第333話 冒険者リン・ミハイ
遅くなりましてすみません……!
ドアに片手を持たれかけさせて立っていたのは、やはりというか、アダンだった。
じろりと部屋の中をみまわした。それだけで、新人冒険者たちの間に緊張が走る。
オレサマ君も、粗い息をつきながら目を丸くしていた。
「リン、研修終わったのか?」
「終わったよー。その後からまれてた」
「あ?」
状況から察していたのだろう、アダンが床に片膝をついているオレサマ君を片目を眇めて見た。
(うっわ、けっこう怖い!)
憧れの人にこんな目で睨まれたら、オレサマ君のハートがくだけちゃう……!
りのは焦って、
「パーティーに誘われてたの」
「あ゛?」
ひえっ!
こっわ! こっわ!
言ってはならない一言だった……!
「まあもちろん断ったけど!」
「……そうか」
じゃあいい、行くぞ、とあっさり踵を返す。
りのがついて行こうとすると、
「待って! なんであんた、そんな優遇されてんの!? アルカさんに連れてこられてたよね!?」
おっとぉ。
後ろを振り返ると、一番前に座っていた少女が悔しそうにこちらを見ていた。
ボニーの話を熱心に聞いていた子だ。きっと向上心があるのだろう。
濃い緑色の目がぎらぎらしている。
「運が良かったから?」
正直に言えば聖女だからですが。
「な、にそれ、自分が幸運の乙女だとでもいうつもり!?」
幸運の乙女ってなんだろう?
よくわからないけれど、運は、無理やり召喚された時点でわりと悪いのでは?
「あたし、家族がもうこの世界にいないの」
ひゅっと少女が息を飲む。
「でも運よくアダンさんやアルカさんと知り合えた。運が悪い時もあればいい時もあって、それを頑張ってつかんだ感じだね」
「そんな、の」
「あなたにもそういう運がめぐってくるかもしれない。こないかもしれない。それは誰にもわからない。でもめぐってきた時のために、その運を逃さないように頑張るんだと思ってるよ」
ふふっと笑うと、先に行っていたアダンがいつの間にか戻ってきていた。
「知り合ったのは偶然っていうのは確かだ」
そうだね、ライリー団長は死にかけてたしアダンさんは土下座してたし、すごい偶然でしたね……。
「だが、俺たちがこいつの面倒を見るのは、こいつが努力家だからだ」
え?
りのもびっくりしてアダンを見ると、薄青の目がじっとりのを見つめていた。
「訓練も頑張って、魔術もすさまじく上達した。その経過を見ていたから、俺たちはこいつを認めた。ただ出会ったからってだけじゃねえ」
お前もそこはわかっとけよ、と言われて、こくりと頷いた。
これはちょっと、とても嬉しいかもしれない。
「それに、冒険者は強いかどうかが基本だ」
今度はまだ床に這いつくばっているオレサマ君をじいっと見つめ、
「こいつは強いから、メンバーにする」
それだけだ。
オレサマ君も魔術師君も、噛みついてきた少女も、ぐっと唇をかみしめた。
(アダンさんきっついこと言うなあ……)
オレサマ君たちには、お前ら程度の強さでイキがるな。
少女には、お前程度の強さで運をつかめるものか。
暗にそう言っているに等しい。
それだけ言って、アダンは踵を返す。
うーん。
少しだけ迷って、りのは、唇をかみしめている少女の側に走り寄った。
「ねえ、あたしリンっていうの。あなた名前は?」
「え、……わたし、ジェニー……」
「ジェニーね。ジェニー、冒険者登録終わってウッドランク抜けて、その時にここで会ったら一緒にエールでも飲もう」
「え?」
「ジェニーがすっごい一生懸命ボニーさんの話聞いてたのを見てたの、後ろから。あたしそういうの好き」
ジェニーがぱっと頬を染めた。
「あたし、他の支部に移動する可能性もあるからまだわかんないけど、もし会えたら飲もう。まあひとまず、お互いにウッド抜けなきゃだけどね!」
「うん、――うん、一緒にエール飲みたいな。リン、ごめん、さっきわたし失礼なこと言っちゃった……」
「別にいーよ。気になるなら、次会った時の乾杯のエールはおごってよね!」
ジェニーは涙目になって、うんうん、と頷いた。
よし、これでこの子が折れる可能性は低くなっただろう。
りのはじゃあまたねジェニー、と手を振って、今度こそアダンを追いかけようとしたが、
「ちょ、ちょっと待て、待ってくれ」
オレサマ君が声をかけてきた。
りのはあえて足を止めずに完全無視した。アダンに会えただけで幸運、後は自分で何とかしろという気分だったし、ジェニーは質問をしただけだが、こっちは明確に失礼なことをしたのだから。
「なあ、おい、お前ちょっと待てって、え?」
オレサマ君の目が、りのの斜め上に固定されている。
すごい上。
りのもそちらに視線をうつすと、
「リン、登録はまだですか?」
「ラウさん」
「ラ、ラウ副支部長……!」
愉快犯エルフさんのきれいな顔が面白そうにこちらを覗き込んでいた。
「急ぎなさいリン、みんな待ってますよ」
「はい!」
ラウの後ろについて部屋を出たりのの後ろから、俺はトルベン・ベーム、強くなって絶対うちのパーティーにお前をいれるからな、と叫んでいた。
がんばれ、トルベン少年!
私が君のパーティーに入ることはまずないだろうけどな!
ラウに促されて一階に下りると、アルカが冒険者登録の手続きをしてくれた。
登録カウンターは、依頼受付や報告受付とは違う、職員のスペースの奥にあった。
お話の中では表にあったのになあと思っていると、登録機材の関係で一人ずつの受付になるから、確認も兼ねて奥に呼んでいるのだという。
ラハラン支部はイキの良いのが多いので、とほほ笑むアルカ。
(うん、それってあらかじめ圧迫面接しておくって話なのでは……さっきのオレサマ君、ここでぎっちりシメられるのでは……? まあいいか)
まず、アルカは、登録カウンターの下から小さな透明な石がついたボードのようなものを出してきた。
「これは『鑑定』の魔道具です。この透明な石に魔力を注ぐと、基本的な情報がこちらに出ます」
ふむ。
「ただ、隠したい情報は選択できます」
「え、そうなんですか?」
「はい。ここだけの話ですが、ユーゴ様はお名前を変えてありますし、魔術やギフトなどについても隠しておられます」
「ええと、ということは、正確なデータは冒険者ギルドだけが把握していて、私は表に出せる情報を選べるということですかね?」
そうなります、とアルカは無表情に頷いた。
「わかりました」
りのはあっさりとそう言った。
(「鑑定」の魔道具だっていうなら、私のステータスは読み取れないはず!)
ドキドキしながら人差し指をその透明な石にかざすと、ボードにはやはり前回と同じようなデータが出てきた。
【名前:リノア・ミハ●▲●◆●●◆■】
【年齢:▼●▼●】
【職業:聖◆/異世●●◆の渡り●】
【魔術適性:全】
【体力:▼▲▼】
【魔力:▼▲▼】
【ギフト】
【言語●■】
【■●】
【創▲魔術】
【スキル】
【料理】【魔力●作】【魔■●◆】【火魔術】【水魔術】
【風魔術】【土魔術】【光魔術】【闇魔術】
どうやら簡易鑑定のようなものだったらしく、レベルなどは見られないようだ。
アルカは出てきたそれを、さすがに驚いたように見ていたが、すぐに無表情に戻り、りのにどれを隠しますか、と聞いてきた。
差し出された紙に、りのはあらかじめ考えていた通りに修正点や隠したいところを記入し、アルカに渡す。
アルカはそれを、ギルドカードにインプットしてくれた。
ランクアップ時に再度「鑑定」の魔道具を使ってステータスを確認し、情報の更新をしていくのだという。
そうして、りののギルドカードは完成し、無事に冒険者登録が完了した。
「おめでとうございます、リンさん、これでリンさんは冒険者となられました。これからの活躍を願っております」
ピカピカのギルドカードを手渡されながら言祝がれて、りのは満面の笑みでありがとうございます、と返した。
【名前:リン・ミハイ】
【年齢:22】
【職業:魔術師】
【体力:600】【魔力:1500】
【スキル】
【料理】【火魔術】【水魔術】【風魔術】【土魔術】【光魔術】
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