第340話 さっくさくです
それから、三階層の攻略はさくさくと進んだ。
最初に会ったプレーリーシープの他には、アルミラージという長い角が一本生えたウサギ型の魔獣と、コッコヘンという軍鶏くらいの大きさの鶏型の魔獣が出てきたが、りのも一度見た後は興味がわかず、今までと同じようにりのが索敵し、それをロゼリアが切り捨てるというパターンでボスエリアへ入った。
ここのボスエリアは十メートル四方の平原。なぜか整地されておらず、濃い芝生の上に大型犬くらいのアルミラージがどすんと座っていた。
「ふてぶてしい……うさぎなのに、かわいくない……」
「そうですね、可愛げはありませんので、さっさとやっちゃってください」
「はあい。何使おうかなあ……あ、こんなのどうだろ。『ウォーターカッター』」
丸のこみたいな水の刃がぱしゅんとアルミラージの首を切る。
一瞬の空白ののち、すとんとその首がずれて血に落ちた。
ぷしゅー、と青い血が噴水のように吹き上がって、りのは顔をしかめる。
(周りに人がいるときは使いづらいなあ。まあ青いだけマシか)
ドロップはウサギ肉。それに魔石だった。
「はいラウさん、どうぞー!」
「ありがとうございます。でも本当にいいんですか? 多少なりとお金になりますよ?」
「大丈夫です。私にはよくわかりませんけど、なんか珍しい? んですよね? じゃあラウさんに、指導のお礼です」
アルミラージの魔石は茶色をしていて、ちょっとスモーキークォーツに似ていた。
やはり純度が高いんですよねえ、と困惑しているラウをよそに、今度は壁ではなく地面がずずず、とスライドし、平原の一角に四角の穴があいた。
ちらりとのぞくと、坂ではなく、少し急な階段だ。
「ラウ副支部長、行きましょう! リノア様に先ほどの魔法の詳細を聞きたいですし!」
「はいはい。考えている場合ではないんですが、考えてしまいますねえ」
いやあ楽しいなあ、楽しいですねえ。
魔術狂いの二人がわきあいあいとその階段を下りていく後に、りのたち三人も軽く肩をすくめあってついていった。
階段を下りきったら、今度はそこにドアがひとつ。
隊列を整え直し、先頭のアダンがそのドアに触れると、押し開いたかのようにぱかーんと開いた。
「うん、四階も平原。三階と同じ感じですね。――――ああ、でもたしかに複数で群れてるなあ……」
りのが「サーチ」を見ながら呟く。
「この場所から、どの辺りまで魔力で感知できますか、リン?」
「ええと、この程度の広さなら全部ですかねえ」
ラウがくいと片眉をあげた。このエルフさんは仕草が独特で、ちょっとオーバーリアクション気味で楽しい。
「ボスの位置まで?」
「突き当りにいる一番大きな魔力を辿ればいいんですよね? ならわかります」
「聖女様の魔術って本当に規格外ですよね! リノア様、普通はそんなことできませんよ!」
「え、そうなんです? でもユーゴ様とか」
「ユーゴでも百メートル先はわかりませんね。もちろん、習熟すればするほど範囲は広がっていきますから、いつかはできるのでしょうが。ゴールドランクでも五十メートル行くか行かないかくらいですよ」
「森とかだとそれで十分だったりするしな」
ありゃー。
「そっかあ……というか、そもそもユーゴ様を比較に出して考えるあたりがだめですね?」
「ですねぇ。リンが冒険者として活動するときや街にいるときは、通常の冒険者のレベルを考えて話す方がいいですね」
「そうします」
お話で読むにはとても楽しいけれど、インドアなりのには「やっちゃいました?」はハードルが高すぎる。あらためて心を引き締めながら四階層に入った。
三階と四階は出てくる魔獣の種類も同じということで、四階を進みながらラウは以降の層の説明を始めた。
索敵はゼノンが、露払いはアダンが代わってくれたので、りのはロゼリアを護衛にラウの言葉に集中する。
五階と六階は草原エリアで、この平原エリアよりも草の高さが高く、魔獣を視認するのが難しくなるそうだ。
ここでは今までに出てきた魔獣に加え、ゴブリンと、コボルトという犬のような魔獣にイノシシ型、それに蝶や蜂のような飛行する虫型が出てくるという。
ぴきっと固まるりのに、ロゼリアがすかさず、ここでは蚊のような虫は出ませんよ、ある程度大きさのしっかりした虫ばかりですからとフォローしてくれて、ほっとした。
やっぱりロゼリアが最高です……!
七、八階は林のようなエリアだそうだ。森というほど深くはなく、日も入るし戦うスペースも広くとれる。
出てくるのは今までの魔獣に加え、シカ型とオーク、そして蜘蛛型だという。
「蜘蛛かあ」
「苦手ですか?」
「見てみないとなんとも……でも、糸を落とすんですよね、きっと」
「そうですね。蜘蛛系のドロップはほとんどが糸です」
それは興味がある。ララたちに教えてもらったり本で読んだりした、魔獣素材の糸だ。
「九階と十階は森エリアです。クマとオオカミが出ます。今日はこの辺まで進んでおきたいですね。十階のセーフエリアは広いしきれいなので」
「きれい?」
「人の来ないダンジョンは、セーフエリアの整備も手が回らないんですよね。トリスールは十階だけ、トイレやかまどの整備をしています」
「かまどまであるんです!?」
「冒険者にとって食は大切ですからね。見習いのうちに一度は料理を教えておこうという方針です。まあ大体は一回きりになりますけどね……」
わあ、ラウさんが遠い目をしている……。よっぽど料理実習がうまくいかなかったんだな……。
「じゃあさっさと十階まで行って、今夜はしっかり料理しましょうね」
りのはやる気を入れなおした。
そこからは本当にさっくさくだった。
一応、各層のフロアボスはすべてりのが練習で倒したが、ゼノンに攻撃魔術を教えてもらって試したり、「ウォーターカッター」の火、風、土、光、闇のバージョンを試してみたりしているうちに、あっという間に光に還った。
六階までは百メートルほど、十階までは二百メートルほど歩くだけで済んだので、走ったらもっと早かったかもしれない。
ゴブリンやオークといった二足歩行の魔獣にも会ったが、やはりどう見てもヒトには見えなかったし、異物感もすごくて、攻撃にためらいを感じたりはしなかった。
「わーい、到着―!」
そうして到着した、十階層のセーフエリア。
フロアの端っこで、ボスがいるところよりも少し入り口に近い壁際にあるそこは、なぜか魔獣が近寄らないようになっているそうだ。
「――――キャンプ場ってこんな感じなのかなあ」
テントエリアが中央にあって、いくつかたき火の後が残っている。
右奥にはかまどがいくつか、左奥には小さな小屋のようなものが二つ。あれがたぶんトイレだろう。
こちらのトイレは、聖女エイコが作ってくれた浄化の魔術陣を使っているので、ぼろかったりせまかったりはしても、汚いということはほとんどないのでありがたい。
(英子さんありがとうございます……!)
「リン、テントはりますよー」
「あ、はい」
ラウが楽しそうな顔でりのを手招きするので寄っていくと、ラウがぽんと小さな包みのようなものを地面に投げた。
ぼふっ!
「ひえ!?」
軽い爆発音がして、驚きのあまり飛び上がると、ラウが楽しそうに笑う。
ほんっとこの人いたずら好きすぎる……! 上品美人なお顔とのギャップで攻めてくるのどうかと思います!
りのは愚にもつかない文句を心で呟きながら、何が出てきたのか、目をこらした。




