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インドア聖女は早くおうちに帰りたい  作者: 和原茉白


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335/363

第335話 アトラロの外へ


「……って言ったの」


 トリスールダンジョンへ向かう途中、きれいな泉のほとりで休憩中。

 ラウに、講義の後、新人たちとどのような話をしていたんですか、と聞かれたので、素直に話すと、ラウが爆笑した。

 泉の水を飲んでいた馬たちが、若干迷惑そうにラウから少し離れて、また水を飲んでいる。


「すごい切れ味だったぞ」

「アダンさんほどじゃないよ! かわいそうに、あの女の子、ジェニーって名前だったけど、泣きそうだったんだからね!」


 泣かせとけばいいんじゃないですかぁ、自己責任でしょうにー、と首をかしげるゼノン。

 ロゼリアと顔を見合わせて、りのはこのメンツ濃すぎのうえに強すぎない? とがっくりした。




 冒険者登録をしてから、りのはすぐにラウ達と合流し、「森の門」を潜ってアトラロから出た。


 アトラロは城壁に囲まれた都市で、四つの城門が存在している。


 一つは、北西にある「湖の門」。シャルニエ領にあるダルキエル湖へと通じる道へ出るのでそう呼ばれている。

 南西にあるのは「海の門」で、海と接しているシプラスト領につながる道に出る。

 南東には「河の門」があり、ここはファニア大河にある大きな船着き場への直通道路が連結されている。

 そして北東にあるのが、冒険者ギルドのすぐそばにある「森の門」。ここはロード四家のおさめるズワト山脈への道に続いていた。


 アトラロから出るのが初めてのりのは、もちろんこの城門を見るのも出るのも初めてだった。どの門もそうらしいが、それほど大きくはないが異様に高くぶ厚く、防衛を念頭に置いてあるごっつい門で、目を丸くして見入ってしまった。


(初めてアトラロの外に出たなあ……ちょっと感慨深い)


 門を出たら、そこでラウとアダン、ロゼリアは厩舎から自分の馬を引き出してきて、りのとゼノンに紹介してくれた。

 この「森の門」をふくめ、四つの門の外側には大きな厩舎がある。国が資金を出し、冒険者ギルドと運送ギルドが共同で運営している厩舎だ。冒険者たちは自分の馬をここに預けてアトラロへ入り、アトラロから出るときに引き取っていく。

 アトラロ市内は、馬車をひく以外の馬の飼育は騎士にしか許されていないため、ラウはここに自分の馬を預けているのだった。

 アダンとロゼリアは、自分の愛馬を昨日までにこの「森の門」の外の厩舎に預けておいたそうで、ここからりのはロゼリアの、ゼノンはアダンの馬の後ろにのせてもらって、トリスールダンジョンへ向かっていた。



 トリスールダンジョンは、この「森の門」を出て少し進んだところをファニア大河の方に折れた先にあるそうだ。

 アトラロから近いというのも、ラウがダンジョン見学に選んだ理由の一つだったらしい。

 今は、その道から少し外れたところで休憩中である。




「それにしても、リンの冒険者ギルドの情報を確認したのですが」


 さらっと個人情報を見てきたよというラウ。

 まあこちらの世界にプライベートとかプライバシーとか言う概念はないので、りのも何も言わない。


「五属性ということにしてよかったのですか?」


 ああ、とりのは頷いた。


「ラウさんやアダンさんと知り合いである理由になると思うので」

「俺たちと?」


 眉をひそめるアダン。


「だって、二人ともラハラン支部の有名人でしょ? その二人と知り合いだっていう理由がいるなって思ったの。案の定、新人冒険者の子にも言われちゃったし」


 ジェニーからすれば羨ましいやら妬ましいやらだったのだろう。

 そこで素直に聞いてくるあたりは好感が持てる、というか、わかりやすくてかわいいと思う。


「なるほど、五属性持ちの新人魔術師なら、ラハラン支部の副部長である私はあなたを育てようとするでしょうし、アダンも育てて第三騎士団へ引っ張りたいのだと思わせられるということですね?」

「そうです」

「では、体力と魔力をわかりやすく偽装したのは?」


 六百と千五百。

 綺麗に揃いすぎていますよね。アルカが端数をつけるほうがいいとお話したと思うのですが。

 そういうラウに、りのは頷いた。たしかにアルカにはそう言われた。数値の偽装は、冒険者ギルドの許可がいるため詐欺にはならないが、できるだけ自然に見せるほうがいいと思う、と。


「ええと、偽装してるなってわかったら、警戒するでしょう?」

「それはするな。冒険者ギルドの許可があるからこそ、ヤバいネタを持ってんじゃねえかと思う」

「そうそう。こいつ絡んだらヤバいなって思ってほしかったの。アレコレ詮索されたりするの面倒だし」


 さっそく絡まれてましたもんねリン、腹が立ちますね、とロゼリアが一緒に怒ってくれて嬉しい。かわいい。

 強さを控えめに申請しているというのは、強さがすべての基準である冒険者としては異質だ。その辺を警戒してくれれば、トラブルも減るかなー、減ったらいいなーという目論見である。


 水を飲み終わったロゼリアの愛馬が、とことことやってきて、ロゼリアに鼻筋をこすりつけて甘えはじめた。

 馬は大きいけどかわいい。でもまだちょっと怖い。

 ちょっとおじけづいたりのに気づいたのか、ロゼリアが自分のバッグから何かを取り出した。


「リン、手のひらを出してください」

「てのひら?」


 はいっと差し出すと、ロゼリアがそこにオレンジ色の何かをのせた。


「……にんじん?」

「はい。――ほら、ミオン、リンがおやつをくれるって」


 ロゼリアの愛馬は、黒色のたてがみと茶色の体が美しい。鹿毛という色の種類になるんだそうだ。

 少しだけたれ目で、ものすごくつぶらできゅるんとしていて、まつげがきれいにカールされている。

 初めて会った時、かわいいねえ、お嬢様みたいだねえと言うと、ミオンは照れたように前足で地面をかいていた。

 

「ミオン、おいでー」


 そっとてのひらをミオンの前に差し出すと、ミオンがロゼリアの横からぐいんと首を伸ばしてきた。


「ううう馬の首、長くない!? すっごい伸びた!?」


 りのの素朴な驚きに、和やかな笑いが広がる。

 ミオンはりのの手のひらにそっと舌を伸ばして、ぺろりとそのにんじんのかけらをすくいとった。

 りののてのひらに、生暖かく濡れた感触がふれる。


「ひょえー」

「本当に、リンは馬に慣れてないんですね。何でもできるから、馬も乗れると思ってました」

「なんでもはできないよ、できないことの方が多いし。それに、私の世界では、馬は限られたところで、限られた人しか乗らないんだよね……」

「でも、リンは経験がありましたよね? 乗り方の手順とかわかってたし」


 りのは乾いた笑いをこぼした。

 カナダを観光した時に、友だちに誘われて、ロッキー山脈でホーストレッキングをしたことがあったのだ。とても楽しかったのだが、その後、一歩も歩けなくなるくらいの筋肉痛に襲われた。あれが初めての延泊だった……。

 その時の痛みを思い出し、りのはこっそりと自分に「リカバリー」をかけた。「ヒール」をかけると筋肉が育たないような気がするので、動けなくなるまでは「リカバリー」で頑張る予定である。


「乗り方だけ覚えてたのよね……ってあだっ」


 後ろから、黒と白のまだらな大きな馬がつんつんとりのの背中を鼻先で押してきた。りのの貧弱な筋肉では、つつかれるたびにぐいんぐいんと体が揺れる。


「ちょ、ラヴァクさん、やめてもらっていいですか……!」


 ラヴァクはアダンの愛馬で、男二人をのせても平気なほどがっしりとしたすばらしい体格と筋肉を持っている。

 ミオンと同じくつぶらな目だが、眼光がやたらと鋭い。鋭すぎて、思わずさんづけで呼んだらそれが気に入ったらしく、ラヴァクだけでは反応してくれなくなった。

 一連を眺めていたラウはもちろん、ロゼリアやアダンまで笑いをこらえていた。


「わかった、わかったからもー、ちょっと待って! アダンさん、ラヴァクさんにおやつあげてもいい?」


 笑いをこらえながら頷くアダンがうらめしい。

 りのはマジックバッグからフラップジャックを取り出し、一本を二つに割って、ラヴァクに差し出すと、鷹揚に頷かれた。苦しゅうない。


(こ、こいつ……! 腹立つけどかわいい……かわいいのがまた腹立つ……!)


 横からすりっとミオンが頭をこすりつけて甘えてきたので、ミオンにもフラップジャックを上げた。甘いからおいしいのだろうか。


「はい、みなさんもどうぞー。ラウさん、ぺぺルもほしそうだったらあげてください」


 ラウの愛馬であるペペルは、たてがみもからだも真っ白で、青みがかった目をした美しい馬だ。すらっとして、ラウの雰囲気にもあっている。

 けれど、心底から気位が高いそうで、今のところラウ以外にはつーんとしていた。

 アダンだけは以前から面識があるらしいが、アダンにもつーんとしている。


 ツンデレお姫様なのねえ、でもそれもかわいい。


 ラウの手からフラップジャックをもらって嬉しそうに食べているペペルを眺めていると、ラヴァクとミオンにおかわりーとつんつん突かれて、りのは助けてロゼ―、と情けない声を上げた。




今日はここまで。お読みいただきありがとうございました。

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どうか楽しんでいただけますように!

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