12.うちは召喚獣が店番をするような薬屋ではないはず
「…ん…ん!?」
な、なんで起きたら隣にイレイナが…?
「…」
「…あーえっと…」
あっ!?これイレイナのミニイベントだ。たまにプレイヤーの寝床に潜り込んでくるんだよな。…え?俺薬屋なんだが?
いや、間違えただけかな?隣がイレイナの部屋だし。
「…んぅ…」
実際に寝顔を見ると…なんか、こう…込み上げてくるものが…いや、くだらないことを考えていないで、さっさと起きて朝の準備をしなくては。
「きゅ!」
「おっと毛玉さん、おはようございます。イレイナさんならあちらですよ。まだ寝ているので静かに」
毛玉がころころと転がっていった。ゲームにいないし、キャラデザにも描かれていない、設定資料にもいない…謎の生き物だなつくづく…。
「きゅ?」
「…秘密」
「きゅ!」
台所に行くと既にリリが朝食の準備をしていた。
うちにメイドさんがいる…まだ慣れないな。
「おはようございます、ロイ様」
「おはようございます、遅れましたか?」
「いえ、お気になさらず」
どたばたと足音がする。ミャンだなきっと。
「おはようにゃ!」
「…おはよ」
お、イレイナも来た。
「イレイナさん、俺の布団に潜り込んでいたようですが」
「間違えた」
「ええ、そうですよね。住む人も増えてきましたし、扉にネームプレートでも掛けておきましょうか」
うち質素だから、間違えやすいのかもしれない。
「にゃふふ…間違えたにゃ?」
「間違えた」
「ほんとかにゃぁ?」
「ミャン様、そっとしておいた方が」
「…」
ん?何を話しているんだ?
「どうかしましたか?」
「「「なんでもない(です)(にゃ!)」」」
「そ、そうですか」
なんか息ぴったりだな…。
―――――
「すごいにゃ!」
それは夕方に発生した。薬屋の売り上げ計算をルミナとリリに手伝ってもらいながらやっていた時、イレイナが、
「パペットにやらせたら早い」
と言い出し、イレイナの召喚獣、傀儡人形クレイヒューマンを召喚した。
クレイヒューマンはイレイナに命令されると、驚きの速さで計算を処理し始めた。
「全部…確認しました。間違いありません…」
リリが計算球板を置き、そう言った。
「すっご、あんたとんでもないの飼ってるわね」
「ん」
「オホメニ、アズカリ、コウエイ、デス」
傀儡人形クレイヒューマンってこんなんだっけ。
ゲーム内では各ヒロインに二つ以上の戦闘スタイルが設定されている。
その中でもイレイナの傀儡スタイルは、相手のMPを奪ったり、デバフを掛けたりできるのだ。
まぁ…後に解放される三つ目のスタイルが強すぎて、後半の採用率は低いスタイルだが、刺さる敵にはめっぽう強い。
まさかこんな使い方があるとは…。
「お会計も人形にやってもらえばいいにゃ」
「オマカセ、クダサイ」
「いや、イレイナさんの召喚獣ですから、ずっと手伝ってもらうわけには」
「大丈夫、普段はフェンリルがいれば問題ない」
ぐりん、と人形の首が回った!可動域広いな!
「マスター、テイセイ、ネガイマス」
「きゅ!?きゅーーー!!」
お、人形と毛玉が抗議している。
「あなたたちが要らないわけではない。みんな家族」
「きゅ!」
「ハイ、マスターノ、カゾクデス」
「でもフェンリルがいちばん強い」
「…」
「…」
ば、バッサリいくな…まぁ戦場では命がかかってるから、ソロが多いイレイナが遠距離戦闘もこなせるフェンリルを選択するのは当然だけれども。
「だから、人形、ここでお仕事」
「カシコマリマシタ」
「きゅ!」
お、毛玉が自分は!?と言わんばかりにぴょんぴょん跳ねて、存在をアピールしている。
「毛玉が暴れると毛が舞うにゃ」
「…大人しくしてて」
「ぎゅぅ…」
すさまじく不服そうな顔してるな…。
「なんというか…イレイナって結構厳しいわね…」
「イレイナ様の教育方針なのでしょうか…」
というわけで、会計カウンターに人形が座るようになった。
これは…
普通の薬屋…なのか?
いや、うん。
普通の薬屋のはず。
薬屋 ロイ ネームプレートを検討
召喚術師 イレイナ 意外と厳しい
氷術師 ルミナ 実は計算もできる程度に教養がある
奴隷 ミャン イレイナが怪しいにゃ
メイド リリ 傀儡人形…屋敷にもほしい…
召喚獣
毛玉 不満
傀儡人形クレイヒューマン 不満
氷狼フェンリル 未登場なのに株が上がる




