3.うちは道端でイベントを拾うような薬屋ではないはず
町の中で何やら紙を持って、通行人をちらちらと見ては話しかけられずにうつむくイレイナがいた。
おい勇者、今こそイレイナとの出会いイベントリベンジでは?と思うが、そんな都合よく勇者は通りかからないようだ。
勇者は今どこで何をしているのだ?と考えていると、少し遠くにいるにもかかわらずイレイナと目が合った。
「ロイっ」
と縋りつくような目を向けてこちらにやってくる。
はい、可愛い。俺死んだ。
「ん」
と、紙を差し出してくる。迷子犬の捜索依頼書だった。そこには飼い主による似顔絵が描いてあるが、なかなかの画伯っぷりだった。
「これは…なかなか厳しいですね」
「うん」
大型犬なのはかろうじて伝わってくるが特徴がわかりづらい。
老犬だから時折フラフラと散歩しては、帰ってこないことがあったらしい。
これまでは、近場を捜索すれば見つかったが、今回はそうもいかず、冒険者に依頼したようだ。
「それにしても、よくこんなの受けましたね」
「うん、かわいそう」
可愛い。いや、違う。可哀そうだよね。うんうん。
手伝ってあげたいのはやまやまだが手がかりが少ない。どうしたものか。
と、二人してうーんうーんと考えていると声を掛けられる。
「店長殿!おはよう」
本日もきっちり鎧を着込んだアルリアだった。
「おはようございます。あ、えーっと」
あぶねぇ、名前を聞いてないことをギリギリで思い出した。
「む、そうか、私としたことがそういえば自己紹介していなかったな。王国騎士第二部隊隊長、アルリア・ウォードだ」
「ロイです」
「…イレイナ」
そういえばイレイナから直接名前を聞いたのも初めてだった。
「ふむ、迷子犬か…一応門番に届け出がされているか調べることもできるが」
「おねがい」
「了解した。だが今まで、動物が届けられたことは私が騎士団に所属してからはなかったはずだ。あまり期待しないでほしい」
「…」
あぁしょんぼりしていらっしゃる。
でもなぁ、俺も店を開けなくてはいけないのでそこまで時間が取れない。
くそう、勇者何してやがる。
アルリアと別れてからは、とりあえずウロウロしてみるが、それらしき老犬はいない。
まぁそう簡単に見つかっては苦労しない。
うーむせめて、目を増やせたら…おや?
「イレイナさん、召喚獣に探してもらうのは?」
「…あ」
まさかと思っていたら、自力で探そうとしていらっしゃったご様子。
「あの、差し出がましいですが武器は活かした方が」
「あのこたちは、家族」
「いや、そういう意味ではないですが」
「ん」
やばぁぁぁい!なんか選択肢ミスったぞ!!…いや、モブですらない自分に好感度も何もないか。
「手がかりが少ない以上、広い範囲を探すしかありません。であれば、家族の皆さんの力を借りた方がいいのでは?」
「…そうする」
そう言うと、足元に魔法陣が浮かび、氷狼フェンリルと傀儡人形クレイヒューマン、毛玉が出てきた。
フェンリルとクレイヒューマンは、どちらもゲーム内では優秀な召喚獣だ。
毛玉は…分からない。あんな、どこかの喫茶店の看板娘の頭に乗ってそうな毛玉はゲームには出てきていない。
「犬探し、これ」
と、絵を見せているがフェンリルは目を細めている。まぁわからないよね。
毛玉なんて、すぐにころころと何処かに転がって行ってしまった。
「追加情報ヲ要求シマス」
「ない」
「カシコマリマシタ」
畏まるのかクレイヒューマンよ。
フェンリルもまるでやれやれとでも言いたげな顔をして、毛玉とクレイヒューマンとは別の方向へ歩いて消えた。霊体化したのだろう。
「ロイ、わたしはこっち」
と指差している。
まぁここまでくれば最後まで付き合うか。患者より老犬を優先する薬屋はどうかと思うが。
「はい、では俺はこっちに行きますね」
「ん」
まぁ俺は普通の薬屋だ。歩いてたらばったり老犬が見つかるなんてことはあるまい。そういうのは勇者の仕事だ。
結果として老犬を見つけたのはなんと毛玉だ。後からイレイナに聞いたところによると、急に毛玉から遠隔で助けを乞われたかと思えば、裏路地で老犬が毛玉をクッションにしてくつろいでいたらしい。
ちなみに俺はというと――。
「お腹すいたにゃ!なんか食べ物よこすにゃ!」
魔力封じの首輪をつけられた猫獣人に馬乗りされていた。
ミャン、不幸な猫獣人。
ゲーム内のヒロインのひとりだ。
「フシャァーーー!!」
あの、俺は普通の薬屋のはず…。
薬屋 ロイ 普通の薬屋
召喚術師 イレイナ かわいい
王国騎士 アルリア 通りがかり
召喚獣 毛玉 ぎゅー…
傀儡人形 情報不足ミッション履行失敗
氷狼 普通に散歩してただけ
??? ミャン はらぺこ




