第341話 謎が増える
目の前に現れたのは、かなりの大型テント。なぜかもう直立して出来上がっている。
そして、テントというよりは、
(ゲル……だっけ?)
三角テントではなく、円形で白いつやつやした壁があって、その上がゆるやかなカーブの天井になっている。煙突は突き出ていない。入口のところは木製のドアがはまっている。
「これがいわゆるダンジョンでドロップしたテントです。ドロップ品の中でもアーティファクトと呼ばれます」
「アーティファクト……ダンジョンでドロップする、何に使うかよくわからないもの? でしたっけ?」
「そうです。どういう仕組みでできているのか、何に使うのかもわかっていません。テントにするととても便利なのでテントとして使っていますが、本当にテントなのかはわからないのですよ。ドアがあるので、家に類するものだと思われる、というところです」
これは大型ですが、小さなのもあります。そちらはあなたとロゼリア用に後で建てましょうね。
ラウがひょうひょうと言った。
「――これって、ダンジョンからドロップした、んですよね?」
「そうですよ。これはどこでしたかねえ……たしか、神聖オルレシウス帝国のシ―リアダンジョンの最奥だったような。使用用途のわからないアーティファクトは、だいたい大きなダンジョンの最奥で落ちます」
「シ―リアダンジョンは百二十階層まである難関ダンジョンだ」
いつの間にか横に来ていたアダンがぼそりと教えてくれた。
「よくアーティファクトが落ちるところとして知られてる」
「アダンさんも行ったことある?」
「俺はないな」
行ってみたかったが、と珍しくぼやくアダンに、ラウが軽く笑った。
「冒険者とはいえ、アトラロの貴族がオルレシウスへ入るのはなかなか難しいのですよ」
「あー……国際問題化するって感じですか? オルレシウスだから?」
「そうです。どこの国でも火種を求める者はいますが、あの国はちょっとおかしいですからねえ」
「リン、入ってみるといい」
「あ、うん」
中に入る前に、りのは外側の布に触れてみた。
(これ、テーブルクロスとかでよく使う、防水の布では……?)
木のドアを潜ると、中は思ったよりも広かった。
二本の柱で支えられ、天井は中心から放射状に広がった梁の上に白い布がかけてある。天頂部分は、どうやら開け閉めができるようだった。煙突用の小さな開口部があるのも見える。
地面はむき出し。壁に触れると、少しふかっとしていた。表面は良くつんだフェルトで、模様も入れてある。鼻を近づけるとウールの匂いがした。
(中に防寒用のフェルトを重ねてるかもしれないなあ……で、外側は防水の布、内側はよくできたフェルト……やっぱりゲルやんけ!!)
きれいな建物が好きで、でもわざわざ外国まで行くのもな……というインドアなりのは、ネットで世界各国の建物の画像を見るのにハマった時期があった。その時に何度か見た、遊牧民が暮らすテント。まさしくその造りをしている。
(何で向こうの世界のゲルが、こっちの世界にあるの? わけわからん……)
考え込むりのを尻目に、ラウは楽しそうだ。
こっちは私とアダンとゼノンで使いましょう。リンたちのテントも建てましょうか。
そう言われて、一度りのはゲルの外に出た。
ゲルの後ろ、壁に近い方に、またラウがぽんと小さな包みを投げ、ぼふっと音がして。
(!?)
そこにまたもや突如現れたのは、とんがりがメルヘンチックな、アイボリー色の円錐型テントだった。
天井が高い。りのやロゼリアなら、テントの中でも立てそうだ。ネイティブアメリカンのテントのような素朴な風合いがとてもかわいい。こちらも、ゲルほどではないがけっこうな大きさがあった。
「中を見てみてください、リン」
「あ、はい……」
おそるおそる中を覗こうとして、りのは愕然とした。
(これ、ファスナーじゃないの!?)
開け放たれた入り口部分にプラプラしているのはまさしくファスナー。
動揺を押し隠して中に入ると、中には壁面と繋がった床があり、さらにその上に敷物があった。しゃがんで指で触れてみる。
(これ、化学物質的な何かでは……? というかぶっちゃけエアクッションというやつなのでは……?)
りのはキャンプに行ったことなどないから初めて見るものばかりだが、それにしたって、向こうの世界のものに似すぎていないか?
(ひとだけじゃなくて、物もさらわれてきたってこと? 誰に?)
入り口の下のところに、一筆書きのシロクマのような絵が描いてあるのをちらりと見てとった。
(後で調べよう。もしかしたら本当に向こうのものかもしれない)
謎は深まるばかりだ。
テントをたてて……投げて? その後、りのはかまどを見に行った。
粘土を固めて作ったようなそれは、箱型の下のほうに薪を入れるところがあり、上の方に鍋などを置く穴があけてあるという、原始的な造りのかまどだったが、地面はちゃんと固めてあるし、割れもなく、ちゃんと使えそうだった。
「何を出そうかなあ」
迷っていると、ゼノンがふらりとやってきた。
「ゼノン君」
「リノア様、夕食の支度ですよね?」
「そう。ちょっと早いかな?」
「早い方がのんびりできていいと思いますよ。何かお手伝いすることありますかー?」
「あるある! 何が食べたいか教えてほしいー」
りのは、準備してきたものをずらずらと伝えて何が食べたい? と聞くと、ゼノンはものすごく悩んだ結果、
「じゃあクリームシチューと、パンと、焼き野菜がいいです!」
「おっけー。あ、そうだ、パンに焼いた野菜やお肉を挟んで食べるようにしようか?」
アダンやロゼリアといった大食漢でもお腹がいっぱいになるようにボリュームアップは大事だろう。
「いいですねえ! ただ、どれも肉としてはいまいちなんですよねえ」
残念そうなゼノンがおかしい。
「腕のある冒険者さんは、ダンジョンの深いところに行っておいしいもの食べられるもんね、初心者ダンジョンのお肉じゃ物足りないよね。せめてチーズとかソースとかでごまかすか……」
「え、塩焼きじゃないんです?」
「塩焼き食べたいなら作るけど」
「いえっ、他の味がいいです! ダンジョン潜ったら塩かけて焼くくらいしかしないので、もう塩焼きは飽きました……!」
めずらしくゼノンが魔術以外のことで必死だ……。
りのは、う、うん、わかった、と引きつった笑みを返す。
「じゃあオークとアルミラージを焼こうかな」
「肉の大きさだったら、プレーリーボアやフォレストディアや、フォレストベアの方が大きいですよ? まあプレーリーシープも含めて、臭くて食いにくいですけど」
「その辺りのお肉は、料理しないとおいしく食べにくいんじゃないかなあ。オークとアルミラージはクセがないから、簡単な調理でも食べられる、はず!」
「そうなんですね」
りのは、マジックバッグから一枚の大きなまな板を出した。調理台とまな板の代わりに持ってきたものだ。ドロップしたオークとアルミラージの肉を出し、スライム紙をはがす。
「『カット』」
「へぁ!?」
隣で美形には合わないような声が聞こえたが、まあいいや、とりのは魔法で次々と肉を切った。野菜はあらかじめ焼き野菜用にカットしてきている分を使った。必要があれば細かくするが、今はこれでいい。
その肉たちに、粉末にしたぺリアノと塩とニンニクで下味をつける。ぺリアノは臭みとりに使うハーブだが、風味はない。
少し考えて、アルミラージの方にはネシスオイルと蜂蜜を少し、オークの方にはロマニというローズマリーの風味のするハーブとショウガを加えておいた。
二種類の肉を、今度はフライパンで焼いていく。焚きつけの火は魔術ですぐについた。
アルミラージはバターで、オークはネシス油で焼いていく。
お肉を焼き終わったら、続いて野菜を焼いて、次にパンを焼いた。それらを数枚の木のお皿に並べる。
「よっし、『クリーン』。ゼノン君、お皿運んでー。――ゼノン君?」
かえって来ない返事を不審に思って横を覗き込むと、ゼノンがきれいなパライバトルマリンの目を全開にガン開いて硬直していた。
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