獣人は非常に少なく、気味悪がられる。
ミャンもそんな獣人の一人で、親からある日見捨てられ、奴隷として生きることになる。
ゲーム内では、とある盗賊の一味を捕まえる任意依頼を達成すると、ミャンに馬乗りされるイベントが発生するはず。
…つまり、勇者はちゃんと活動しているはずなのだが…?
「…まだたべてる」
お、迷子犬の達成報告をしたイレイナが薬屋に帰ってきた。
いや、薬屋に帰ってきたという表現はおかしくないか?イレイナが帰る先は勇者の傍か自分の貸部屋だ。
「邪魔するぞ店長殿」
アルリアも来た。薬屋にミャンを連れてくる前に迷子犬の件のお礼と、ミャンについて確認を取ってもらっていたのだ。
「店長殿の懸念通り、ミャンは野良奴隷だ」
野良奴隷。正式な手続きなしに所有者を失った奴隷のことである。おそらくミャンが働かされているうちに、勇者が拠点に乗り込んで盗賊である主人を捕らえてしまったが故だろう。
「王国法に則り、発見報告をした店長殿に所有権が移動することとなる」
まぁそうなるよな。本当は勇者のヒロインなのに…。
「にゃ?あなたが新しいご主人様にゃ?」
ミャンはこちらを向き、耳をピコピコと揺らして無邪気な目でこちらを見ている。
…ように見せている。
彼女の心の闇は深い。自らをアホに偽り、決して誰も信用せず、いつか来る自由の日を虎視眈々と待ち続ける。
「そうなる。店長殿、悪いが、魔封じの首輪については、現在手が空いている技師がいないのだ。解除は先の話になる」
「いえ、ありがとうございます」
ミャンの魔封じの首輪解除イベントを発生させると、お得意の風魔法を使い、ゲーム内でもぶっちぎりのスピードアタッカーっぷりを発揮してくれる。
それだけではなく、あんなものをいつまでも首にぶら下げているのは嫌だろうと思ったのだ。
その話を聞いていたミャンはぽかんとこちらを見ていた。ゲーム内でも勇者が外そうとしたときに同じ表情をしていた。
魔封じの首輪はあくまでも自分の意志では魔法が使えなくなるだけで、主の指示に従う形なら魔法が使えるので、外す意味が分からないと思っているのだろう。
さて、ミャンと彼女に刻まれた奴隷紋を通じて契約を更新しなければならないのだが…。
「ここにゃ」
と、ズボンをペロンとギリギリまで下ろすと下腹部に紋が刻まれていた。
イレイナはびっくりして見ている。アルリアはさすが騎士、こういうことに慣れているのか淡々と準備を…あ、資料落とした。慣れていなかった。
「こほん。では店長殿、奴隷紋へ魔力を流し込むように。それから針で少し指先を切り、こちらの契約書にミャンとキミの血判を押せば所有者が上書きされる」
ミャンは本来勇者の仲間となるヒロインだ。自分が所有者になるのはよくないと思ったが、奴隷紋の解除は…高いのだ…庶民にそんな金は払えない。
「これからよろしくお願いしますにゃ!ご主人様!できれば痛いことはしないで、ご飯をたくさんくれると嬉しいにゃ…」
「えー、できればご主人様呼びはやめていただいて…」
「わかったにゃ!…じゃあ何て呼ぶにゃ?」
「俺はロイと言います。なので普通に名前で」
「わかったにゃ!ロイ様!」
うん、この会話もゲームで聞き覚えがあるなぁ。なんでこの会話が俺なんかの前で…。
「ところでミャンはなにをすればいいにゃ?」
「ここは薬屋なので、お手伝いですかね」
「怪しい薬でも作るのかにゃ?」
「真っ当な薬です!」
「気持ちよくなるやつとかにゃ?」
「…ロイ、危ない薬屋?」
「なに?店長殿危ないのか?」
「普通の薬屋です!!!」
うちは近所のおじいちゃんやおばあちゃん、子供にまで安心して使ってもらえる、普通の薬を売る、普通の人間が営業している、普通の薬屋だ。
まぁ目の前にゲームのヒロインが三人いるが。
普通の薬屋のはず。
はず。
薬屋 ロイ 普通の薬屋
召喚術師 イレイナ 薬屋に帰ってきた
獣人奴隷 ミャン ご飯美味いにゃ!
王国騎士 アルリア 慣れてなかった




